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心の窓にともし灯を  1960.04
<NHKテレビ歌謡>
  作詞:横井弘 作曲:中田喜直 編曲:宮川泰
  演奏:シックス・ジョーズ・ウイズ・ストリングス

  

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★★ ★★★★★ ★★★★★ ★★★モノ

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2000年7月10日 に書いた随想をこちらへ移転させました)

先日永眠された中田喜直さん作曲の小学校教科書に載せてもいいような佳曲です。
ただ、現代の子供さんたちには実感や共感が得られない歌詞かな、とは思いますね。
「いじわる木枯らし吹きつける、古いセーター、ぼろシューズ」とか、
「ポッケにゃ何にも無いけれど、かじかむ指で灯しましょう」
と書かれていても現実感がわかないでしょうし、
「暖炉を囲んだ歌声を遠く聞いてる..」経験も、 「泣けてくるような夜…」を
過ごしたこともないと思います。
当時小学生だった私でも歌詞のような惨めな境遇ではありませんでした。
だから、この曲には昭和34年という時代的背景だけではなく「伊勢湾台風被災」
「歳末助け合い運動」というようなキーワードが絡んでくるのでしょう。
実際に歌詞のようなご体験をされた方々は「希望がほのぼの湧く」思いをこの歌で 感じられ、
それはすごく思い出深いものだったでしょうね。
我が家だけでなく日本全体がまだ貧しい時代でしたから、
レコードを買わせてくれた 親に感謝しなければ、とつくづく思う今日この頃です。

現在は音楽媒体のコストが非常に安く(他の物価に比べてですが)なって手軽に
買い求めることが出来ますね。ピーナッツの曲だって恐らく当時のシングル盤を
買うような実感金額で「シングルス」の2枚組CDが買えるでしょう。
だからといって一曲一曲を単純に聞き流してはピーナッツさんに失礼です。
レコードを吹き込むというのは当時は大変なことだったんです。
あ、いいかも、と簡単に買ってもらえる時代じゃないですからね。
一曲一曲真剣勝負なんです。
そういう時代にもかかわらず、このような売らんかな、ではない曲を
たとえB面であっても収録したキングレコードの姿勢は素晴らしいと思います。
(褒め過ぎかな)

ピーナッツさんはお嬢様育ちですから「心の窓にともし灯を」的な経験をされている
筈もないのに何故か切々たる歌唱に心うたれます。どうしてでしょう。
それは「芸」の力でしょうか、私は失礼ながらそんな演技力はない、
と思います。 基本的に心根がお優しいのだと思います。歌声は嘘をつけないと私は思います。
技術ではない、誠実なお二方の声音そのものが見事に曲にフィットしてるんです。
こういう比較はしちゃいけないかも知れませんが安田姉妹のCDよりもピーナッツの
唱歌の方が気取った感じでなく(私は)心暖まる気持ちで聞けるんです。
こういうジャンルのピーナッツの歌も本当に素晴らしく、とっても好きです。
NHKテレビ歌謡の姉妹曲には「いつも心に太陽を」があり、レコード化もCD化も
されています(こちらも素直ないい曲です)が「いつも心に歌声を」という歌もあり、
これはレコード販売はされず、私は聴いたことがありません。(無念!聴きたいです)

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このオリジナルのレコードはザ・ピーナッツのモノラル録音の最後なのではないかと
思っています。これ以後は全てステレオ録音に移行します。
おいおい、それは違うんじゃないの? 「今池音頭」がモノラル録音の最後でしょ?
そう気付くあなたはかなりピーナッツ・オタクです。(笑)

ですが...私はここに一つの学説(?)を持っています。(大袈裟な:笑)
もしかすると「今池音頭」は発売されたより以前に録音されたのではないか、という
新説です。勝手にそう思っているだけで、証拠はなにもありません。
ステレオ録音という新しい方式になったのに、わざわざモノラルにする必要性がなく、
別にコストが増えるわけでもないので、録音時期が古いのだろうと想像したのです。

さて、そういう過渡期であったので、A面の「悲しき16才」と同様にモノラルでの
収録となっていたのですが、後年になって、ステレオでの再録音を行っています。
ピーナッツに限らず、他の歌手でもよくあることです。
あらま、凄いな、と思うのは、この再録音がまたオリジナルと瓜二つなのですね。
アレンジも殆ど同じです。

    

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★* ★★★★★ ★★★★

このLPは引退時に出たボックスの中の一枚なのですが、当然モノラルと思ったら
ステレオ録音なのでびっくりしました。
編曲者や演奏の表記がないので詳細はわかりませんし、CDに書かれている内容は
あまりあてになりませんが、編曲は宮川泰さんで99%間違いないでしょう。
演奏者名は特定のバンド名以外はレコーディングの為の臨時編成ですから、意味は
ないので、レオン・サンフォニエットというところでいいんじゃないかと思います。

何時ごろ録音されたのか判りませんが、このボックスには他にも「内気なジョニー」
の初収録も入っていますし、少なくとも引退時のこれの為に録音したわけではなく、
恐らくキングレコードでの「叙情歌集」のような企画アルバムを作成する際にでも
この曲のステレオ録音が必要となったから収録し直したのではないかと推測します。
この推測が正しければ、ザ・ピーナッツのLPではない他のオムニバスLPの中に
ステレオ録音のものが収められているのではないかと思います。

さて、複数の録音があると、その違いというものが興味をそそります。
ステレオ録音自体の存在はそれは嬉しいことなのですが、オリジナル録音の方には
オリジナルならではの良さがあるとも感じます。
再録の方では歌い方が少し変わっています。
 ♪ホラ えくぼが浮かんで くるでしょう
 ♪ホラ 口笛吹きたく なるでしょう
ここの部分にはポルタメントが使われています。特に終結部の、
 ♪ホラ 希望がほのぼの わくでしょう
では、そのテンポの引き延ばしが顕著です。

ザ・ピーナッツはポルタメントや歌い崩しを殆ど用いない歌手です。
そもそも作曲者や編曲者はそれの頻出を嫌うと思います。素直に楽譜通りに歌って
ほしいと思うものではないでしょうか?
しかし、歌手の立場ではどうしても歌心を込めて表情豊かに歌いたいし、繰り返し
歌いこんだ曲であれば次第に濃厚な節回しもしたくなってくると思う。
ツボにはまれば、それは少しも嫌味にはならず、うっとりと聞き惚れさせる筈だ。

そういう感覚で再録音版ではテンポを意図的に変えて哀切な感情を込めている。
感情こめた歌い方というものが随所に感じられるところがあって上手くはなっている。
しかし、どっちが好きかというと、私はモノラル盤の淡々とした録音が好きだ。
嫌味というほどではないが、新録音のピーナッツは上手く歌おうとしている。
この歌は上手く歌わなくても良いのだ。あまり感情的な揺らぎは必要じゃないのだ。
極端に言えば、美空ひばりやちあきなおみには歌えない歌なのだ。
その歌唱技術が逆に興を削ぐことになる怖い曲なのだ。
これは少女の合唱隊のような澄んだ歌声で楷書のように歌った方が感慨深いのだ。

歌と言うものは一曲一曲が別世界であって、奥深いものだな、と感じる一曲です。

蛇足ですが、この歌のタイトルは「心の窓に灯を」ではなく「心の窓にともし灯を」
でありまして、ピーナッツ以外が歌った場合でも表記に気配りのある場合には、この
正しい表現が使われています。

(2004.3.6記)

☆ピーナッツ・ホリデー☆の記事でステレオ盤の演奏はキング・シフォネットである
ことが判明しました。(オリジナルの演奏とそっくりに仕上がってますが)

(2005.9.4追記)


ウィキペディア(Wikipedia)によりますと、

1959年12月に「NHK歳末助け合い運動」の一環として作成され、同月の
「歌の広場」でザ・ピーナッツにより歌唱されたのがこの楽曲の始まりである。
この時同番組内で、盲学校の生徒と合同で歌唱されていたのが話題となり、以後
この楽曲の人気が急激に上昇した。
この楽曲は翌昭和34年にNHKテレビ歌謡の「今月の歌」にも指定されていた。
一時期には中学校音楽科の教科書に掲載されていた事もあり、現代でも知名度が
高い楽曲となっている。

この経緯で、色々な結びつきが分ってきたように思います。
1959年12月の「NHK歳末助け合い運動」では、この年の伊勢湾台風での
被災者救済を日本中に訴えたものと思われます。
犠牲者5,098人、負傷者38,921人。被災者数は全国で約153万人。
全壊家屋36,135棟・半壊家屋113,052棟、流失家屋4,703棟、床上浸水157,858棟、
船舶被害13,759隻。これは大変な大災害でした。

私は情報として知ってはいますが、実感はありません。
しかし、愛知県出身のザ・ピーナッツには他人事じゃないのでしょう。
まだご両親は被災地に住んでいらっしゃったと思いますし。
心に沁み入る歌唱となっているのも当然かも知れません。
http://peanutsfan.net/GH3412.html

(2011.12.25追記)