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ホワイト・クリスマス  1963.11.01
   作詞・作曲:Irving Berlin 編曲:宮川泰
   演奏:レオン・サンフォニエット

    

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
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ザ・ピーナッツが最後に録音したクリスマス・ソングです。
このあたりで打止めということはアイドル卒業ということだったのでしょうか。
翌年、同じシングルのステレオ盤が出ていたことが☆ピーナッツ・ホリデー☆で
わかりましたが、当時は気がつきませんでした。
我が家にステレオ電蓄が登場したのは昭和37年(1962年)の年末ですから、
最初のステレオ盤は「LP:祇園小唄」でした。
だから、ホワイト・クリスマスは当時からステレオで聴けたはずでしたが、残念。

私の所持しているレコードは私がお店から新品を買ったものなので中古ではなく、
それだけに長いおつき合いで、私とずっと一緒に居た伴侶のような存在です。
一枚一枚が新曲で、その時から聴いているので、何かしらの思い出もあったりして
単なる品物のコレクションではない、自分自身の一部のようでもあります。
愛着なんていう生易しい言葉では済まないような一体化の感覚があります。

私の当時のレコードの買い求め方は、毎日のようにレコード屋を覗くことでした。
当時でも次月発売予定の小冊子をレコード店でくれるのことはあったのですが、
そんな情報よりも、実際にピーナッツのレコードが店頭に並ぶ方が早かったんです。
それも一ヶ月も早く出るのだから毎日店をチェックした方が早いというわけです。
現在残っている発売記録はその発売予定の年月日でしょうから、もっと早いのです。
恐らく雑誌とかもそうでしょうが、全国に確実に到達するであろう日を想定して
いたのだろうと推察しますが、川崎は東京のお隣ですから早かったのだと思います。

そして、これも推測ですが、ザ・ピーナッツのシングル盤は録音してから店頭陳列
に至るスピードが圧倒的に早かったのではないかと思います。
じっくり企画した曲は、ジャケット・デザインまで曲想にしたがって作るために、
それなりのリードタイムで時間をかけたと思いますが、ポップス・カバー曲のそれは
目覚ましいスピードで商品化していたように感じます。
確かにカラー写真など世間にも広まっていない時代ではありましたが、商店のチラシ
並の色数しか使わず、ブロマイド写真との合成で一晩で作ったようなジャケットが
EP盤に多かったのは単にコストを抑えるような意味じゃないのだと思いました。
クリスマスのレコードはですから、割と用意周到に出来るのでお洒落なカラー写真で
飾られていたのでしょう。

カバー曲の場合などは、きっと録音スタジオから工場へタクシーで運んだり、とか、
工場では「お〜い、また、ザ・ピーナッツの特急便が来たぞ〜」と職長が言うと、
「え〜、明日はデイトの約束したんですよ。残業は勘弁して下さいよ」なんて部下が
泣きを入れて、「だって、まだジャケットが印刷屋から届いてないんですよ」とか
「ジャケットなんか後で入れればいいんだから、とにかくカッティングが終わったら
今日中にメッキかけとくから、明日から、3号機でプレス出来るようにしとけよ」
「それはマズイですよ。あのラインは今、仲宗根美樹の新曲プレス中なんですから」
「そんな売れるかどうかわからねえのは後だっていいんだ。ピーナッツのは絶対に
売れるんだから、ボーナス欲しけりゃ文句言わずに切り替えな」なんてね。

ま、もちろんフィクションですが、そんなことはないのじゃないか、記録が正しくて
インファントが早く買えたなんてのは記憶違いだろうと思うのもごもっともです。
しかし、証拠にはならないでしょうが、例えば「恋のバカンス」の裏ジャケットに
歌詞があるのですが、これが初回プレスの場合は、全然違うものが印刷されてます。
歌詞が、一番、二番となっていて、構成自体違ってます。
たぶん、間に合わなくて、岩谷時子さんの詩の原稿のままで印刷に行かざるを得ない
そんな状況下だったのでしょう。歌を聴けば違うのは誰だって気付く筈ですからね。
要は、超特急の仕事を本社からの業務命令でやっていたのだと思うのが自然です。

「山小屋の太郎さん」もレコードになるのが早かったですよ。
ニッポン放送、ザ・ピーナッツ今月の歌で聴いてから、いくらも経ってないのに、
いきなりシングルB面ですから、びっくりしました。
これも推測ですが、A面は全国区の歌でレコードにすることを即断したのでしょうが、
B面に何入れたらいいかな〜ということになって、あ、あれでいいじゃないですか、
と決まったのじゃないかと思います。ザ・ピーナッツ今月の歌でレコードになるのは
こういうレコード運があるのではという感じを持ちます。
それがウエスタン風のとっても楽しいイントロが新しく付いて見事な仕上がりになり、
宮川泰って天才じゃないのか、と感動しました。
他にもたくさん岩谷〜宮川コンビで作ったのですが、今となっては埋もれてしまって
聴く事は出来ません。まあ、しょうがないですね。お二人とも有名じゃなかったし。

話を戻して、ホワイト..のレコードですが、モノラルという音源とこの歌の味わいが
合わないのか、ザ・ピーナッツならではという良い面があまり感じられませんでした。
ところが、
今回の新しいCD箱のリリースでステレオ録音のおまけに最新技術でのマスタリング
で素晴らしさが蘇ったな、と感じています。この録音はこう鳴らないと意味がない。
左右のピーナッツの声とバックの混声合唱団の声とが混濁したモノラル盤では駄目で
やはりスピーカーの間で空間合成される歌と演奏の楽しさがなによりの魅力です。

掲示板にも同じようなことをいっぱい書きましたが、反応は今ひとつ。(笑)
それは新しいCD箱の音質の良さです。
音質云々以前の酷い資料的録音も同時に同梱されているためにクローズ・アップが
されにくい面もあるのですが、一言で言うと「コントラストが丁度良い」音です。
すなわち、これ以前のCDでも音質が悪いというようなことはなかったのです。
でも、テレビの画面のマニュアル調整でコントラスト強めにしたような音質に近く、
それはきっと、わざとそうしていたのではなくて、アナログからデジタルへ変換の
場合に音像にエッジが立ち過ぎるという現象が図らずも起きていたのではないかと
推測します。

ご存知のように20年の歴史となったCDには2万ヘルツ(1秒間に2万の波)の
音の波までしか収録出来ません。それ以上の高い音は鋭利な刃物で切ったように
スパッと切り落とされてしまいます。
FM放送やカセット・テープではもっと狭くて、1.5万ヘルツあたりから落ちて
しまうのですが、こちらは切り落とす感じではなくて、だらだら下がりに落ちます。
この切り落とし面の違いが自然界にない事象なので、人間には不自然で、落とされる
間際の2万ヘルツ付近の音が気になるのではないでしょうか? (仮説です)

またその切り落としを(電子的な)フィルターで事前に行わないと駄目なそうなので
そのフィルターのかけ方には、ひと工夫しなけりゃいけないそうです。
その工夫が段々進歩しているらしいのですが、最初はキンキラキンのド派手な音に
なってしまい、その下手な仕事の音がCDの音か、と早合点した音楽ファンはCDを
拒絶したという歴史もあります。
また、最近は絶対と信じられていたデジタルの命であるマスタークロックにも焦点が
当てられるようになってきました。
水晶発振器の出す信号が揺らいでいるという世にも不思議な物語ですが、不思議だと
思っているのは私のような素人だけなのであって、プロの世界じゃ常識でジッターと
称する「揺れ障害」がとっくに問題になっているのでした。

私のパソコンだって、腕時計だって、遅れたり進んだりするんだから正確じゃないと
いうことはわかってますが、それでもテープレコーダーの回転やプレイヤーの回転に
比べたらずっと信頼性があるんじゃないの、と思っていました。
確かに、うんと高級なものでも安物でも、殆ど差はないし、遅れても構わないですが
問題なのはランダムに「揺れる」という事です。そういうものとは知りませんでした。
テープレコーダーにせよ、アナログプレイヤーにせよ、回転の慣性モーメント法則で
むしろ細かく回転が変化することなんか出来ないから「揺れません」。
でも、デジタルの場合はクロックが全てで、全部これでコントロールしていますから
これが揺れたら話にならないのです。
ミクロの世界の話ですが実際に揺れていて、アナログにはこれはありません。
アナログレコードとCDPとの音の違いは ここに原因があったのでしょうか?
レコードの高域の自然さは、これも原因ではなかったのでしょうか?

http://www.kingrecords.co.jp/studio/st04.html

ここが、今回のボックスのマスタリングをしたスタジオですが。
Clock Generatorというプロ御用達の機材があることがわかります。
全てのデジタル機器へのクロック供給を一元化して、ここから送り出すのです。
ここにはお金を出し惜しみしないで、非常に高精度の発信源を置くはずです。

あなたのパソコンも私のパソコンも大体、100〜200ppm程度の精度の
水晶発振器しか積んでいないはずです。パソコンとしては何も問題ありません。
CDプレイヤーも普及機ではこんなもので、高級機では1ppmの厳選部品を使い、
プロレベルで0.1ppm。これ以上になるとルビジウム原子信号発振器を使用。
更にセシウム原子信号発振器を使うスタジオも出てきて桁違いの精度を用いてます。
こういう面も、もしかすると自然な音楽の流れに寄与している可能性があります。
また、この違いは何も高級なオーディオセットで聴く音にうるさい連中の趣味性の
問題ではなく、誰でもどんな音楽でも感じられる違いだと言われています。

さあ、突っ込んだついでだ。
最近はどんなに新しい音楽でも、また、収録がデジタルであっても、最後の仕上げの
音決めには「一旦、アナログにする」傾向にある、という面白い記事を見つけました。

http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20011016/dal29.htm

 マスタリングとは、そのアルバムでどういうものをトータル的に表現したいのかと
 いうコンセプトを実現させていくことです。と書いてあります。
そして、
 フルデジタルでいろいろ試して来ましたが、結果的に現在はアナログですべてを
 やっています。デジタルでここにやってきた素材も、一旦アナログにしてから、
 マスタリングし、最終的にデジタルに戻すのです。
 というのは、デジタルでEQをかけても無い音は絶対に出てきません。よく「闇夜の
 カラスが見えるのがアナログだ」なんて言いますけれど、
 今のところ微妙なコントロールはアナログでないとできないんです。
これは愉快な話です。
アナログ時代のピーナッツの録音だって、これ(アナログ)以後のステップは同じ、
私は従来の不自然に焦点が全部に当たっているような音ではなく、輪郭が克明過ぎる
強調さがなく、耳に自然な感覚が蘇って、耳慣れた懐かしい響きが戻って来たように
感じるのは、このような努力がキング・関口台スタジオでなされたと思っています。
聴き慣れた曲がしみじみと聴けるのはとても有難いことです。

ザ・ピーナッツ・メモリーズBOXのちょっと少女趣味な(笑)可愛い花をイメージ
した箱のデザインもお気に入りです。(趣味と合わない人も居ると思いますが)


(2004.11.4記)