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コンスタント・レイン  1970.07
 Constant Rain(Chove Chuba)
   作詞:Norman Gimbell 作曲:Jorge Ben 編曲:宮川泰
   演奏:オールスターズ・レオン コーラス:フォー・メイツ
   録音:1970.03.25 キングレコード音羽スタジオ

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

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「フィーリン・グッド〜ザ・ピーナッツの新しい世界」というLPに収められた
「祈り組曲」の中でメドレー形式で歌われています。
このLPのB面は「ニュー・ボッサとザ・ピーナッツ」というサブ・タイトルが
ついていて、「祈り組曲」は「セルジオ・メンデスとブラジル’66組曲」とも
言い直せるかも知れませんが、このグループのサウンドが宮川先生もピーナッツも
かなりお気に入りだったように感じます。

コンスタント・レインという題名は「降り止まぬ雨」とでも訳せばいいのかな。
歌詞を翻訳サイトに放り込んで和訳してみましたが、日本語にしてしまうとどうも
大した内容ではなくて(笑)、原語のままで歌った方が感じがいいなと思います。
翻訳出来ないのが、Chove Chove Chove Chuva〜なんていうフレーズだったのですが、
どうもこのショビシュバはポルトガル語のようでして「しとしとぴっちゃん」風の
擬音の言葉のようです。タイガースの歌に、
 ♪雨がしとしと日曜日 僕はひとりで〜
なんて歌詞がありますが、そんな意味の歌だと思っても間違いじゃないと思います。

この歌もほんのさわりだけを歌っているだけなので、わざわざ一つの曲名項目として
採り上げる必要もないようなものなのではあるのですが、それには理由があります。
元々が、思い入れだけで書き綴っているわけなのですが、この「メドレー組曲」は
これぞ、ザ・ピーナッツの代表的なナンバーだと信じるし、宮川先生も最高傑作の
ひとつだとお考えではないかと推察しているからです。
すなわち、ピーナッツとスタッフの持ち味が最大に発揮されていると思うのです。

ザ・ピーナッツの一枚物のCDは常に今でも店頭に並んでいます。
まあ、それだけでも素晴らしいことだなとは思います。
でも、その収録曲はオリジナルの歌が主体になっています。
これも仕方がなかろうという面はあるのですが、私のように現役リアルのファンと
しては、ちょっと違うんだけどな〜というもどかしさを感じてしまうのです。
勿論、オリジナル楽曲にも素敵な歌はいっぱいあって一枚に入るわけがない程です。
しかし、ザ・ピーナッツの本領はカバー・ポップスの第一人者であるという面を
もっと重要視してほしいなと感じます。

そもそもザ・ピーナッツがとてつもない人気と評判を得て、日本中の注目を集めた
時期には、オリジナルというのは「心の窓にともし灯を」しかなかったのです。
しかもB面だし、NHKテレビ歌謡として歌ったのです。
ですから、例えば、弘田三枝子さんの代表曲が「人形の家」みたいに扱われるのも
私には違和感があって、そうじゃないだろうと感じてしまうのです。
オリジナルでないと価値が無いみたいな思い込みは音楽を計る物差としての次元が
低いと思うのです。誰向きになんて風潮はクラシックにはないじゃないですか。

日本人の味覚に合わせた西洋料理みたいなところがあるのがピーナッツ・ポップス。
だから、そのままじゃ世界に通用するかどうかは判りません。
しかし、恐らくスタッフの間では最高級だと思われていたでしょうし、だからこそ、
他のポップス歌手仲間がさっさと脱落したのに最後までポップス・カバーを歌って
いたのは、それが天命という感覚に近かったのではないでしょうか。
私は同じ歌でも、ザ・ピーナッツが歌うととても耳馴染みがよくて、こんなにいい歌
だったのか、と感じることがしばしばありました。
そこにはただのデッド・コピーじゃない、吸収〜再構築があったからだと思います。

ザ・ピーナッツと宮川泰のコンビが生み出すハッピィな世界がここにあります。
宮川先生の音楽には重厚さ、とか音楽の品位、渋い味わいという面は薄いと思います。
そういう面での優秀さは他に譲るところが多々あると感じます。
しかし、ザ・ピーナッツと宮川泰だけが音楽の全てじゃないのですから、万能である
必要はないのです。弱点を穿り返しても何にも生まれません。音楽の聴き方じゃない。
とにかくサービス精神溢れるとても楽しい仕上がりは驚くばかりです。
まるで目の前のステージで表現される豪華絢爛のポップス絵巻のようです。

宮川先生は何故、作曲をあまりしなかったのだろうという疑問が当時ありました。
今頃推測するのは変ですが、それは、アレンジの方が楽しかったのではないか?
それも、他のどの歌手のためでもなく、ズバリ、ザ・ピーナッツのためにアレンジを
することが大好きであって、二人が喜んでくれるのがなによりも楽しくて楽しくて、
人間どうしても楽しく面白い方に気持が向いていくのは仕方がないことだったので、
結果として、この時代は宮川泰編曲という録音が山のように残っているのだけども、
作曲作品がすっかりご無沙汰になってしまっています。
ご自分で作られるよりも素敵な音楽がいくらでも登場する時代だったから、これを
ピーナッツに歌わせようとか、そっちの方にばかり気持が行ってたのでしょう。

ご本人に尋ねたわけではないので、想像に過ぎませんが宮川先生はザ・ピーナッツが
大好きだったに違いないのです。勿論、ザ・ピーナッツとの仕事という事ですが。
その編曲されたお仕事がそのままラブレターみたいなものだと私は感じます。
とにかく、その愛情たるや凄まじいと私は嗅ぎ分けています。
この「祈り組曲」にも、迸る「愛」が感じられます。
宮川先生のファンという方達も沢山居られるとは思いますが「宇宙戦艦ヤマト」に
その嗜好が集中しているように思います。
作曲家ですから純音楽作品を評価するのはまことに正道ではあるのですが、先生の
場合はむしろそうじゃなくて、まず、ザ・ピーナッツのレコードなりCDを集めて
聴いて欲しいものだと私は思うのです。そうでないと、ある一面しか味わえない。

さて、この録音は時代的にはマルチトラック、マルチレコーディングが可能になって、
歌と演奏は別々に収録するのが常識化していた時期だろうと思います。
しかし、この録音はどうも同時録音としか思えないのです。
宮川先生が一発で録ろうよ、と、提案されたのではないかと推察します。
自分の指揮でみんなが一体となって音楽を作る、その感覚がこの音楽には必要だと
思い込んだのではないでしょうか。そういう活き活きとした音楽になっています。
最後のところの音がライブ感覚で涙が出る程素敵です。日劇のフィナーレみたいだ。
思わず拍手してしまいたくなる嬉しい音楽です。スタッフにも拍手。

(2004.4.11.記)