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ジェルソミナ  1963.06
 GELSOMINA
   原曲:Nino Rota M.Goldieri 作詞:あらかはひろし 編曲:宮川 泰
   演奏:レオン・サンフォニエット
   録音:1963.02.14 文京公会堂

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★* ★★★★★ ★★★★★

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フェデリコ・フェリーニ監督の最高傑作と称されるイタリア映画「道」の主題曲。

オーディオ・チェック・レコードかと思ってしまう程の強烈なパーカッションの
イントロで始まります。(オーディオ・チェック・レコード=死語か?)
グゥ〜ンという音は何の音なんでしょう? ティンパニーで出せるのかな?
とにかくこんな凄い音響で始まる歌というのも珍しいと思います。
地を這うような、また圧倒的な空気の容積感は狭いスタジオでは出せないはずで、
この録音は文京公会堂を借り切って収録しています。
録音場所はレコードにもCDにも書いてありませんが、このサイトの隅から隅まで
見て頂ければ、確実なその証言があります。

レコード・ジャケットには、
ブルー・カナリヤで始まり、ヴァイア・コン・ディオスに終わるこのLPは、よく
ご存じのヒット・ナンバーの数々を「ピーナッツ・カラー」で新たに装いをこらし、
みなさまを快いリヴァイヴァル・ムードにお誘いしようと企図したものであります。
それぞれの曲調に応じて、編曲、唱法にも新鮮なタッチで巧まざる効果を狙い、
楽しく聴けるLPに仕上げております。この分野におけるザ・ピーナッツのめざま
しい進境に御注目いただけるものと思います。

というコメントが書かれております。

まさにその通りの新鮮なタッチの白眉がこの曲で、宮川曲芸の面目躍如という感じ。
打楽器に続いてはホルンとトロンボーンの響宴などなどアレンジの妙味の権化。
多少の時代考証をしたいと思うのですが、この時点では宮川先生は世間一般的には
まだあまり知られている存在ではありませんでした。編曲・指揮:宮川泰と小さく
書いてはあっても、それを見てレコードを買い求めるような事はなかったでしょう。
しかし、このアルバム全体に宮川先生の才気が迸っている感じがします。
特にこの曲などは宮川アレンジ大爆発。気に入らない人も絶対にいるだろうと思う。
そのくらい強烈な個性が発揮されている。良し悪しは別にしても存在感は絶大です。
無意味なダイナミックスではなく、映画の内容を暗喩している面もあると思います。
ムソルグスキー「展覧会の絵」中の「サミュエル・ゴールデンベルクとシュミイレ」
を私は連想してしまいました。強者と弱者の関係ですね。

ザ・ピーナッツはこの異様さに気圧されてしまっているような印象を私は持ちます。
たじたじ……という感じ。(笑)
ノリ切れていない。大音響に魂消ている。どういう風に唱えば良いかが消化不足。
初っぱなのユミさんの一節など配分を過って息が切れてしまっている。
こういう事象は演奏との一発ナマ録音だから出て来てしまうのだろうと思うのです。
繰返しの録音は出来ても、全てがライブ感覚で、歌と演奏と録音も上手くいくまで
完成しないのだが、繰返しにも限度があるのでこのテイクで良しとしたのでしょう。
私はもう少し上手く歌えるのじゃないかなあ、と少し残念に思います。
恐らく1日に3〜4曲くらい収録しなきゃならないので急いだのでしょうね。

しかしながら、この音響空間の広さ、特に響きの奥行きの深さは驚嘆ものです。
この曲を改めてじっくり聴いてみようと思いアナログレコードも傾聴してみました。
このホールトーン(演奏会場の響き)はレコードに一日の長があると感じます。
ピチパチと針音を伴ってしまうのが玉にキズですが、そういう些事を忘れるほどに
自然な音響空間が部屋に充満します。ボーカルも滑らかに聴こえます。
CDはフォーカスがかちっと合って実に正確であり、低音など明晰なのでどこにも
文句がつけられないのですが、何かが喪失している気もするのです。
いつかまた、アナログLPでも再発売してもらえないかなと思います。無理かな?

余談ですが……
一月ほど前からプリアンプ(コントロールアンプとも言う)の調子がおかしくて、
時間が経たないとまともに鳴らなかったり、ずっと聴いてると不安定になったりと
どうも寿命が来たようなのですが、遂にその症状がはっきりしてしまいました。
この機種はデンオン(現デノン)製で、もう26年間も使い続けてきたのです。
それまではちょっと聴いてはまた買い替えることの連続でしたが、この製品の音は
もうこれ以上の音質は私には要らないと確信するに至った素晴らしい芸術品でした。
電気製品で、おまけに凄い発熱があって、よくこれまで生きていたものだと今更に
感心するほど素晴らしい設計と使用部品の品質には驚くばかりです。

このような良心的メーカーでもあっても、いくら何でもこんなに古い製品の修理は
不可能と思うし、名器なので、ネットで修理出来るところを見つけはしましたが、
予約が一杯で受け付け中断中だし、画面情報でざっと計算しても10万円はかかり
そうで、そんなお金はありませんし、また直ぐにイカレそうです。
そこで色々思案し、また状況を分析したところ、中間アンプだけを使う事を前提に
安いものでガマンしようと思い、昨夜、安物のプリアンプを注文しました。

現在使用中のプリアンプの魅力の殆どがヘッドアンプとイコライザーなのです。
ヘッドアンプ(用語の別の使い方もありますが、ここでは狭い意味で)とはMC型
の小さい出力電圧を10倍以上の電圧に増幅させる回路です。トランスでも可能。
フォノカートリッジには針先の動きに伴って磁石が動くタイプとコイルが動くもの
とに大別されます。一般的にはコイルが動く方がより繊細でかつ音に芯がある等と
評されますが、そもそもレコードをカッティングする機械はコイルが動くタイプで
あるので同じ形式がより相応しいのだという説もあります。
しかし、いかにもレコードっぽい音がする磁石が動くタイプ(MM型)も棄て難く、
滑らかな良さがあるので、私はトーンアームを2本常備させて併用しています。
MCはある面、CDっぽい感じで、我が家ではCDとも違和感なく聴けます。
イコライザーというのは例えればドルビー録音をドルビー再生するのに似ています。
レコードに刻まれたままを再生しても聴くに耐えられません。
レコードに刻まれたトーンカーヴ(高音を盛大に、低音を微弱に)を元のバランス
に復元させるのがフォノ・イコライザーという回路です。
現在、世界最高級のフォノ・イコライザーは、400万円もします。そこまで投資
するだけの意味があるという程、ここは大変に重要な回路なのです。

http://audio-heritage.jp/DENON/amp/pra-2000.html
https://www.denon.jp/jp/museum/products/pra2000.html

上記のプロフィールを持ったこの特質を失ってしまうのは惜しく、みっともなくて
型番さえ紹介する気も失せる安物のプリアンプのAUXに繋げば、壊れた回路部分
を使わずに再利用が出来そうだ。新安物アンプにもイコライザーがあるので試しに
MMルートを使ってみるのも一興かも知れない。(笑)
本音を言えば、永久メンテナンスが可能なアキュフェーズ製品に買い替えたい!
http://www.accuphase.co.jp/
↓これなどは絶対にお買得なのだが……それさえ買う財力がない……情けないなあ。
http://www.accuphase.co.jp/photo/c-2000.pdf
新安物アンプは来週末くらいには届きそう。まともな音を早く聴きたいものです。

閑話休題。
ザ・ピーナッツ隆盛時代の名録音は殆どがオケと一緒の同時録音でした。
先日、新聞を見ていたら、コロンビアの由緒ある録音スタジオが失われるらしい。
東京・赤坂にある響きの良いこのスタジオでは過去の色々な名曲が生まれたそうで、
コロンビアといえば美空ひばりさんが歌手の代表格ですが、ひばりさんも、ここで
多くの録音を行ったそうですが、「一発録音にかなりこだわった」そうなのです。
伴奏と歌を別々に録音することを嫌がったそうです。(後期には許容しますが)
この感覚はとても納得出来ます。私も音楽ってそういうものではないかと思います。

美空ひばりさんは天才なので、殆ど一発で録音は済んでしまったのだそうです。
録音の安全のためにテイク3までディレクターがお願いしたところ、「なぜなの?」
と言われたそうで、ちょっと録音に問題が起きました、とウソをついて納得をして
頂いたとか。実際にも演奏者が歌唱に感動して泣いて弾けなくなったという事件も
あったほど、それは物凄い集中力だったのだろうなと推察出来ます。

ザ・ピーナッツの録音現場では十数度もテイクを重ねたりすることがあったらしく、
このアルバムでも慣れた曲は順調だったと思いますが、この曲等は難関だったかも
知れません。しかし、スケジュール的に録音が最後であれば良いのですが、そうで
ない場合は切り上げざるを得ないし、夕方にかかったら借りているホールですから
夜遅く迄とはいかないかも知れないので時間が押してしまったら、まあこれで良し
としようという局面もあったかも知れません。
ピーナッツさんの日記に、
「テネシー・ワルツ」「モナリザ」「家へおいでよ」の三曲。どれもなれている
なつかしい曲だけに唄いやすかった。久しぶりでお仕事が早く片づいたので……
と書いてあるのを見ますと、慣れていない曲は大変だったということになります。
他の曲の録音では、かなりきつかったのかも知れません。

まだお若い時代の苦心作とも言えるこの歌や「ヘッドライト」など、一生懸命に
緊張して唱っているザ・ピーナッツ。そこがまた隠れた魅力ともなっています。
(2005.4.16記)