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日本テレビの歌  1961年
   作詞:秋元近史 作曲・編曲:津田 昭

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★* ★★★★* ★★★ ★* モノ

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この歌は、確かに日本テレビそのものの存在をPRするために存在し、何度かは耳に
したことはありますが、そんなに頻繁に流れていたような記憶はありません。
なので、バックにどんな映像が使われていたのかも忘れてしまっています。
ザ・ピーナッツは存在感があった歌手だし、個性的という面でも圧倒的でありました。
しかしながら歌声に嫌味とか臭みのようなアクの強さがなくてサラリとしているので
この日本テレビの局CMと同様に文化放送のQRソングもザ・ピーナッツが歌ってて、
この2曲くらいしか有名な放送局の歌というのが存在しないことは実に不思議です。
このようなイメージ・ソングには、きっとピーナッツがお似合いだったのでしょう。

ザ・ピーナッツ以前の人気歌手の多くは劇場映画やレコードがそのベースであったと
思われますが、テレビを代表とする放送メディアのアイドル路線の草分け歌手として、
これら放送局の代表的な二つのCMソングを歌ったことは、どこか象徴的です。
放送用の録音テープが音源ですし、まだステレオ放送もなかった時代ですから音質は
保存記録的な価値であって、鑑賞用に適したものではありません。
それでも、こういう音源がCDでリリースされるなんて、いい時代になったものです。
昔は良かった、なんてのは、そういう面もあったということであって、今だからこそ、
入手出来るのですから、今の時代も捨てたものじゃありません。(笑)

いったい誰が作ったのか当時は見当もつきませんでしたがCDのライナーを見ますと
作詞はシャボン玉ホリデーのプロデューサーの秋元近史さんなのですね。
作曲は日本テレビ社員の津田昭さんという方が担当されていますので全部自社製。
これはコストがかからないお得なやり方です。(笑)
編曲は誰がしたのでしょう。まあ、恐らく宮川先生あたりなのでしょうね。
テレビ局のCMソングなので、どうということもなく、あっさりした歌なのですが、
ほのぼのとして、いかにもアットホーム風で、一家団欒でテレビを見ようねという
家族と茶の間とテレビという「ささやかだけど幸せな」雰囲気が漂っています。

カラーでもなきゃステレオ放送でもなく、ブラウン管も14インチが主流だった筈の
実に貧弱なハード環境だったと思うのですが、みんなが夢中でテレビを見ていた時代。
丸いちゃぶ台には、どう考えてもご馳走は並んでなかったと思いますが満ち足りてた。
知足(足るを知る)なんて言葉が浮かんで来ますが、幸福感なんてそんなものですね。

知足は「ちそく」って読んでもいいのかな。良くわかりませんが、いい言葉です。
私はピーナッツのレコード(CD)があれば、他はあまり欲しいとか聴きたいとかは
感じない集中満足タイプです。歌ものはピーナッツのものだけで十分です。
他を全く聴かないというわけじゃないけれど似たようなジャンルは興味が湧きません。
高校生のアルバイト代が(わりと楽だったけど)一日で550円でした。
4日間働いて、やっとLPが一枚しか買えないのですから、ピーナッツのLPだけを
買うのが精一杯のようなところもあったけど、とても大事なものに感じました。

恐らく今だったらアルバイトも一日働けば、CDアルバムを3枚くらい買えそうです。
だからかも知れませんが、CDを沢山買い集める人も多くなったように思います。
コストが安いこと自体は実に良いことなのですが、有り難みがないから、聞き流しに
されるような面があるのではないでしょうか?
CDを沢山買うことで満足して、繰り返し聴くという面が疎かになっては何のために
その媒体を買ったのか意義が薄くなると思います。コレクションが目的なのか音楽を
愛することが目的なのかわからなくなってしまいます。

CDはコンパクト・ディスクの略ですが、古いレコード盤に比べて持つ喜びまでもが
コンパクトに縮小されてしまっている面もあると思います。
LP盤の素晴らしいジャケット写真などは眺めているだけで音楽が浮かんできますが、
CDは12センチ四方の画像に過ぎませんから単に目印的な要素しかない感じです。

CDはアナログ・ディスクに比べ「周波数帯域」が狭く、そこが聴き劣りする原因だ、
ということから、レコード盤に匹敵し、更にそれをも凌駕する性能を持つものとして
SACD(スーパー・オーディオ・コンパクト・ディスク)という規格が誕生した。
また、DVD−Aという新規格も生まれています。
しかしながら、忘れてはならないのが、
「CDの持つ本当の音質の凄さを誰か聴いたことがあるのだろうか」という疑問です。
アナログ・レコードでは限りがないと昔から言われていることです。
「これ以上の音質は得られません」なんて言うのは全部が思い上がりだったのです。

<音楽を聴く時間>というのは実際には非常に限られた幸福な時間だと思います。
やはり生きていなければ聴けないので、そのためには生活する資金が必要なのであり、
働かなくてはお金は湧いて来ません。
私の場合は通勤も含めると一日に11時間はお仕事なのです。皆そんなものでしょう。
ですから音楽を聴く時間は貴重です。時間は過ぎてしまったら取り返せないのです。
その大事な聴くという行為をいい加減には出来ないと私は思うのです。
私は食通ではありませんが、グルメ指向の方の気持はわかります。
今日の晩ご飯は一回しか食べられないのですから出来るだけ美味しく食べたいもので、
同じように音楽も一番良いコンディションで聴きたいと思うのです。

ただ聴けばいいものじゃないと思うのです。
沢山のソースを聴く必要のある仕事をしているわけじゃなくて趣味なのだから自分に
とって満足が得られるものを自分の資力で出来うるだけの配慮をして聴きたいのです。
理想は限りありませんが、まだ、こんなものじゃない筈だ、という謙虚さも持ちたい。
しかしながら、知足とは、「あるものでがまんする」という意味ではなく「積極的に
与えられた物、ある物の中に喜びを見いだす」ことなのです。
縁あって自分が使っているCDプレイヤーなどのパート機器には、それぞれの美点と
弱点がありますが、「おまえ良くこんなにいい音を出せるなあ〜」という目で愛でて
やると不思議に装置の方でも期待に応えて嬉しそうに鳴るものです。

プリアンプなどはザ・ピーナッツの現役時代の代物ですが今でも美音を奏でます。
ふつうはとっくに老朽化で壊れてしまって当然なのですが、これは化物です。
壊れないまでも音質は劣化するであろうと思うのが常識です。だからたまにはここを
バイパスさせて鳴らしてみますが、通した方が音が良いのだから凄いものです。
とても電気部品で動いているようじゃないのです。
我が家最古の電気製品でもありますが、こんなものを作ってしまったデンオンという
メーカーは(少なくとも当時は)凄い会社だったんだと感嘆せずにはいられません。
もし今後寿命がきても同じメーカーにしたいと思います。

さて「日本テレビの歌」の話題に戻りますが.....
この歌を歌ったころは渡辺プロと日本テレビの音楽担当部署はとても仲良しだったと
思います。なんといってもトップに君臨した井原高忠がザ・ピーナッツの名付け親。
この時代は金銭的な生臭い利害関係などでの結束ではなくて夢に向かっていく姿勢が
共通の認識であって寝食を忘れて歌手もスタッフも一生懸命にやった時期でしょう。
後年は縄張り争いみたいな権力闘争みたいになって、シャボン玉ホリデーが終わった
ころからは日本テレビとナベプロは全面戦争に突入してしまったようでした。
こういう話題は事情通の方にお任せしたいので委細は書きませんが、「知足」という
概念がどこかに置き忘れられてしまったのだろうなと思ってしまう次第です。

屈託なく明るいこの歌を聴いていると、ザ・ピーナッツってあらゆる面で知足を知る
極めて珍しい歌手ではなかったかと思います。
あれだけの才能とキャリアを持ちながら驕慢さを全く感じさせず。引退後何年経ても
彼女らのことを悪く書いた記事などは一行も目にしたことはありません。
先輩風を吹かせることもなく、かといって面倒見がいい、という話も残ってません。
歌手仲間としての思いやりみたいなエピソードが語られるのは微笑ましい限りですが、
自分達が芸能界では大御所であるという意識すらなかったのではと推察します。
しかしその芸の精進ぶりは聴く私達を素晴らしさで圧倒します。
不世出のデュオという表現はザ・ピーナッツには大袈裟には感じません。
(2004.7.3記)