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♪ウェルテルへの手紙(若きウェルテルの悩み)  1968.12
  原曲:Ludwig van Beethoven 

  作詞;なかにし礼 作・編曲:すぎやまこういち
  演奏:レオン サンフォニエット (混声合唱つき)
  録音:1968.08.02 キングレコード音羽スタジオ
   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

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ゲーテの大傑作「若きウェルテルの悩み」より。
青春の悩みに自らの命を断ったウェルテル。
今は亡きウェルテルに、ロッテはきっとこんな手紙を書いたかもしれない。
すぎやまこういちはゲーテと親交のあったベートーベンのシンフォニィからヒントを
得て、この曲を一気に書き上げました。

ちなみに、ベートーベンの交響曲第7番第2楽章は「葬式の行列」と呼ばれています。
↑ 久々の「世界名作シリーズ」の曲ですので、シリーズ仕掛人のなかにし礼さんの
この曲の紹介文を先に引用しました。

この曲はなかにし礼さんのコメント通り、交響曲第7番イ長調作品92の第2楽章が
ベースになっていますが、表記では、すぎやまこういち作曲として扱われています。
でも、ほぼ80%が原曲と思っても良いくらいで、大変ユニークな曲となっています。
初頭からオリジナル通りの和音が響き、バックは原曲と同じ演奏をしているのです。
そこに、すぎやまこういちオリジナルメロディーが被されて歌われていくのですが、
まるでそれは、すぎやまメロディーに合わせてベートーベンがオーケストラ編曲を
したかのようにフィットして、希にみる不思議な曲が誕生してしまったのです。

元来が珠玉の名曲ですから変な旋律を付加させたらぶち壊しになりそうなものですが、
ベートーベンさんが刻むリズムに匹敵する気品溢れんばかりのメロディーが乗って、
芸術の香り漂う作品が出来上がったと私は感じます。
ただ、ちょっとザ・ピーナッツには荷が重い。これは歌手には大変な曲だと思います。
なら、誰なら似合うのか、というと、誰も適切な人は見つかりません。
だから、ピーナッツでいいのだし、ピーナッツ向けに作ったわけですからね。
世間一般向けには殆ど知られていない存在ですが、私は快作だと信じています。
このベートーベンの交響曲第7番はとてもリズミカルでポップス・歌謡曲がお好きな
方でも、割と入って行き易いシンフォニーだと思うのです。

ウィーンフィルハーモニーという大変有名な管弦楽団が川崎市の出来たてのホールで
演奏するという稀なチャンス(追加公演)があって聴きに行きました。
「美しき青きドナウ」という定番メニューは期待通りの優雅さで楽しめました。
ところが、プログラムの最終曲が、このベートーベンの交響曲第7番だったのです。
とにかく、ぶったまげました。こんな恐ろしい演奏、音楽は初めて体験しました。
指揮はゲオルグ・ショルティさんという歌劇を振って定評のある方だったのですが、
あのほわ〜んと牧歌的な音色を聴かせるホルンまでがゴジラの咆哮のような凄まじい
炎を吹き出して鳴り喚くわ、弦楽器だって、こんなダイナミックに鳴るものなのかと
ばかりに物凄いエネルギーがこっちに向かって突進して来たのです。

生音だけの演奏。それも名人芸ともなると、どんなに出力のデカイ音響機器を使った
ライブコンサートよりも、その音楽エネルギーというものが桁違いに凄いものなのか
一度体験される価値があると思います。
ダイナミックレンジというオーディオ用語があります。小さい音から最大音の幅です。
S/N比という言葉もあります。音楽信号と雑音の比率です。大きい方が良いのです。
観客がギャーギャー、ザワザワしている中で演奏する音楽は大音量でなければ無理。
しかし、慢性的な大音量は慣れると快感はあっても、真の感動は生まないと思います。
クラシックの演奏会はこのダイナミックレンジ&S/N比が優れております。

ザ・ピーナッツのステージも、いつもクラシック演奏会なみの雰囲気がありました。
グループサウンズがお目当てで来られた聴衆もじっと聞き入る感じだったようです。
固唾を呑んで、良い歌を、その芸を見聞きしようとしていたと思います。
ただし、デビュー当時の舞台は私は知りません。きゃーきゃー騒がれたのかも?

イベント性、話題性、といった流行で、CDが売れ、武道館も満員になったりする。
行った人もお祭りに参加したような満足感を得。興行主は脱税したくなる程儲かる。
私も体で感じるような音楽や喜怒哀楽感覚の感情面に訴える音楽が入り易いです。
でも右脳だけを刺激するのではなくて、たまには左脳も動員するような音楽も聴く
方がバランスが良いのかも知れないかな、とか思います。眠くなるけど...(笑)
ザ・ピーナッツもユミちゃんが右脳で、エミちゃんが左脳という感じを受けます。

     2002/10/10投稿


どんな記録が後年に活きてくるのかわからない世の中なので、なんでも追記して
おいた方が良さそうと思い、補足しておきます。
さすがにウィーン・フィルハーモニー管弦楽団という超メジャーなオーケストラ
ともなりますと、来日記録というものもちゃんとネット上に存在しました。
私が見に(聞きに)いったのはこれです。
川崎市にウィーン・フィルが来るなんてのは後にも先にもこの一度だけかも?
臨時追加公演だったので奇跡的に券を入手出来たということです。

1969年2月18日:川崎産業文化会館
  シューベルト /交響曲第7番「未完成」
  アイネム   /フィラデルフィア交響曲
  ベートーヴェン/交響曲第7番

「フィラデルフィア交響曲」って何? と思われるかも知れませんが、この曲は
1960年に作られたものなので有名ではないし、殆ど演奏されないでしょう。
プログラムでは予定されていないのですが、「美しき青きドナウ」を初っぱなに
演奏しました。お馴染みの曲でご挨拶というサービス精神なのでしょうか?

指揮者の(サー・)ゲオルク・ショルティという人は日本での評判は良くはない。
強引すぎるとか精神性に欠けるとか、好きな人は著しく少ないようだ。
ウィーン・フィルとの相性は水と油で最悪と言われ、ご本人もインタビューでは
ウィーンの道路で好きな場所は空港へ向かう道筋だ、などと言っている。(笑)
この人はリズム感が鋭敏であり、合奏が完璧に揃わないとイライラするそうで、
そういうのはウィーン流儀じゃないので、何時も喧嘩腰だったようだ。
リハーサル中にメンバーが帰ってしまうこともあり、英デッカレコードの仕事で
一緒には仕方なくやっているが、お互いに付き合いたくなかったみたいだ、

なのに、そうでありながらも、空前絶後、世界最高のレコード芸術を残したのだ。
ウィーン・フィルとの「ニーベルングの指環」全曲スタジオ録音がそれだ。
既に入手は難しいだろうが、私のようにいい加減じゃなくて、きっちりと音楽を
理解し、愛する人はどんな手段を使っても手に入れるべきじゃなかろうか。
これ以上に価値のある録音というものは、金輪際現われるはずもないでしょう。
http://www.esoteric.jp/products/esoteric/essd90021_34/index.html

まあ、そういうわけで……「美しき青きドナウ」なんてのは、ショルティさんは
なにも指揮していないようでした。本当に立っているだけ。聴いてるだけ。
そもそも、この曲にゲスト指揮者なんて存在は要らないのだ。
100%伝統芸であって、ハンガリー生れの彼や、満州生れの小澤征爾さん等の
解釈が入り込む余地はありません。指揮じゃなくて踊ってるだけです。

しかしながら、どうにも評判の悪いショルティさんなのですが、ベートーベンは
凄かったです。本当に素晴らしかった。この凄さが何故わからないのかなあ。
今や、のだめカンタービレなんかのテレビ番組で、すっかりポピュラーになった
7番のシンフォニーですが、曲そのものがショルティさんの持ち味にぴったりだ。
彼の指揮したウィーン・フィルとの「運命」のレコードも持っているが、これも
凄まじい出来だと思う。
これを録音した時は、ウィーン・フィルと大喧嘩しながらだったらしいのだが、
録音テープを聴いたメンバーは、案外これはいいね、と言ったらしい。(笑)

一方、やたらと仲が良かったカルロス・クライバーとも同じ曲を録音してるが、
私の感覚としては、ほぼ同じ流儀であり、どちらもエキサイティングである。
ウィーン・フィルの恐ろしい側面を見せるような圧倒的破壊力なのだ。
これは相対的な感覚なので、単に音がデカイとかそういうことじゃなく響きが
壮絶に感じられるのだ。熱いのだ。クラシックはロックなどより激しい音楽だ。
すっかり度胆を抜かれて、演奏後、しばらく拍手も起きなかった。

無性に、このまま直ぐ帰宅したくなった。耳に残したかったから。
アンコールに、ハンガリー舞曲の5・6番をやった。これも見事な演奏だったが、
ベートーベンを聴いた余韻を失いたくなかったので上の空で聴いていたと思う。

 一流の音楽家は、瞬時にして消え去る音の芸術=音楽に、常に命を賭け、全身
 全霊を捧げる。
 「彼等は日本公演など、本場以外のステージでは、手抜きをするんだ。まあ、
 体のいい観光旅行なんだから」などと、したり顔で喋っている<事情通>の愛好
 家や評論家に時折出会うが、その大半は嘘であり、質の良くない邪推である。
 だいいち、ベートーベンは、手抜きなどして弾ける作品を書いていない。
 どんな小さな音楽でもいい。モーツァルトやベートーベンの作品を楽譜を前にし、
 人前で惹いてごらんなさい。その日によって、演奏の出来・不出来はあっても、
 不真面目な気持をもってしては、一瞬たりとも、指も腕も動かないはずである。
 「手抜きをしようと思ったら、そのためにかえって疲れます。そういう音楽なん
 ですよ、ベートーベンは」と苦笑した有名ピアニストがいた。

 <ウィーン・フィル/音と響きの秘密(中野雄:著)より>

ショルティさんは、この年(1969年)からアメリカのシカゴ交響楽団の常任
指揮者になります。その資質と楽団の持ち味が一致したのか、以後は大活躍です。
後年、ナイトの称号を贈られて、サー・ゲオルク・ショルティとなりました。
彼の指揮ではありませんでしたが、シカゴ交響楽団の演奏会を藤沢市民会館にて
聴いたことがありました。(マイナーな会場ばっかりだね/笑)
それはそれは音の大きいオーケストラだったのですが、どういうわけか、記憶に
残っているのはウィーン・フィルの天井知らずのようなフォルテシモなのでした。
わあーどうなっちゃうのだ、という恐ろしい響きは忘れることが出来ません。
(2010.08.08追記)