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♪イパネマの少年   1970.07
THE BOY FROM IPANAMA 
   原曲:A.C.Jobim,Mendonca 編曲:宮川泰
   演奏:オールスターズ・レオン コーラス:フォー・メイツ
   録音:1970.03.25 キングレコード音羽スタジオ
   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

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男性が歌うと「イパネマの娘」でこちらが一般的。原語ではGarota de Ipanema。
名曲ですが同時に奇曲とも感じられます。実に不思議な味わいのある曲です。
けだるい音楽というのが第一印象。聴いた事がない新種の音楽だと思いました。
しかし、この曲の凄いのは、かなり異文化の調べであるようなのにもかかわらず、
日本人の私にも深く心に刻み込まれてしまう、リズムと旋律なんですね、これ。

 ボサ・ノヴァはまさに私の年代にはリアルタイムな新興音楽でありました。
現地風のサンバとジャズがここでも異文化コミュニケーションしたのでしょう。
えらく、かっこいいものが流行り出したな〜という印象でしたが、良いモノは
時代を超えて生き続けるという典型的な例ですね。
さて、ザ・ピーナッツは、これをLPアルバムの中の「祈り組曲」というお題で、
宮川マジックによるメロディー仕様で聴かせております。

一曲をじっくり聴きたいところでもあるのですが、この仕掛けもなかなか楽しい。
宮川アレンジを最近の風潮では日本で一、ニを競う程の名人芸と評価する記事が
多いように感じられ、大ファンとしては悪い気はしないのですが、褒め過ぎです。
キャッチフレーズでは、現代のチャイコフスキーとまで持ち上げられてますが、
チャイコフスキーに匹敵するようなオーケストレーションじゃないと思う。(笑)
そういうのが魅力じゃないと思うんです。他に優れた方もいらっしゃいます。

じゃ、何が魅力か、というと、音楽的企画力とでもいうのでしょうか、適切な
表現が出来ないのですが、どうしたら楽しくなるか、面白くなるか、といった
サービス精神に溢れているんです。そして、茶目っ気が音楽にも滲み出ている。
音楽絵巻物みたいにサービス満載にしてくれる気持ちが伝わってくるんです。
私ら素人に率直に分りやすい音楽にしてくれるのです。

宮川作品登場初期は無国籍歌謡なんて言葉で侮蔑されたこともありましたが、
あれは全然違います。完全な日本人的感覚で、文部省唱歌と同じ音楽形式です。
西洋風な対位法を用いた高度な編曲部分は少なくて、三味線と太鼓で歌われた
日本的な音楽の流れを変えたり飛躍させたものではないと思います。
宇宙戦艦ヤマトにしたって殆ど口笛でイントロからエンディングまで吹けます。
スキャットの女声が入れられないのは、そこがミソの部分でしょうがない。
「高校三年生」や「リンゴの歌」と基本的に大きく違う音楽じゃないのです。
そして、そこが私は大好きなのです。
分厚いドイツ的に重厚な音楽創造には向かない作風だと思いますし、決して
新しいサウンドを追求するような試みにも向かないと(私は)思います。

「ボサ・ノヴァ」とは「新しい流れ」とかいう意味?なのが皮肉ですが(笑)。
祈り〜コンスタント・レイン〜君に夢中〜イパネマの少年と繋いで歌っている
この録音は、ピーナッツファンも宮川ファンも絶対に手元に置いて欲しいです。
両者の魅力が相乗されたかのような稀にみる銘盤だと手放しでお薦めします。
音楽性がどうのこうのというようなつまらん次元ではないのです。
音楽とは音を楽しめば良いではないか、それ以上になにが不足だと言い切れます。
シャボン玉ホリデーやステージで歌った、あの楽しさが今でもここに聴けるのです。
よくぞ、まあ、この録音を残してくれた、と涙が出るほどの幸福感に包まれます。

                    2002/09/10投稿