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サンフランシスコの女  1971.10
   作詞:橋本 淳 作曲:中村泰士 編曲:宮川 泰
   演奏:オールスターズ・レオン
   録音:1971.07.28 キングレコード音羽スタジオ

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★ ★★★★ ★★★★★ ★★★★★

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 この歌を最初に聴いた時、ちょっとイヤな歌だな〜と感じたのを覚えています。
どこがイヤだったのかと言いますと、馴れ馴れしいというか、見え透いていると
いうのか、大衆に媚びているような歌だなと感じたのです。
 無理に流行らせようとしているような、何としてでもヒット曲が欲しいのです
というようないじましさがあって、ちょっとみっともない、とまで思ったのです。
 特にシスコ〜シスコ〜というところが気に障ってしょうがない。嫌いだった。

 大衆目線で仕事をするというのが渡辺プロの方針であったということも最近知り、
やはり難しい歌を歌わせたくなかったということでもあったのかも知れません。
 大衆より一歩先を行く、引っ張っていくというよりも大衆に愛される好まれる歌を
歌わなくてはという路線なんだと思いましたし、それが別に堕落というわけでもなく
流行歌手の宿命みたいなものなのでしょう。
懸命に考えた結果が「女(ひと)シリーズ」であったのは無難な線狙いかも知れない。
 ところが、そういうイヤなイメージが年月によって風化してしまい、今ではこれ、
結構好きな歌になってしまいました。

メロディーは、これ以上人懐っこい歌はないだろうと思える程に易しくてすぐ覚えら
れるし、サビへの変化の仕方も自然そのもの。こういう流れしか考えられないほど。
だから、良いメロディーであることは保証付きみたいなもんです。
作曲は宮川さんじゃなくて中村泰士さんです。宮川先生はヒット・メーカーなどど、
世評では言いますが、こんなに歩留まりの悪い作家はヒット作家じゃないでしょう。
そもそも流行る歌を作ろうと真面目に考えていないようで、自分の好きなものだけを、
こういうのを歌わせたいから作る、と思い込んで作っている感じがします。
私はザ・ピーナッツの為の全ての作曲が名曲だと信じていますし、その素晴らしさは
大衆には判るまいと思っています。だから全部、宮川さんでいいのに、それも残念。

歌詞も、国籍不明というか日本人がいっぱい居るところで起きそうな失恋ソングだが、
深刻さがありませんので妙に暗くないという大変面白い構成です。そして、これまた
大変覚えやすく展開に無理がないので、スラスラと歌えてしまいます。
☆ピーナッツ・ホリデー☆のアンカーさん宅でオフ会をやったときに、オリジナルの
カラオケレコードがあって、ついつい歌ってしまったのですが、歌詞なんかなくても
ソラで歌えてしまうので、インファントさん、この歌好きなの? ときかれました。
あんまり好きじゃない、という本音は言えなかったのですが...(笑)

さてさて、結構いけるのが、このアレンジなんですね。これは良いですよ。
チンドン屋みたいな伴奏だな、と第一印象は良くなかったものの、良く聴きますとね、
初っぱなのソプラノ・サックスの使い方なんて今思うと斬新ですよね。
なんか、まとまりそうもない楽器群を左右にちりばめて、とても面白い効果を出して、
サンフランシスコの寿司レストランで待ち合わせして食事して、中華飯店でお茶飲み、
ホテルのバーで別れ話をするといった感じで、和洋華折衷という楽しい響きです。
民族楽器が使われているわけではないのですが、そういう風味を出すのが面白いです。

ザ・ピーナッツのレコードに限りませんが、楽器を担当している方のお名前がない。
オールスターズ・レオンという名称ですが、レオン・サンフォニエットという名前も
実体がないように思うので、実際には相当な名手の方がやってるんじゃないかと思う。
前奏と間奏にも登場するソプラノ・サックスの音色など相当な名人ではないのかな。
この歌に限ったことじゃなくて、ピーナッツのレコードは演奏がとても上手だと思う。
伴奏だけ聞き耳を立てても結構いけるように思います。

この歌にはオリジナル・カラオケが存在しますと書いたように、後期の録音だから、
歌と演奏が別々のトラックに入る、現在のスタイルなので、歌は後から入れたのです。
ザ・ピーナッツのレコードは大活躍していた時代の大半が同時録音だったのですが、
「恋のフーガ」から後で歌を入れる形式になったようです。(断言出来ませんが)
フーガの金管楽器の響きは日本人の音じゃないパワーがありますから、一歩進んでた
外国での演奏収録のように感じます。その後、日本でも同様になったのでしょう。

モノラル時代の録音は歴史的または資料的なイメージがあって、聴く事は聴きますが、
サウンドを楽しむという感覚は持てません。しかし、「月影のナポリ」から始まった
ステレオ録音は最初の一曲目から素晴らしい音響で聞き惚れてしまいます。
それ以後、一貫して高いクオリティーを保っていて凄い音質レベルを維持しています。
よくステレオ初期の録音は左右のスピーカーに分離することばかりを考え過ぎていて
不自然なものが多かったなどと言われますが、ザ・ピーナッツの録音ではつまらない
感覚は全く伴わず、ポップス系のせいもありますが、不自然でも全然オーケーです。

時代が進むにつれて録音機材も良くなったとも言われますが便利になったという面が
大きくて、音そのもののクオリティーは大差ないだろうと思います。
ダイナミック・レンジが広くなったりはしていますが、元々、ポップスや歌謡曲では
大きなダイナミック・レンジは必要なくて、実際に最新機器でまともに極微小音から
最大の音量までちゃんと入れてしまったら、小さい音はミニ・コンポなんかだったら
ウンともスンとも何も聞こえないのです。
はっきり言って、昔のレコードのレンジで十分なんです。おつりが来ますよ。

録音テープが24トラックにまで拡大されたり、マイクなどはどこに限界があるのか
見当がつかないくらいにラインに繋げられます。
そうしたら音が良くなるか、というと使い方のセンスの問題だから、必ずしも音が
格段とレベルアップするということはありません。
クラシックの名録音談義では、たった2本のマイクで録音した60年代のものが逆に
脚光を浴びていたりします。もちろん、そのテープは2トラックしかありません。
元のテープが何トラックあろうが、所詮は最後に2トラックにするんですからね。

凄いなと感心するのは、昭和35年のピーナッツの録音が総べて瑞々しい音質で
聴けることです。当初から海外の最高レベルの録音機材を使ったのでしょう。
今でこそ技術大国日本と偉そうに言っていますが、当時の日本の録音機材なんかは
玩具みたいなもので、お金をとるプロが使えるようなもんじゃなかったそうな。
磁気テープも同じ、絶対にSONYのテープなど使っていないでしょう。
国産のテープだったら、45年間も磁気をきっちり保持出来ないかも知れません。
もしかすると現在でも、こういう特殊な世界の機材は同じ情勢かもしれないな。
最新のCDでも昔の音楽が眼の醒めるような美音で鳴るって凄いことだと思うな。
マスター・テープ様様です。ありがたや、ありがたや。

ザ・ピーナッツのお二人は声音もいいが、音程もいい、リズム感ももちろん良い。
更に凄いのは「タイミング」のセンスが凄くいいんです。
これは双生児だから息が合ってるという面だけじゃなくて、伴奏とのタイミングの
きっかけのような間の取り方が絶妙。このために同時録音であってもあまり苦労は
しなかっただろうと思うのに、晩年はテープに合わせて何度でも入れ直しが出来て、
これはお茶の子さいさいじゃなかったかな、と思われます。
軽くクリアしてるから、後期の録音はのんびりしちゃってるように聞こえるのかな?

裏面の「ロンリー香港」好きだなあ。
(2005.2.20記)