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♪恋のフーガ    1967.08
  作詞:なかにし礼 作曲:すぎやまこういち 編曲:宮川泰
  演奏:レオン・サンフォニエット
  録音:1967.06.16 イイノホール

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★★ ★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

英語版も出ています→

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

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はい、はい、これは日本人なら誰でも知ってる大傑作。痛快無類な歌です。
「恋のフーガ」について述べよ、と言われたら、みんなが何か書けるでしょう。
本来は悲恋がテーマですが、悲しいの悲しいの飛んで行け〜と跳んじゃってます。
デビュー8年目に、このビッグ・ヒットに恵まれたのはとてもラッキーでした。
それにこれは競作ではなく、100%、ザ・ピーナッツによって流行ったのです。
何何賞というような業界選定のご褒美はピーナッツには与えられませんでしたが、
あんな怪しげなものより、現代に至ってもカバーする歌手が絶えないということが
何よりの賞賛じゃないのかな〜と思います。

「恋のフーガ」は、ザ・ピーナッツにとてもお似合いであって、ザ・ピーナッツで
まっさきに連想される曲であることは私の個人的な感覚でも大歓迎したい気分です。
こんなのつまんないよ、と思われる方が居られたら、それは縁なき衆生と諦めます。
他のピーナッツの歌の何を薦めても駄目でしょう。
それだけのピーナッツの歌の完成度の高さというものがこの歌にはあります。
だから、リミックスとかするのは言語道断。それこそは無価値。改悪でしかない。
リバイバル・カバーは否定しませんが、ピーナッツ版をまず先に買うべきでしょう。
ちなみに英語版も吹き込まれてますし、「恋のロンド」という姉妹曲もあります。

「フーガ」という言葉は、フーガ形式という音楽形式を比喩してつけられています。
明治時代くらいの旧い訳語だと思いますが、「遁走曲」なんて面白い表現です。
別にこの曲がそのような形式を踏襲しているという学術的な基盤はありません。
恋人が遁走しちゃったので、追いかけて、すがりつきたい、という感覚の言葉です。
でも、クラシックのエッセンスというか、雰囲気、残り香みたいなものが漂う曲です。
なかにし礼さんも、すぎやまこういちさんも、クラシックのマニアみたいですから。
そういう方だからこそ、こんな洒落たタイトルをつけられたとも思います。

メロディーは、追いかけて、追いかけて、というところは、ロッシーニの歌劇である
「セビリアの理髪師」から、インスピレーションを得たように感じられます。
宮川さんのティンパニー連打のアレンジもベートーベンの第九交響曲の第ニ楽章など
彷佛としますし、なかなか高尚な洒落ッ気が込められているようにも思います。
そういえば、あの桑田佳祐さんが恋のフーガを歌われた時、映画2001年宇宙の旅
でもお馴染みの「ツァラトゥストラはかく語りき」のテインパニーからこの歌へと
雪崩れこんだ面白い趣向をやってました。
この編曲はとにかくアイディアが秀逸。こんなに面白いものはちょっと見当たらない。
編曲お色直しの好きな宮川先生ですが、これはかなりの自信作だったようで、他の
バージョンは皆無で、また、テレビ、舞台のどんな場面でも変えませんでした。

でも何が最大のヒットの理由かな、と考えると、やっぱり「パヤパヤ」でしょうか?
あのスキャットは誰が考えたのでしょう。11PMでスキャットは馴染みにはなって
いたでしょうけど、流行歌で使っちゃうのは斬新。ああ、そうだ、翌年でしたか、
伊勢佐木町ブルースの「シャバダデュビデュドゥビドゥワ〜」が流行りましたね。
まあ、それと、オクターブのハモリ(?)というのも凄え、と思いませんか!
新基軸がいっぱい。なのに、全体にスムーズで違和感がないのがとても不思議。
ここにザ・ピーナッツの歌唱のしなやかさ、フレキシブルさが活きていると感じます。
リズム感もいい、声の伸びもいい、溌溂としてて、変幻自在というところでしょう。
下手をすると、これは凄くバカバカしく見聞きされかねない歌だと思うのです。
それが、凄えな〜と観客を圧倒するように仕上げてしまうのは、やはり力量でしょう。

もう既に歌って踊れて世界に通用するというレベルに達していたピーナッツですから、
この歌にも振りというものがありました。
この振りにも余裕の洒落ッ気が入っていて、井上順さんのお得意のポーズもあります。
その振りが見られるプロモーション・フィルムが、ビデオ「Pナッツ」に入っていて
懐かしいパンタロン・スーツで踊っていますが、野外ロケのせいだとうと思いますが、
ピーナッツのお二人はどこか照れていて、なんかギクシャクしています。(笑)

NHK紅白歌合戦というのは「歌」を聞かせる番組だと思うのですが、ピーナッツの
歌をイントロからフル・コーラスちゃんと歌わせてくれた場面は少なかったようです。
元々そんな長い時間がかからないのに短縮されるのでしたが、この歌は違いました。
レコード通りにやれました。
トリではなかったのですが、美空ひばりさんの「芸道一代」の一つ前でした。
この年はベテラン勢不作でヒットがあったのはザ・ピーナッツくらいだったんだから、
たまには遠慮して、ピーナッツに譲っても良かったんじゃないかな〜。(爆)

時節柄、紅白にこだわりますが(笑)、長髪はダメ、青江三奈のため息はダメとか、
ソロ歌手以外はトリはとらせない、とかいった不文律があったとかないとか..
とにかく官僚的前例重視主義だから重苦しくて、あんな疲れる番組は他にはない。
シャボン玉ホリデーの面白さ、構成の素晴らしさに比べれば月とスッポンでしたね。
脚本を作ったり、演出をされた方は、プロとして恥ずかしくなかったのだろうか?
そういえば、恋のフーガを歌った昭和42年は大晦日なのにシャボン玉ホリデーは
特番に潰されず、ちゃんと放送してるんだね〜。たいしたもんだったんだ。

そんな悪口を書きながらも、やっぱり紅白の「恋のフーガ」はもう一度見てみたい。
この年の紅白のザ・ピーナッツには一番「華」がありました。素晴らしかった。
ずっとBSの受信料も滞納なく収めているんだから、恩恵があってもいいのになあ。
なにはともあれ、ザ・ピーナッツ絶頂期の歌声ですね、これは。