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しあわせがいっぱい  1961.05
 IL CIELO IN UNA STANZA(イタリア映画「歌え!太陽」主題曲)
   原曲:Renato Angiolimi.Giulio Rapetti
   作詞:音羽たかし 編曲:宮川 泰
   演奏:シックス・ジョーズ・アンド・オーケストラ

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★ ★★★★* ★★★★* ★★★★★

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 映画「歌え!太陽」は「ボラーレ」その他でわが国にも人気の高い
ドメニコ・モドゥニョ主演の明るい音楽ドラマです。
 南国の太陽に輝くイタリアのこの美しい風と、明るい歌の饗宴に
心暖まる恋の物語で、「しあわせがいっぱい」「マツダレーナばあさん」
のニ曲共この映画の主題曲として挿入され、又、イタリアで流行の波に
乗っているハイティーン歌手のミーナ(「月影のナポリ」)が特出し、
話題をまいています。…………シングル盤ジャケット解説より…………

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♪小さなお部屋 あなたとわたし 二人だけの 小さなお部屋

二つのスピーカーの前方、二等辺三角形の位置で聴くと、本当に
ザ・ピーナッツの歌声が、お部屋に満ちて、夢のパラダイスです。

美音です、美しい響きです。美しい調べです。美しい歌声です。
なんて、しあわせがいっぱい、なんでしょう。
今の録音設備や技術から考えれば、実に素朴な頼りない程の貧弱な
仕掛けであった筈です。ひたすら、ただ録るしかないのですから。
ミキシングは出来ても、それは現場でだけの手段であったのです。
後から何も足せないし、加工も出来ない一発録音です。

それだけに、いや、それだからこそ、このアコースティックな響きが
見事なまでに美しいのです。妙なる音とはこういう音響を言うのでしょう。
ザ・ピーナッツの声の録音レベルはけっこう高いと思うのですが、これが
全然喧しく響かないのです。妖精の声のように澄んでいて暖かいのです。
演奏もとてもいいですね。絹糸のようなふわ〜と始まる感じが素敵です。
最初の一音から、す〜と夢の世界に引き込まれてしまいそう。
シックス・ジョーズ・アンド・オーケストラという風に書いてありますが
そんな大袈裟な伴奏ではありません。
木管セクションがさりげなく陰影を背後に漂う霧のように響きます。
これが何ともいえずいいですねえ。趣味がいいというのかなあ。

音色や響きが古色然という感じですが、その佇まいは今日ではなかなか
聴く機会のない忘れられた美意識に貫かれていると感じます。
この脆さ、儚ささえ感じられるデリケートな響きは、静かな部屋で耳を
澄ませて聞き入るという行為を忘れてしまっている現代には貴重です。
どこか、昔の電気を使わない蓄音機から流れ出る音に一脈通じます。

ザ・ピーナッツの歌も実に神経が細やかです。
きっと何度も練習し、二人で磨き上げたのだろうと思いますねえ。
もうここまで歌ってくれれば、オリジナルと比べて云々なんてナンセンス。
そういう不粋な真似をしたって、何もこっちの心を豊かにはしてくれません。
率直に申し上げて、この頃のザ・ピーナッツの歌声は最高に大好きです。
天使の歌声としか表現のしようがありません。無垢な清らかさに満ちてます。
これ以上の上手さなんて、歌に必要なのだろうか、とさえ感じます。

この一つ前のシングル盤は「十七歳よさようなら(A面)」でした。
これも目指す所は殆ど同じに近く、似たような歌が続くなあと感じました。
この直後のシングルが「インファントの娘(A面)」なんですね、これが。
三作続けてスローな歌です。こういう類いの歌い方をすっかり体得したのか、
「インファントの娘」は、私は歌唱の極致に達したようにさえ感じました。

モノラルのEP盤を何十回も繰りかえし、なが〜い年月聴いていました。
その状態でさえ、聞き惚れていたのです。
それが何とCDになって、何と何とステレオで聴けるという夢のようなことが
実現出来たのです。デジタルの音が悪いとかどうだとか、そんなことを言ったら
バチがあたります。それはそれは凄い感動でした。
不思議に頭の中でステレオ録音の筈だから、きっとこんな風に鳴るのだろうなと
イメージしていた期待通りに、またイメージでは追いつけない見事な音像が、
浮かび上がって、まさに有頂天になってしまいました。
交通事故とかにあって若死しちゃったら、こんな幸せを味わうことも出来ないで
あったろうと思うと、いやあ、本当に良かったとしみじみ感じたものです。

ソロのピアノは当然、宮川先生なのでしょうね。ベースも渡辺晋さんが弾いて
いた、そんな時代だと思います。ファミリーなバックアップに支えられていて、
もう同じスローなナンバーでも「可愛い花」のレコーディングの歌声のような
緊張した感覚ではないけれども、手慣れたという厚かましさはなくて、丁寧に
この曲を活かそうと音楽に謙虚に歌い上げていて、とても好感を持てます。
妙な演出もなく、嫌味なものが混じっていないピュアな歌だなと感じます。
この素直な一途さが何度聴いても飽きない良さの秘密ではないでしょうか。

音が鳴って、歌が聴こえてはいるのだけれども、なんて静かな音楽でしょう。
ショーケーキを食べながら紅茶でも飲んでいるような、ありきたりの日常の
ほんの一時がとてもかけがえのない素敵な時間が過ごせたように感じられる
そういう、2分38秒のしあわせがいっぱいの時間がここにあります。

(2004.9.14記)