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ジングル・ベル  1960.10.31
   訳詞:音羽たかし 作詞・作曲:J.Pierpont 編曲:宮川泰
   演奏:シックス・ジョーズ

   

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

ジングル・ベル  1962.11.01(別バージョン)
   訳詞:音羽たかし 作詞・作曲:J.Pierpont 編曲:宮川泰
   演奏:レオン・サンフォニエット

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★* ★★★★★ ★★★★★

    

    

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ザ・ピーナッツのジングル・ベルのレコード録音は2種類あります。
最初のバージョンはデビュー2年目の晩秋に発売されたようです。
ようです、というのは、まだ中学一年生で、ザ・ピーナッツ・ファン以前でしたので
記録で知っただけです。翌年も同じバージョンのを再発売しています。
改めて録音し直したのが、デビュー4年目のクリスマス・シーズン向けのリリース。
録音し直す理由は良くわかりませんが、スタッフの何かのこだわりなのだと思います。

最初のバージョンはとても楽しく軽快で実に素晴らしい出来栄えです。
楽しい歌を歌うピーナッツは、その明るさにおいて、日本のトップクラスだと思う。
案外、こういう浮き浮きした感じで歌える人は少なく、歌唱力だけではない、何かの
プラス・アルファの要素がピーナッツに備わっているからではないかと感じます。
それに如何にも十八歳のお嬢さんらしい元気でチャーミングな歌声で心が和みます。

演奏はお馴染みの渡辺晋とシックス・ジョーズでこれ以上息の合う組合せはないとも
言えるコンビネーションで、もう自由自在、リラックスして歌っておりますね。
シックス・ジョーズ伴奏の場合はプラス何何というケースもありますがここはピュア。
バンド・プレイの見せ場もある極めつけのアレンジで大変に盛り上がります。
この時点では宮川泰さんの知名度は殆ど薄いのですが、分かりやすく親しみやすい
編曲はこの頃から際立っているなと感じます。アドリブも覚えやすい感じですよね。

何か凄そうで、どう凄いのかわからないのが松宮庄一郎さんのギタープレイです。
恐らく、これは大変なテクニックなんだろうと思います。
コードを抑えながらだから、コード進行でメロディー要素を演じているという風。
でも、それが専門家とか楽器マニアにしか伝わらないというのとはちょっと違って、
わかんないけど、どこかかっこいいし、このジャカジャカジャンジャカジャカジャン
というリズムに乗った引き方は魅力たっぷりです。

この時代ですから当然、一発録音、同時録音、歌も演奏も一緒に録音していますが、
そういう時代背景抜きでも、この盤はライブみたいな生々しさを持っています。
眼前でたった今、演奏してくれたような臨場感があります。
演奏も歌も録音用というより、そのままクリスマス・ディナー・ショーをやってる
その雰囲気があって、手に取るように上手さ、達者さが感じられるのです。

私の若い頃には、この季節になると、クリスマス・ダンス・パーティーというのが
あちこちで開かれて、自分の勤め先でもやりましたが、他所の会社からお願いされて
演奏しに行くのが結構楽しかったです。組合の上部団体の関係が殆どでしたから、
当然、会社公認で、準備のために時間内に職場から堂々と抜けだせるし、楽器運びは
辛いのですが、単調な仕事より、わくわくしました。
そういう時に、共演するバンドが居ると、それを傾聴するんですが、その場の響きと
このレコードの響きが似てるんです。楽器が近いなあ、という感じですね。
勿論、シックス・ジョーズですから、プロ中のプロ、名人芸なので素人の演奏とは
一緒に出来るわけがありません。やっぱり凄く上手ですね。

さて、後で出たもう一枚のジングル・ベルですが、アレンジャーが同じ宮川先生だし、
こういう風にやるのがオレ流とばかり、構成はそっくり同じです。
ただ、こちらはオーケストラですから譜面は重厚で、オーケストラでの演奏の良さを
発揮させています。とっても親しみやすい気取らない楽しさがあり、オーケストラで
再録する意味というものが明確になっています。
テンポはやや遅めですが軽快さに欠けるという程じゃなくて、大編成の良さを活かす
には、このくらいが丁度いい、という感じも受けます。

ザ・ピーナッツの歌そのものは圧倒的に前者が勝っていると私は思います。
若々しくて元気で、声の張りもあって瑞々しい綺麗な声音です。
2年後といっても、まだまだ十分に若いピーナッツなんですが、後者の録音では
何故かこもったような、くすんだ歌声に聴こえます。
なんだかユミさんの方が風邪気味のように聴こえるのは気のせいでしょうか?
ユミさんの高音がクリスタルグラスのように煌めかず、曇ってて、エコーでなんとか
カバーしてるような線の細い発声に聴こえるのですが、どうなんでしょうね。

私はザ・ピーナッツのレコードは親に懇願して何とかして買い揃えたいと思ってた
のですが、元々貧乏人の家庭ですからクリスマス・レコードまでは買えませんでした。
どうしても欲しいといえば買ってくれるのは分っているのですが、お金が沢山はない、
ことぐらい中学生でも知っているので、我慢しなきゃ、と涙を呑みました。
ザ・ピーナッツの後援会で同い年の人と多少仲良くなったので彼の家にお邪魔すると
立派なセパレート・ステレオ(こんな表現、今じゃわかんないかも)を持っていて、
ピーナッツのクリスマス・レコードもあるじゃないですか!!!

クリスマスでもないのに、これかけて、とリクエストしちゃいました。
ああ〜いいな〜と感動したのは当然でしたが、彼の家は金持ちだとうらやましくてね。
だって、ステレオも家族のじゃなくて、彼のなんですから、僻んじゃうよなあ。
そういう昔話を中学のクラス会で言ったら、冗談じゃないよ、俺達はあんたの家が
すげえ金持ちだと思ったというんです。自分の部屋があるヤツなんて居なかった、と。
確かに個室を持ってたのですが、私しゃ部屋よりステレオが欲しかった!!
そのステレオを聞きに電車に乗って彼の家に押しかけていたのですが、次第次第に
彼の態度が冷たくなって来たのです。お母さんなんか特に露骨な感じで....

そのうち、受験勉強もしなきゃいけないので、ザ・ピーナッツ・ファンはやめようと
思ってる。それに、音楽ならば、ザ・ビートルズの方がずっといいと思うなんて言い、
抱きしめたい、なんてレコードをかけるんです。
ど〜も、ああいうお友達と付き合ってると立派な人になれませんよ、ぐらいのことを
親に言われてるんだな、と思い、それからはもう遊びには行きませんでした。
文字通り、お邪魔しました、なんだなと、なんか、とても情けない気分になりました。
クリスマスのレコード聴くと、ちょっぴりあの時の事を思い出して、彼は、きっと
優秀な学生になって、立派な大人になっているんだろうけど、何かを失っているよな、
と負け惜しみのような変な気分になって、気持よくない面もありますね。(笑)
彼の所にあるザ・ピーナッツのクリスマス・レコードが気の毒でなりません。
あんな綺麗な可愛いレコードなのにね。私の所へ嫁に来れば大事にしてあげたのに。

その後、今度はリリース・ラッシュじゃない時期に出たので、やっとクリスマスの
レコードまで手が届いたのが、上のシングル盤ですが、電蓄しか家にないわけだから
買ったのはモノラル盤でした。でも、以前に聴いたのより何か大人しくてガッカリ。
バージョンが違うのでした。それにモノラルというのは、こういうレコードなんかは
致命傷に近いです。モゴモゴした音で何回も聴く気にはならず、やっぱり昭和35年
に出た方じゃないと楽しくないと思いましたが、もうその頃にはラジオで流すのは
新バージョンばかりでした。

そして、この度目出度く、このオーケストラ・バージョンがCDで、ステレオ版で
聴けることになったのですが、イメージよりは遥かに良いですね。
ステレオ版も初めてではなくて、聴かせて頂いてはいたのですが、今度のCDでは
リマスタリングされているようで、音に深みがあって、オーケストラならではの
良さがぐっとクローズアップされたのです。以外といいじゃんか! なんですね。
昭和35年のを100点とすれば、60点位と感じてたのに、90点位いってます。
なんにしても同じボックスに同じ名前で2種収録するのは快挙です。大喝采です。

中間の木管楽器のトボケた太い音のソロ演奏がいいですね〜。
この音色は何の楽器でしょう。
コントラバス・クラリネットじゃないのかな〜と思っているんですが、実際に音を
聴いたことがないので、この楽器なのか、どうか、わかりません。

第2候補は、コントラバス・バスーンですが、こっちだとすると、ボッボ〜と
いう感じになると思うので、違うんじゃないかな、とか、興味津々です。
いずれにしても宮川先生は面白い楽器を指定したんだな、と感心します。
これをちゃんと吹けてしまうオーケストラのメンバーもすごい。さすがプロ集団。

(2004.12.3記)