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♪ヴェニスの夏の日    1963.06
SUMMERTIME IN VENICE
原曲:Carl Sigman-Icini 編曲;宮川泰 演奏:レオン サンフォニエット
録音:1963.01.24 文京公会堂
    

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

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1954年公開のキャサリー・ヘップバーン主演の映画「旅情Summer Time」主題曲。
私はこれを観ていないと思います。(テレビでやってたかも知れませんが?)
この映画については色々なホームページがあるので眺めてみました。
画面自体は観光映画風で大変美しく、ハイミス女性のアバンチュールに走り切れない
大変古風な(日本人的な)心の葛藤を描いた渋い作品のようです。
映画の感動から音楽も心に残る場合とか、音楽から想像したらとんでもない場合など、
様々だと思いますが、この映画の場合には一層感激するものなのでしょうか?

映画に使われているのはロッサノ・ブラツィが唄っているヴォーカル盤なのですが、
私が持ってるのは、ピーナッツのとマントヴァーニ・オーケストラの演奏ものです。
共通するものと言えば、マンドリンと弦楽合奏で、この曲でのお約束らしいです。
マントヴァーニの演奏が演出満点でテンポが猫の目のように揺れ動くのに対して、
ピーナッツ盤は淡々と爽やかでリズミカルなのですが、このテンポが絶妙なのです。
実に最適なノリで、マントヴァーニより逆に旋律の本来の美しさが引き立ちます。
これは贔屓の欲目とばかりは言えないポイントだと思うのです。

たしかにマントヴァーニの合奏は至芸です。こんな凄いモノはないというくらいに。
マントヴァーニさんの出身地から考えても得意中の得意なのでしょうけれどね。
しかし、演奏の凄さが後味に残るようで、曲の良さが薄められる気もするのです。
その点、作為が余り感じられないピーナッツ盤では曲が大らかに奏でられています。
本来はこういう曲ではなかったのかしら、と不思議な感覚を抱きます。
例えばお馴染みのスターダスト。
世界中のどんな名歌手の歌よりもピーナッツの歌の方が曲が活きていると思うのです。
むしろ東洋のローカル歌手の方が、率直に名旋律を歌い上げているように思うのです。
私が日本人だから、そう感じているだけなのかも知れませんが、ま、それでもいいや。

正直に申しますと、私、このLPを買った時点では、この曲を知りませんでした。
この曲だけではなくて江利チエミさんが歌ってた曲しか聴いたことがなかったんです。
それなのに、この歌と「モナ・リザ」が一気に強烈に好きになりました。
ゆったりと流れる弦楽器の旋律も、なんて美しいものを編み出したのでしょう。
ここだ、というところで低弦が唸るし、ピッチカートの使いどころも最高じゃんか!
宮川泰さんの感性って凄いなと感じました。恐らく指揮もされているのでしょうね。
この頃はまさに油が乗り切っていたのではないでしょうか。
交響組曲などの演奏だけのレコードではオーケストラを活かし切っていないかな〜と
感じることもあるのですが、ピーナッツの伴奏では実にその程が良いのです。
そもそもピーナッツ自体がハモっているので、あまり複雑な和声が絡み合いますと
かえって、ごちゃごちゃし過ぎちゃうのかもしれません。

CDは「ザ・ピーナッツ・ドリーム・ボックス」「スタンダードだよピーナッツ!」
「ザ・ピーナッツ・ドリームCD・BOX」に収録されています。
一番最近のが「CD・BOX」なのですが、これはちょっと「音」が違います。
表記されてはいませんが、流行のリマスタリングが行われたのではと感じています。
一言で言えば「音が良くなった」のですが、世の中、そう単純ではないと思います。
声と楽器の分離が鮮やかになったし、個々の音の輪郭が克明にもなっております。
しかし、どうも、この曲の持ち味、肌合いという点で私は前作に惚れております。

私なりにリマスタリングについて調べたのですが、最終的には人間の耳で決めると
いうところが大切なのだそうです。自動的に良い音質に変えるわけではないらしい。
ですから、明らかにデジタル・リマスタリングと謳っているピーナッツの一枚物でも
やあ、これはいい、という曲と、似合わない曲があると思います。
「銀色の道」はいいけど「恋のオフェリア」はいかん、とか。微妙なんですが。
人間の感覚って結構いい加減なもので、スピーカーを買うのに聴き比べをする時に、
切り替えた時に能率の良い(同じパワーでも音が大きい)ものが良い音に聴こえます。
また、アナログレコードからCD-Rを作る際にも、レベルを高く焼いたものの方が
ちょっと聴きにはいい音かな〜と感じてしまうものなのです。これは錯覚です。
だけど、CDは永く聴くものです。音が滲んで溶け合うべきところはそれなりに、
際立たせて分離して鳴らせないようにしないと、単調なものに化けてしまいます。

この曲は、もちろん、弦楽合奏とピーナッツの歌の美しいハーモニーが持ち味です。
文京公会堂に響くホールトーンもが暖かく私を包み込み、耳が洗われる気分です。

                 2002/10/05投稿