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♪こっちを向いて 1963.08
作詞:秋元近史 作曲・編曲:宮川 泰
演奏:レオン サンフォニエット
録音:1963.02.14 文京公会堂
一般知名度 | 私的愛好度 | 音楽的評価 | 音響的美感 |
★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★* |
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上のシングル盤が出たのは昭和38年11月なので、この曲の初出はLPの方が
先でした。いわばアルバムからのシングル・カットという段取りになった感じ。
「こっちを向いて」はレコード化が何時になるのやら、出ないのかなあ、と
やきもきしていた覚えがあります。
そしたら、25センチのLPに入っていたので、やった、と小躍りしました。
これを東宝の(宝塚映画の)「若い仲間たち/うちら祇園の舞妓はん」の劇中で
ユミさんがソロで歌ってたし、たしか、シャボン玉ホリデーではレコード化以前に
歌っていた筈なのです。
人間は20歳くらいを境にして、一日十万個の脳細胞が死んでいくらしいです。
この歌が歌われた頃は私は21歳ですから、脳みそがピークの状態に近いですね。
それから減ること、何と、13億も脳細胞が消滅してるんだから記憶不鮮明でも
しょうがないですよね。
とにかく、LPの後にシングル盤も出たのですが、この歌はB面だったのです。
「東京たそがれ」は後の「ウナ・セラ・ディ東京」なのであって、ピーナッツの
代表的なヒット曲に生まれ変わるのではありますが、この時点では私はこの歌を
ちっとも良くは思わず、なんか変な歌だな「インファントの娘」に似てるな等と
思ったし、「こっちを向いて」の方が本命なのに、と感じていました。
そうなんです。この歌がとっても好きだったからです。
すごく甘酸っぱいような、切ないような、恋している人にはわかるという感じ。
もっともその恋はザ・ピーナッツが対象なんだから、もう片思いの極みですが。
作詞をされているのがシャボン玉ホリデー生みの親の秋元近史さんです。
番組プロデューサーであることもあって、シャボン玉ではよく歌われました。
「こっちを向いて」というテロップが今も眼に浮かんでくるようです。
秋元近史さんは「二人だけの夜」という歌も作詞されましたが、この曲では、
なんと、斎藤太郎プロデューサーまで作曲で参加しちゃってシャボン玉一家製。
この2曲はテーマや前後の関係なく、突然始まってしまう感じで歌われました。
どちらも雰囲気は良く似通っています。
見方によっては印税稼ぎとか、職権乱用みたいなものとも言えなくはないですが、
まったくそういう卑しさから出来たのではなくて、ザ・ピーナッツにお似合いの
歌を自分達も作ってみたいという熱い思いが込められていると思うのです。
金儲けみたいな不粋な真似をしたいのではないことは歌を聴けばはっきりします。
このムードは独特で、流行るとか売れるとかじゃなくて私がピーナッツの歌う姿で
こんなチャーミングに写る歌はないと思っているくらいです。
必ずこの二曲はレコーディングしたテープに合わせて口パクでやってましたが、
この録音でしか、この味は出ないと確信して、あえて使っていたと思います。
カメラワークもアップやら角度を変えてピーナッツの横顔を重ねて撮ったりして
綺麗で幻想的な絵作りをやる歌でもありました。
叶わぬ夢ではありますが、この場面だけでも録画を見てみたいな〜と感じます。
ほんとに一時期はシャボン玉ホリデーの看板曲のような感覚があったと思います。
「こっちを向いて」は「ふりむかないで」のアンサー曲とも言われております。
陽と陰の対比のような感じも出ているかなと思います。
ピーナッツは憂いを漂わす歌よりも幸福感一杯の歌が映える歌手ですから、この歌は
ちょっとブルーな感じがしなくはないですが、恋する心だからこその不安感を切なく
甘酸っぱく歌っているので失恋の歌ではありません。そこまで深刻じゃないようです。
この曲は編曲の物語性のようなものが魅力ではないかと感じます。
前奏がいいですね。とてもロマンチックな哀愁漂わす旋律です。オクターブ上へと
弦が推移するところなどは、これからドラマチックな歌が始まりそうな予感を耳に
届けて、同時にここがどこか懐かしげな耳に馴染みやすいメロディーラインなので
とんでもない歌がこれに続くわけがないという落ち着きも持っています。
全体は宮川先生の定番である、AABAの構成なのですが、ニ度目のAと最後のAは
低めの音色の弦楽器が背後で対位法的に奏でられ、この渋く物憂げな旋律がバックに
流れることで、ここの歌との合成がじわ〜っと心に沁みるようないい響きとなってて、
更にそこへ、サビの部分が始まる前に弦が不吉な予兆のような響きを奏でます。
もう、ここがたまりません。
♪でも 許して ほしいの あなたがいないと とてもさみしいの
これが生きてくるんですねえ。ここ最高の技ありです。
歌自体が小さなドラマのような起承転結を形作っていて形式的にも安定感があります。
まあ昔はこういう構成が主体ですから、そのこと自体は特記することではないですが、
宮川先生はこの形式が得手なのか、この形での名曲が目立ちます。
オーケストラの編成はそんなに大きくはないようですが、弦楽器の中低音を多用して
大袈裟にならないけど安っぽさはなくて、これで十分満ちている感覚を抱きます。
中間で入るピチカートも儚げで愛らしく、上手いアレンジというよりも心のこもった
優しさをちりばめていて、これは傑作だな〜としみじみ感じます。
ザ・ピーナッツの歌としてはマイナーな部に属するかも知れないし、一般的には表に
出て来ない歌だとも思いますが、ザ・ピーナッツのファンにとってはかけがえのない
佳曲なのであって、ピーナッツ好きの人なら絶対に外せない、重要な歌でしょう。
実は変な話ですが、この歌の弦の響きが耳に残っていて、バイオリンやビオラなどの
こういう中音というのは凄い魅力があるなと意識していたら、偶然にもブラームスの
交響曲第一番というのをNHKテレビでやっていて、その第四楽章のメインテーマの
響きがこれと私の頭の中で親戚みたいだと妙な親近感を感じたので、それ以後はこの
シンフォニーも好きになりました。(なんでもきっかけはピーナッツです:笑)
(2004.3.8.記)