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♪大島節       1963.01
   伊豆大島民謡 編曲;宮川泰 演奏:レオン サンフォニエット
   録音:1962.11.09 厚生年金会館
    

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★ ★★★★★ ★★★★*

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この歌が収録されている《ピーナッツのムード民謡》というLPが初めて買った
ピーナッツのステレオ盤のレコードでした。
右と左にザ・ピーナッツが別れて歌うなんて、もう夢のようなレコードでした。
ところが、先頭の曲の「祇園小唄」で、フォルテがあるから、針が飛ぶのです。
レコード屋さんに持って行って、そこのプレイヤーでかけると飛ばないのです。
でも「プレスのバラツキかもしれないから、代えてあげましょう」と言ってくれて、
結局、その当時はクリスタル・カートリッジだったから、針圧を6グラムくらいは
かけないとトレースしてくれないということが後でわかりました。

クリスタルというのは結晶なんです。これを変型させると電圧が発生するのです。
結構高い電圧が起きるし、レコードを作る時に周波数特性を変えて高音を大きく
低音を小さくしているのを近似的に補正してしまう性質もあるので、後につづく
アンプは楽なのです。だから、普及型の安物ステレオ電蓄に多用されました。
結晶を無理矢理に変型させるような力が必要なので、レコードの音溝をそ〜っと
辿るなんて生易しいエネルギーじゃダメですから、ゴリゴリと擦ってる感じです。
レコード溝はゴミは押し付けられるし、細かい凹凸は削られるというわけなので
かける度にダメージを与えているようなものでした。

なんで、こんな情けない話から書くのかといいますと、この歌はCD化されては
いないからなんです。この傷んだレコードで聴くしかないのです。
ザ・ピーナッツの歌は、けっこう膨大な量なんだけどもうその殆どがデジタル化
されてはいるのです。しかし、忘れられたかのようにポツンと仲間外れにされた
かわいそうな歌があります。これも、その一つです。
同じLPに入っている他の曲に比べて何も劣るところはないのです。
しいて言うならば、この民謡自体があまり一般的ではないからかも知れません。

ザ・ピーナッツの歌をここから想像するのは無理ですが、元歌を聴いて下さい。

http://www.izu-oshima.info/main/audio_list.html
こののんびりした歌を宮川先生は完全にラテン風のジャズに変えております。
ジャケットには書いていないのですが、中間のジャズピアノはご本人が演奏を
されていると思います。このアドリブと弾き方は宮川節に決まってます。
ボンゴのリズムとドラムのチンチンというシンバルプレイがイカシてます。
弦がさっさかさっさかと刻む中で、トランペットが弾みをつけます。
なかなか洒落たことをやってるのがトロンボーンでこれは難しそうですよ。
とにかく小粋で、大袈裟じゃないんだけど、歌も演奏も名人芸が聴けます。
CDにしない、されない、というのは勿体ないことです。ホントにね。

さて、このように傷んだレコードを聴くには、やっぱりコツが要るのです。
高音を下げてしまえば良い、とか、うんと高い音の出にくい真空管にすれば、とか、
実はそういうのはダメなんです。肝心の音楽までが生気を失ってしまうのです。
じゃ、どうすれば良いか? そんなの、とんでもないと思うかも知れませんが、
清水の舞台から飛び下りたつもりで、うんと高級なカートリッジを使うのです。
どういうことかと言いますと、高級(値段が高い)カートリッジは針先が超楕円や
もっと極端な扁平な三角形の形状の針先を持っています。
こういう針先はV字形の溝の下方を辿らずに上方にだけ触れるのです。
昔の安物の針先というのは、下側を擦っているのです。削れるともっと尖るんです。
だから、溝の下方はガタガタでミクロのゴミもこびり着いています。
比較的まだ綺麗な部分をトレースすることで、雑音はかなり減るのです。

レコードの針音はスクラッチ・ノイズといい、竹屋の火事ともいいます。
ジリジリ・パチパチ・プツプツなんて音はとても音楽的じゃありません。
レコードを聴くのに向いていないのはヘッドフォンです。頭の中でノイズが立体化
しちゃって、これはたまりません。
スピーカーの中高音域を受け持つユニットが強力なマグネットを背負っていると
この針音がかなり軽減されます。一瞬で終わるので、フッという無声音に化ける。
これも、そういう装置は高価です。レコードを聴くのは結構お金がかかります。
しかしながら、針音が気になると言うのは、まだまだピーナッツ修行が足りない?
歌に集中して聴けば良いのです。心頭滅却すれば針音もまた快し。なんてね。

          2002/12/05投稿



<でぶりさんよりレス> 2002/12/05


レコード針の話、興味深く読ませていただきました。
うちの安物プレーヤーは、さぞやレコードをガリガリやってることでしょう。
想像しただけで恐怖です。

>右と左にザ・ピーナッツが別れて歌うなんて、もう夢のようなレコードでした。

この右と左に別れて歌うという録音で私が思い出すのが、
ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』のサウンドトラック盤です。
これには当時泣かされました。
『トゥナイト』というデュエットの名曲がありますが、これが左から男性、
右から女性(あるいは反対だったかも)の歌声が聴こえるのです。
しかし当時うちにはモノラルプレーヤーしかなかった。
かけてみると女性の声しか聴こえないのです。
歌声を左右に完全に分けているんですね。
これではどうにも聴けませんでした。
改めてモノラル録音版を買いました。

こういう2人の歌声が左右に完全に分離するレコーディングはステレオ時代初期に
よく使われたものでしょうか?
江利チエミもカール・ジョーンズとのデュエット曲で左右完全に分かれています。
今はめったにこういう録音にはお目にかかりません。
やはり新しいステレオ技術をはっきり体感できるよう当時はこういう録音が
歓迎されたのでしょうか。



世界中どこでもステレオばやりインファントの分離犬2002/12/05


> こういう2人の歌声が左右に完全に分離するレコーディングはステレオ時代初期によく
> 使われたものでしょうか?
> やはり新しいステレオ技術をはっきり体感できるよう当時はこういう録音が歓迎された
> のでしょうか。
まったく、そのとおりです。
当時は、まだ、ステレオ録音の概念が一般大衆にきちんと伝わっておりませんでした。
本来は音場の再生を目的としているのだから単に左右に拡がるだけではないものです。
それでも私自身が単に右と左に音が分離するんだと誤解しておりました。
売り手も、モノラルとは全然違うんだ、という事を徹底的に強調したんだと思います。
我が家に最初に登場したステレオ電蓄はDSC方式などという妙な回路が入っており、
右と左の音をマトリックス演算回路で更に分離強調するという馬鹿馬鹿しい仕掛けが
組み込まれていたり、残響付加装置なんていうものまで付いてました。

後年、ちゃんとステレオ再生の基礎的な事がわかってみると、こういう玩具みたいな
仕掛けが付いていたのは、コロンビアやビクターなんかのステレオ電蓄などであって、
パイオニア、トリオ、サンスイ、オンキョーなどの専門音響メーカー製は本質的な
音を真面目に再生する姿勢があって、家電屋さんとは別物とわかりました。
ほんの数年で反省が自然に起きて、左右にだけ、別れてしまうのはピンポン効果とか
中抜け、とかの蔑称で呼ばれるようになったと思います。
肝心な中央の響きがないなんて、演奏会やステージではありえないからです。
そうはいっても、ザ・ピーナッツのレコードはそういう必要以上の分離もさせてる
一方で、ちゃんと左右に万遍なく楽器を散らせているので、中が抜けた感じはなく、
こういうところは、店頭効果と長く聴くための両方を満足させようとして考えた
やり方ではなかったか、と、思います。



トゥナイトインファントの追伸犬2002/12/05


>ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』のサウンドトラック盤です。

これ、私も買いましたよ〜。仲間だ〜。というより、定番LPかしら?



<でぶりさんよりレス> 2002/12/06


>ほんの数年で反省が自然に起きて、左右にだけ、別れてしまうのはピンポン効果とか
>中抜け、とかの蔑称で呼ばれるようになったと思います。

「ピンポン効果、中抜け」という表現は的を得ていますね。
これをヘッドホンで大音量で聴くと気持ち悪くなりそうですね。

>これ、私も買いましたよ〜。仲間だ〜。というより、定番LPかしら?
うっ。。。光栄です。。。
私、『この世の果てまで』カーペンターズ世代ですから
インファントさんと、少〜し年齢差があるらしいです。
『ウエストサイド物語』は父が、父が、父親が(くどい?)、買ってきたレコードのようです。
私はリバイバルで観ました。