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♪愛のレッスン     1971.10
 WHERE DID OUR SUMMERS GO
     作曲:Michel LeGrand 編曲:宮川泰
     演奏:宮川泰とルーパス・グランドオーケストラ
     録音:1971.06.09 キングレコード音羽スタジオ

    

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★ ★★★★★ ★★★★★ ★★★★★
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レコーディングにあたって……というピーナッツさんのコメントが載っています。

 レコーディングにあたって…………。
                   ザ・ピーナッツ
 私達は、映画が好きで、時間があると、よく見に行きます。
 そして、そのスクリーンに写し出された映像と共に、いつま
 でも心に残っているのが、映画音楽です。
  映画音楽は、楽しかったシーンや、悲しかったシーンを、
 笑いや涙と共によみがえらせてくれます。
  雪の中のテニスコートのラストシーンに流れた“ある愛の詩”、
 サスペンスと愛のドラマ“流れ者”、ジャン・ポール・ベル
 モンドが粋な作曲家で登場した“あの愛をふたたび”、ゴールデン
 ・ゲイトがあざやかに浮かぶ“サウンド・オブ・サイレンス”、
 カトリーヌ・ドヌーブが雨傘屋の娘になってセンチメンタルで
 悲しい愛を唄い上げた“シェルブールの雨傘”………………
  など、甘くロマンティックなフランシス・レイの音楽を中心に、
 想い出多いすばらしい映画の、一つ一つの場面を想い浮かべながら、
 レコーディングしました。特に、今回編曲を担当して下さいました、
 宮川泰先生のアレンジもすばらしく、そのサウンドと共に、私達の
 歌声を通して青春の愛と苦悩の日々を、思い出していただけたら、
 とても幸せです。

この文章を挟む形で下の写真が載っているのですが、なかなかいい感じ。

パチパチパチパチパチパチパチパチパチ……スタンディング・オベーションです。
さあ、これから嫌というほど絶賛するぞ。みな覚悟するように。
この曲、このLPこそ、これが、ザ・ピーナッツだ、と高らかに宣言したい。
誰がどのように聴いても、これはいいね、と頷くと思うんだ。
だから褒め方にも色々あるとは思いますが、ここは私なりの思い込みで書くんです。

「あ〜」のスキャットというのが理由もなくいいですね。
これはもうピーナッツの得意技。独壇場かな。
「チャッキリ・チャ・チャ・チャ」から「バイヤの小道」、「モスラ」の終曲でも
あ〜〜〜ですからね。ピーナッツ以外で「あ〜」で始めるのは牧伸二ぐらいか(笑)。
美しく力強い妙音を奏でる地声に恵まれたピーナッツを活かした用法です。

スタッフにとって、ザ・ピーナッツって素敵な素材だと思うんです。
極端にいうと、いい音色の楽器という面があるのではないでしょうか。
この曲は歌詞なしのスキャットだし、明らかに編成の一つとして扱われて、それが
いい感じなんです。他に類を見ない、と書きたいけど、類があるのかも知れません。
このLPにはスキャットが4曲も入っていて、これは異様そのものなんだけど。
流行歌手という狭い枠だけで評価して欲しくないという痛切な思いが通じたような、
爽快な気分にさせてくれます。わかってるね〜。いいスタッフだよなあ〜。

ピーナッツの多重録音って、四次元の世界に連れて行かれてしまうような感じです。
それに加えてマトリックス4チャンネル録音だから、後ろにも二人居るんです(笑)。
物好きな方は現在のCDでもその効果は得られますから、マトリックス接続にして
試したら面白いと思います。(スピーカーは4つ要ります)
通常の2チャンネルで聴いても左右のスピーカーの外側の音の出所のない場所から
3、4人目のピーナッツの声が聴こえるはずです。
これはわざと逆位相で収録されているからなんです。面白い効果です。

俗にスタンダードっぽい曲は、大概の歌い手は自分の存在感を誇示しようとします。
私が歌うとこういう味になりますって具合に、楷書体ではなくて草書体で歌います。
崩さなくて何で己が歌手か、みたいに、変わった歌い方を工夫するようです。
私はそんなに色んな歌の原曲を知りませんから、あんまり技巧に走って崩されると、
つまらん、わからん歌だなあと、ついつい思ってしまうんです。
「トゥー・ヤング」なんか、他の日本人歌手で昔聴いた時、全然いいと思わなかった。
それがザ・ピーナッツだと、メロディーの素晴らしさがよくわかったんです。

ピーナッツは歌い手だけど、いい聴き手なのかも知れません。
原曲の良さをストレートに何も足さないで引かないで表現しようとしています。
ザ・ピーナッツを売り込もうというさもしい根性はなく、曲を活かそうとしています。
宮川泰さんの編曲も随分と思いきったことばかりやっているように感じるけれども、
曲の良さをもっと引き出そうとする意向なので決してぶち壊しの変曲はしないんです。
ピーナッツもオリジナルを歌う場合よりもとてもリラックスして楽しんでいるようで
最高にいい味を出していると思います。
保証はしませんが(笑)、このアルバムのピーナッツの出来は世界一だと断定します。

あと蛇足なんだけど、
LPのデザインもいい。中のマークリー牧場を背景にした写真もとてもいい。
内容とのイメージのマッチングもいい。なにからなにまでいい。いい時代だった。

(2005.9.19加筆)