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恋の裏切り  1964.10
  UN ALTRO
  原作詞:A.Gentile 作曲:Torrebruno 作詞:安井かずみ
  編曲:東海林修 演奏:レオン サンフォニエット
  録音:1964.07.23 厚生年金会館

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★* ★★★★* ★★★★*

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この歌はカバー曲には違いないのですが、ザ・ピーナッツでしか聴いたことがなく、
当時も今も素性がさっぱり分らないのです。
レビューを書くからには、そういう情報も調べてみようとしたのですが、検索して
辿り着くのは自分のサイトだったりしてがっかりします。
題名からイタリア風のカンツォーネなんだろうなという見当がつく程度です。
ということで、この曲のルーツをご存知の方が居られましたら教えて下さい。

当時のザ・ピーナッツ自身やスタッフはどういうのを歌いたい、歌わせたいという
選択を我々一般人よりもかなり先行して海外の歌を聴いていたのだろうと思います。
つまり、流行ってから歌うというものではない場合も多かったのでしょう。
ですから、ザ・ピーナッツのレコーディングした曲の中には全然ヒットしなかった
ようなものも多く含まれているのだと思います。
これは他のポップスカバー歌手よりも顕著で、ピーナッツしか歌わなかった曲が
かなりあるのです。

さて、この歌は大変に快調なテンポで歌われており、2分48秒と短いのですが、
内容は結構、濃いのです。それは聴き方にもよるわけなのですが。
私は音楽の勉強は義務教育しか受けていないので、きちんと説明は出来ませんが、
単に聴き手としても耳を澄ませて聴けば、色々な隠し味まで味わうことが可能です。
曲の段落でもある ♪恋の裏切りに 私泣いてるの の部分に傾聴してみましょう。

♪わたし ないてるの(お〜) お〜というのは経過和音で音が変わるところです。
(経過和音なんて熟語があるのかは知りませんが、そういう書き方しか出来ません)
この経過和音は最初の、泣いてるの、だけに使われますが、これがあると無いとじゃ
レコード自体の出来不出来に直結する大切な隠し味でありましょう。
まだ歌は続くのですよ〜と暗示させるための重要な音符であると感じます。

更に、もう一ケ所。♪あなたの心の行方を教えて(えええ〜)にも傾聴しましょう。
この、おしえて〜の部分は2回目は三段階に微妙に和音が変化し震えるのです。
これが2回目だけ、つまり最終だけで、やったね! という効果絶大なのです。
こういう技がなくて、なんでザ・ピーナッツじゃなきゃ、なのか、てなものです。
愛聴する側もこういう細部にもこだわって聴いてみたいものですね。

ザ・ピーナッツだって音楽学校の出身ではありませんので、譜面だけ、はいよ、と
渡されても、これが出来たとは思えないのです。
東海林修先生から、ここは大事な音なので、と、指導を受けていたのではないかなと
想像する次第です。先生のアレンジは聴く人が聴けばわかるという面もあります。
こういう速い歌ではありますが、テヌート(音符の長さまできちんと音を延ばす)が
しっかり出来ています。これもご指導されたのかも知れません。
ザ・ピーナッツの歌の芸というものは、こういう細かい経験の積み重ねがあってこそ
磨かれていったのであって、単に双児だから出来て当たり前と思ったら大間違い。

この曲はLP収録のためにだけ録音されたものです。
そうでありながら、なんと経費がかかっているのだろうと驚きます。
まず、これは狭いスタジオ録音の響きではありません。ホールを借用したのでしょう。
高低弦楽器も必要十分な総勢がバックで支えています。トロンボーン隊も居ります。
これらの楽器はここに居るぞ、という存在を誇示するようには使われていません。
これはなかなかに贅沢な起用であって、今の時代じゃとても無理な編成です。
このレコードが、千五百円(現代の物価で言えば、1万五千円)と高価であって、
沢山は売れなくても十分に採算がとれたから出来たことだったろうなと推察します。

このようなシンプルな曲なのに、厚みのある見事なアレンジが施されてます。
ふつうの感覚ではここまではやらないと思われます。
ふつうと言えば、そもそもザ・ピーナッツの編曲は宮川先生というのが定番です。
しかし、このLPでは、12曲中、8曲が東海林先生です。指揮も東海林先生。
意識されてこのようになったと思うのは、シンフォニックなサウンド作りにあり、
それが大変に優れた効果を与え、レコードの品位を高めているように感じます。
もちろん他の歌手にも東海林先生はアレンジをされているのですが、この時代に
限定しての感覚ではありますが、ザ・ピーナッツのアレンジには特に気合が入って
いるように思うのは気のせいでありましょうか。中身が濃いのです。

(蛇足)
この曲を収録したCDには編曲者名の表記ミスが二つありました。
「恋の裏切り」  宮川泰ではなく東海林修が正しい。
「ほほにかかる涙」東海林修ではなく宮川泰が正しい。
すなわち、ひっくり返ってしまってるんですね、これ。
編曲者にも敬意を持って、転記ミスのない、いい仕事を望みたいものです。

<補足:1>
 LP=ウナ・セラ・ディ東京 では「ほほにかかる涙」編曲:東海林修
 となっていますが、
 この年の5月に先行発売のシングル盤表記では、宮川泰です。
 10月のLP収録時での転記ミスであろうと私は考えます。

<補足:2> 2003.11.7
アマクサのシロさんから、この歌の元歌のヒントを頂きました。
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 「恋の裏切り」のオリジナルは<某サイトで>聴いたことが有ります、
 歌手の名前は「ジーノ」だったと思います。
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1964年リリースで<ジーノ・パオーリ>という方が歌ったようでした。