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♪恋のおもかげ 1970.07
THE LOOK OF LOVE
作詞:H.David 作曲:B.Bacharach 編曲:宮川 泰
演奏:オールスターズ・レオン コーラス:フォー・メイツ
録音:1970.03.25 キングレコード音羽スタジオ
一般知名度 | 私的愛好度 | 音楽的評価 | 音響的美感 |
★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ |
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五十音順にザ・ピーナッツの録音軌跡について感想みたいなことを書きならべている
のですが、そうすると単発でということになります。
この歌などは、そういう扱いではなくて、アルバムとしての感覚で書きたいなあ、と
思ってしまう面があります。
この「フィーリン・グッド! 〜ピーナッツの新しい世界」というLPアルバムは、
SIDE 1■バート・バカラックとザ・ピーナッツ
SIDE 2■ニュー・ボッサとザ・ピーナッツ
このように2部制で構成されており、同じ内容のCDも出ました。(在庫なしの状態)
残念ながらLPも大変な金額のプレミアがついてたり、CDは既に入手不可となって、
新規に聴いてみたい人には現在はその手段がない状態です。
このアルバムは数あるピーナッツの盤の中でも、その存在意義が際立って見事であり、
狙いと参画されたメンバーの息がぴったり合っているのも珍しいとまで感じます。
アレンジャーは宮川さんとクニ河内さんとがほぼ半数づつの曲数を編曲していますが、
アレンジの狙いは共通した意識であるようで、全体の統一感がグッドです。
新しいフィーリングがいいよ、というタイトルのアルバムなのですが、たしかに斬新。
ハイセンスで粋でお洒落で、と形容詞がいくつでも並べられそうなのではありまして、
歌手としてのアルバムでもこれは異端でしょうし、ザ・ピーナッツのLPのうちでも
飛び抜けて奇妙な仕上がりです。ファンに対してなにか挑戦している風でもあります
また全曲英語であって、これもどこかクールになりがちな面もあります。
スタッフの気合は十分で、どんなもんです、みたいに得意になっている感もあります。
そういう風情ですから、どこかとりすました冷たさがでてしまいそうな企画です。
ですが、はやり、ザ・ピーナッツなんですねえ。人間的な温もりが出て来るのです。
歌のベクトルというか、文字通りのフィーリングをしっかり把握しています。
こんなにしなやかにこなせるのが凄いです。ピーナッツって知能指数が高い感じです。
だって、これ、左脳的音楽でもあったり、感覚で勝負という面もあったり、一筋縄で
すまされないような凝った音楽になってる。スマートなアルバムなんです。
そうでありながらも歌声は暖かい。これがいいところなんだ。
アレンジという言葉がこれほど念頭に置かれるのも珍しいのですが、とにかく、何が
始まるんだろう、ありゃりゃ、これからどうもっていくの、と大変にスリリング。
その中でもこの「恋のおもかげ」は普遍性のある方かな? やっぱり跳んでるかな?
元々が名曲で、既にスタンダード化の気配濃厚な曲なのですが、これ、楽しい!!
ピーナッツは上手いとは誰でも知っている事実だけど、これほどやるとはね。凄いス。
新しい世界です。看板に偽りなし。面白いし。
ひとつ言えることは録音技術の進歩がやはりあるもんだなというところです。
楽器のオンとオフの細かい使い方が音楽を活き活きと鳴らしています。
ワンポイント的な録音の方がほんとは好きなのですが、こういうマイクアレンジでの
音楽作りというのはスタジオ的で、これもいいな、と気持ちが浮気っぽくなります。
非常に実験的なアルバムなんだとは思いますが、不思議に血が通ってて、生々しい
響きが聴けたりして、スリリングです。歌も演奏も妖刀村正の切れ味であります。
シャボン玉ホリデー/スターダストをもう一度という本の中に、ダンサーとして番組
に参加されていて後年著名な振付師となった、あの、土居甫の見たピーナッツという
コーナーがあるのですが、その発言の一文に、
「シャボン玉で唄った歌をコンサートで唄うでしょ。ダンス・ナンバーじゃなく、
"You've Got A Friend"とかサイモン&ガーファンクルとかバート・バカラックとか、
あの頃流行ったものをやるハーモニーのすごさって、世界一じゃないかと思うくらい、
すごかった」
その世界の専門家もそう感じて讃えるんだから、私らが感心しちゃうのは当然です。
しかしながら、声がこんなに出るのよ、とか、どうですこんなに上手いんだから、と
いう歌声の表情が皆無なのがザ・ピーナッツの良さの最大の特徴だとも思うのです。
さりげないのです。大変なことをやってるという気配も感じさせないのです。
ここが本当は偉大なところなんだと私は思うのですよ。
歌手商売としては大向こうを唸らせた方がかっこいいのかもしれないけれど、派手さ
はなくとも、このしっかり下ごしらえをした、素晴らしい出汁の効いた薄味の妙味は
格別で、繰り返し聴くほどに、これは大変なことだぞ、と気付かされるのです。
ズバ抜けて上手い歌い手なんだとご本人たちは思っていなかったかも知れないですね。
謙虚で研究熱心だからこそ、何時の間にか相当に高度なところまで昇ったのでしょう。
自分のアルバムでありながら、自分達が独尊的になるのじゃなくて、アレンジに同化
して流れに溶け込み、全体として素晴らしい音楽を作って行こうという姿勢がある。
ザ・ピーナッツの歌を印象付けるのではなく、いい音楽を聴いたな、と思わせよう。
そういうグループワークが出来ていますから、バックコーラスとも演奏とも一体化し、
調和のとれた質の高いアルバムが出来たと思います。
これはザ・ピーナッツのひとつの到達点を示す一枚だと感じます。素晴らしい!!