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恋よさようなら      1970.07
 I'll Never Fall In Love Again
  作詞:Hal David 作曲:Burt Bacharach 編曲:宮川泰
  演奏:オールスターズ・レオン コーラス:フォーメイツ
  録音:1970.03.25 キングレコード音羽スタジオ

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

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負け惜しみで言ってるのではなく、こういう歌を聴くと英語がわからないことが
曲の良さを理解する妨げになるのではなくて逆にイメージが膨らんで、楽しみを
いっそう享受出来るような気にもなってしまいます。
どうしても歌詞を理解する必要があれば、ネットサーフィンで訳詞なども簡単に
知ることが出来るのであるが、知ったところで、なあに、大した内容が歌われて
いるわけではなくて、英語のフィーリング自体が魅力なのではないのかなあ、と
思ってしまうほど曲自体がいいのです。
こういう味わい方は歌を耳にした時点で歌詞が普段の言葉と同じであることから
瞬時に歌と同期してしまう英語圏の人にとっては歌の捉え方が限定されてしまい
それだけでしかない、という面もあるのではなかろうか。

だから、もしかすると「上を向いて歩こう」という歌の歌詞はとても良いのだが、
外国の人はあの九ちゃんの独特の抑揚の歌声から自分達なりの別の聴き方があって
そこに我々とは異なる価値観を抱いているかも知れず、歌に国境はないとはいえ、
逆に国境があり、言葉が違うから面白いのではないかとも推察します。
ピーナッツの英語がどうだ、とか、貶す要素もあるかも知れないが、そうじゃなく、
これは歌とリンクした呪文のようなものと思って聴いたっていいじゃないかと思う。
モスラの歌が日本語で歌われたら、どんなに味気ないものだとは思いませんか。

恋よさようなら、というタイトルと曲調だけで、失恋の歌なんだけれども深刻じゃ
なくて、あ〜あ、恋なんて馬鹿みたいだわ、もう、暫くは私立ち直れないけれど、
まあ、恋だけが人生じゃないわよ。ちょっとお休みしようっと、といった感じで、
本心から二度と恋などするものかみたいな演歌風の思い込みはなくて、当面はね、
といった感じの恋嫌いを装っているようです。
それも、自分に問いかけるのではなく外面的なことを言っているので恰好つけて
みてるところも多分にあるのでしょう。
だって、大失恋して、ああ、もう私は生きていく望みがなくなったとか真剣に
なっている人からは「恋よさようなら」なんて言葉は出てくる筈はないのです。

さて、つまらない屁理屈はさておき、レコードを聴いてみましょう。
これは、斬新なアレンジです。アレンジというよりもアイディアでしょうか?
カッ、カッ、カッ、チーン なんとまあメトロノームからスタートですよ。
これがまた、なんともかっこいいんだ。
もうたまらないほどのハイセンス。
「フィーリン・グッド  ピーナッツの新しい世界」というアルバムの初頭を飾るに
ふさわしい見事な出来です。
ピーナッツの声は左チャンネルからしか聴こえませんが、装置の故障ではありません。
これも新しい試みなんです。もっとも、こればっかりじゃ困りますがね。

このアルバムを聴くと即座に「スタジオ・ミュージシャン」という言葉が浮かびます、
そうです。ザ・ピーナッツもその一員になって溶け込んでいます。
私は素人なので、技術面を語れないのですが、聴いた印象だけの話という前提付きで、
ここに参集された音楽家は皆さん大変な腕達者揃いと感じます。
とにかく一音一音が研ぎすまされていて、つまらぬ音色が一つもなく、活きています。
ちょっとしたところのフィーリングが題名通りにグッドなのです。

凄いなあ、と感じるのは、一体感とか統一感というものです。意識レベルが揃ってる。
仕上げる音楽のベクトルが合っているので、実に気持ち良く聴けるのです。
もし崩れたら、このアレンジでは絶対にバラバラに崩壊してしまいます。
そうなったら聴けたものじゃない。センスの悪いのが入ったらどうしようもないです。
感覚的な話なのですが..普段はどことなく私達は別ですよという鳴り方をするような
弦楽器群までが「一緒にプレイしている」感じがするのです。
どこがどうと言えませんが、弾き方がノってるような、いい感じを出してるんです。

そんなに大きな編成ではないのです。
だからなのか非常に細かい音までも、しっかり捉えて楽器がその美音を響かせてる。
ギターの音色もいいです。ピックの触れ具合も、プロってこうなのか、と驚きます。
何気ないそういうタッチが全ての楽器で味わい深く、上手いものだと感心します。
録音も現時点でのそれと比べたって何ら遜色ない鮮度があって鮮やかに録れてます。
音響関係の技師も一緒になって、サウンド面もかなり凝ったものと思われます。
まったく素晴らしいスタッフに恵まれた幸せなレコードです。

ここでのザ・ピーナッツは普通のピーナッツじゃない、マジカル・ピーナッツです。
すごいハイ・トーンがあったり、難しいハモリがあったりとか、そういうのじゃなく、
とにかく上手いのです。一言で言って、題名通り、フィーリングが最高!
これは誰でも出来るものじゃなく、センスの問題じゃないかと思います。
こんなにピーナッツって知能指数が高かったのか、と、見直したいように感じます。
知能の問題じゃないだろ、とは、勿論そうですが、どこか賢いなあというイメージ。

これは大変なクオリティのアルバムだと思うのですが、売れたとは思えません。
センスのいい聴衆というのは実は極めて少ないものなのです。
上等だからこそ、これは売れないのです。断言します。そういうものです。
それがわかっていながら、最強のメンバーでこれを作ったスタッフには拍手です。
道楽ばかりやりやがって、と、冷ややかに見られていたかも知れませんね。
これは好きな者が集まって、わかってくれる好きな人向けに作ったアルバムでしょう。
凄いものを残してくれたものだと感謝の気持ちがいっぱいです。

この曲はカーステレオ用の音楽テープ用に「雨にぬれても〜恋よさようなら」
メドレーでも歌っています。解釈はほとんど一緒です。

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★ ★★★★★ ★★★★*

若干の違いが面白いので、これも聴いてみる価値があると思います。
ピーナッツの歌のしなやかさが、このメドレー形式でも際立ちます。
上手いなあ、ピーナッツ!!!

(2004.1.16記)