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♪北上夜曲   1963.01
   作詞:菊池 規 作曲:安藤睦夫 編曲:宮川 泰
   演奏:レオン・サンフォニエット
   録音:1962.10.16 杉並公会堂
    

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★★ ★★★★★ ★★★★*

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祇園小唄《ピーナッツのムード民謡》というLPに収録されていても、民謡じゃ
ありませんが、英文のタイトルにはザ・フォーク・ソングとなっておりますので、
それなら歌声喫茶で大流行したフォーク・ソングということで意味は通ります。
昭和30年代の流行であることには違いないのですが、これがいつごろから皆が
歌ったのかは知りません。作詞、作曲はピーナッツが生まれた頃のようなのです。

和田弘とマヒナスターズ、ダークダックス、あたりが本命筋のような気もしますが、
ザ・ピーナッツのこの歌がドラマチックでとても好きです。
贔屓の欲目といわれるのを承知で書きますが、これは聴かなきゃ損だと思う。

宮川先生のこのアレンジは映画音楽のような何か悲劇的なストーリー性を予感させる
哀切で意味深長なイントロから始まります。これがいい。ぐっと引き込まれます。
そしてズシンと胸に迫るようなウッドベースの響きが繰り返し強調されるのです。
私は何故か、このベースの単調な繰り返しが「雪」をイメージしてしまうのです。
この曲は、コントラバス協奏曲とでも言えるほどにアコースティックな木のベースの
音色が素敵です。もうそれだけで立派な音楽が成立しちゃうのではないかとさえ思う。
この使い方に宮川先生の非凡さが顕われていると思います。

さて、ザ・ピーナッツの歌唱ですが、聴く前には、なんでこんな通俗な歌をあえて
歌う必要があるのだろうか、と、不審な感じさえ持っていました。
そもそも歌声喫茶自体で歌われる歌の範疇があまり気にいってなかったのです。
もう既に競作という時期ではなかったのですし、どういう魂胆で歌わせるのだろうと
殆ど何の期待感もなかったのですが、そこはやっぱりザ・ピーナッツでした。

編曲の色彩の濃さに比べて、ピーナッツは何も技巧めいたことはしていないのです。
しかし、この歌声の清々しさはどうでしょう。必要かつ十分という美学です。
いつも思うことですが、ザ・ピーナッツ以上に歌を上手く歌う必要があるのだろうか?
一方、ザ・ピーナッツ程度に歌えなくて、よく歌手として一人前の顔が出来るのか?
この論理はもう滅茶苦茶なことを言っているのは承知していますが、どういうわけか、
ザ・ピーナッツの歌に感性水準とか知的水準というものがぴったり合っているので、
標準はこれなんだ、と、私は思い込んでしまっているのです。

これもやはり歌声喫茶で流行った「草原情歌」というのもピーナッツが歌っています。
おそらくこれは歌声喫茶愛好者からみれば邪道のアレンジであり変な歌い方でしょう。
それはこの「北上夜曲」にも言えると思うのです。
だからちょっとこれらは否定されるかもしれません。
しかし、私は、もう全然比べるのもアホらしい程にザ・ピーナッツ盤を推します。
これだけの「北上夜曲」はなかなか聴けるもんじゃありませんぜ。

ところで、ザ・ピーナッツの日本語って美しいと感じたことはありませんか?
とても歌詞が聴き取りやすいのです。どんな歌でもそうです。(英語は別よ:笑)
そして私達が普通に使っている声の響きで歌われるのです。
妙な裏声やオペラ歌手みたいな、あちら風の発声はしないのです。
だから童謡や抒情歌、唱歌のような、みんなが知っている歌っている歌が違和感なく
暖かい声音でこちらの胸に届くのです。こういうコーラスはピーナッツだけです。

弦楽器のトレモロに胸を掻きむしられ、オーボエの郷愁に満ちた響きがツーンと
眉間の間あたりの脳に突き刺さってきます。
ヴィヴラートの効いたバイオリンのボーイングも悲劇的です。
大袈裟な大編成の演奏ではないのですが、個々の楽器がみな曲の中に活きています。
これ、ひょっとしたら、客観的にも最高の「北上夜曲」なのかも知れません。

投稿日:2003/06/30



<ペコちゃんさんよりレス> - 2003/07/01


私もピーナッツの日本語はとても聞き取りやすいしきいていて耳に自然にはいってくるというか、
発声に全くムリがないのです。ピーナッツを初めて聞いたときからそう感じていました。
ふつうの喋っている声そのままであれだけ歌えるというのは至難の技なのです。
クラシックなどでは裏声とか、頭声というものを使います。それはそれで又良さがあるのですが、
難点は言葉が不明瞭なのです。オペラを聴いていても、メロディーは美しいのに言葉が聞き取れない、
せっかくの美しい歌が台無しということがよくあります。
由紀さおり・安田祥子姉妹が以前に同じようなことを言ってました。由紀さおりは歌謡曲の発声、
安田祥子はクラシツクの発声をそれぞれ勉強したわけですが、お互いの良い点を取り入れて
由紀さおりは歌謡曲でも高音を出せるようになったし、安田祥子はクラシックの発声だけど妹から
勉強して、言葉を明瞭に発音して歌えるようになったそうです。 
そのとき私はピーナッツのことを思い出したのです。
違和感のないごく自然な発声で自由自在に歌える、しかも心が和む声、快く耳に入ってくる声の
コーラスといったらザ・ピーナッツしかいないと思うのです。