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十七歳よさようなら  1961.02
 ARRIVEDERCI
 作曲:Calabrese-Bind;Ariston 作詞:音羽たかし 編曲:宮川 泰
 演奏:シックス・ジョーズ ・ウイズ・ストリングス
    コーラス:ロイヤル・ナイツ

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★ ★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

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この歌や「しあわせがいっぱい」は洋画主題歌の単なるカバーとして重要視されない
ような面があるように感じられるのですが、皆様はどういう感想を持っているのかを
知りたい曲でもあります。
オリジナルがある曲では、どうしても、それと比べてしまい、カバー盤などはあまり
意味が無いように感じられるのではないかと推測してしまうのですが、勿論それでも
間違いではないし、音楽教養としては、それで十分だと思います。
しかし、ザ・ピーナッツの歌を聴きたい、宮川アレンジの妙味を味わいたい、さらに
一流の演奏のバックのサウンドを楽しみたい、世界的にも最先端であったポップスの
ステレオ録音の素晴らしさを聴いてみたい、というニーズを掘り起こせば、この歌は
聞き所満載の一枚なのであります。

原曲のテーマは同名の1960年のイタリア映画で監督は「芽ばえ」のアルベルト・
ラットゥアーダ。カトリーヌ・スパーク主演。
Arrivederci/Flo Sandon's
https://www.youtube.com/watch?v=ZzyiwS7QQdk
十七歳の少女の初体験の一日を描いた映画なんだそうで、どう考えても、私が見て、
感銘を受けるとは思えないし、衝撃的なのか、当り前なのかも判断不可能です。
犬や猫はもっと早いんだから(十七歳では死んでしまう:笑)、いいのかも。
私もそうだったのですが、大体が15歳くらいで自分は一人前になったと思います。
錯覚なんですが、その時点でのモノの考え方が絶対だと思い込んでしまうようです。
実際はもっと年輪を重ねると色々な価値観があるとわかってくるのですが、15歳で
自分は完成したと信じる動物のようですから、17歳なら何やってもいいんだ、と
思ってしまうんでしょうね。

その点、14歳でザ・ピーナッツに熱中して、いまだにそのままというところだけは
殆ど生涯をかけたファンですので、当時の心理は今でも子供心にではなくて絶対的に
正しかったし、自分の中で色々な出来事があり、物の考え方が次第に変化し続けても
ザ・ピーナッツの素晴らしさは更にそれに輪をかけて深く広いものだとも言えます。
なんて書くとかっこいいのですが、実は全然進歩していないのが現実なのかも。

以前にも書きましたが、私は「モスラ」から小美人愛好症候群にかかりまして、以後
ピーナッツ病へと悪化の一途を辿ったわけですから、最初に買ったレコード盤は勿論
「インファントの娘(レコーディング版)」だったわけです。
それから当時流行の「スクスク」と「あれは十五の夏祭り」の2枚を買いました。
本格的な熱にうなされるようになった私は、お袋に、出てるレコード全部買いたいと
言い、一生のお願いだ、と哀願しました。

妹の証言によると「お兄ちゃんは小学生の時からピーナッツが好きだったみたいよ」
ということなのですが、どうも、子供ながらに、女に(それが歌手でも)惚れるのは
みっともない、と自制していた節がありました。
特にザ・ピーナッツは思春期の少年の性意識の芽生えと大きく関係してたようにも
思えるのです、ザ・ヒット・パレードでのドレス姿は露出した肩先の優美な曲線や
鎖骨部分のくぼみや胸元のふんわりした印象が目の毒で、またそれがダブルなので、
そういうものに眼を惹き付けられる自分が嫌で俯いて上目遣いで見てたりしました。
この上なく健康美であったザ・ピーナッツなのに、それを不健康な眼で見ていると
いう自分を妹に悟られるのではないか、とヒヤヒヤしていました。

だから照れくさくて、ザ・ピーナッツには無関心を装って、九ちゃんやカヨちゃんを
マークしていたりしたのです。
その心の障壁を一気に崩壊させてしまったのが「モスラ」だったのでしょう。
それが証拠に、出ていたレコードはその時点で自分でリストアップ可能でした。
お袋にしてみれば「まあ、麻疹のようなもの。男の子なんてのは、この時期バイクを
買ってくれとか、もっと大変な事を言い出すもの。それに比べればレコードは安全」
ということで、「17歳よさようなら」その他も一気に入手となったわけです。
麻疹と違ったのは、何時までたっても治らないことで、終いには、お袋に、
「ザ・ピーナッツと結婚したいんだけど、無理かな」「無理だね」「そうか...」
というバカな会話をする始末。せめて「どっちとしたいの」位聞いてくれよな〜。

さて、そうして入手したレコードを毎日のように聴いていたのですが、その中でも
この「17歳よさようなら」という歌はザ・ピーナッツが大変苦労して歌っていると
いう印象を強く持ちました。実際のところ、どうなのか知りませんが、このスローな
テンポでじっくり聴かせる歌は「可愛い花」以来ではないかとも思うし、高低の差も
大きい歌だし、なによりもあの「ア〜アリ〜ベデェルチ」というところの揺れ方を
揃えるのは神業に近いような気もして、単なるポピュラーカバーを歌うというよりも
新機軸に挑戦している苦労がしのばれるのです。

ところで、ずっと熱中しっぱなしか、というとそういうことでもありませんでした。
ステレオ録音のレコードはたまにかけていましたが、モノラル盤はあまり聴かなくて、
したがって、この曲もモノラル盤しかなかったので暫くご無沙汰していたのです。
そこに急に訪れたのがCDブームでした。
最初はソニーの店頭デモを聴いて、随分と酷い音だなと思ってしまいました。
レコード盤の足元にも及ばないと思い、あんなもの誰が買うかと無関心なのでした。
しかし、ザ・ピーナッツ・ドリームBOXが出たのでプレイヤーも買ってみました。

それで驚いたのはレコードと遜色ない滑らかな音だったこと。進歩もしたのでしょう。
そして、それまでモノラルでしか聴けなかった曲が次々とステレオで聴けるのです。
これには感激しました。なんと素晴らしい暖かみと芳醇さを兼ね備えた音響が部屋に
満ちあふれるではありませんか。これは夢ではないのかと興奮しました。
これは凄い。マスターテープにはこんなきめ細かな美しい音色で入っていたのかと
呆れるばかりでした。ここで自分の中での、ザ・ピーナッツ・ブームが再燃しました。
この曲などは再評価で、物凄く好きな曲になってしまいました。
ステレオ録音の響きにはドラマが生まれるという感じがありますし、その場の空気感
のようなものが漂ってきて、まさに夢心地になってしまいます。

キングレコードが流行歌などのステレオ録音を先ず、ザ・ピーナッツから始めたこと
は大変意味深長なことだと思います。
ザ・ピーナッツの歌声をステレオ再生した時の麻薬的な響きの悦楽を現場の人達が
最初に気付いたのではないでしょうか? これは天国的ですからね。
そして、ことステレオ録音以後に限定しても、古い録音ほど音色が素晴らしいのです。
マイクロフォンなんてものは、きっと当時も今もあまり変らないように感じます。
当時のノイマンのコンデンサーマイクロフォンで録音したザ・ピーナッツの可憐な
歌声の美感には、それ以後の録音が上回っているとは私は感じないのです。
エコー装置も原始的な方法なんだろうと思うのですが、結果は天使か妖精かと思う程
この世から天上へ誘うようなチャーミング極まりない歌声が聴けるのです。

演奏も素晴らしいと思います。歌声との距離感、拡がり、定位が適切で一体感があり、
あらゆる音が電気信号としての交わりではない空間での馴染みが起きていて、全体が
大きなハーモニーのなかに包み込まれているのです。
ザ・ピーナッツの録音などを褒めた記事など見たこともありませんが、私は自分の
耳を信じます。このプロジェクトPのような録音部隊の腕は超一流です。
美しい響きというものの本質がわかった人または人達なのでしょう。
誰が録音チーフなのか、本当に知りたい。感謝状を贈りたいといつも思っています。

なお、ソロでフィーチャーされているテナー・サックス奏者は、松本英彦さんでは
ありません。ザ・ピーナッツの伴奏をシックス・ジョーズが行った時点では松本氏は
このバンドを離れております。
だからといって、がっかりする必要などありません。それぞれに特徴を持った名人が
他にも居るのであって、馬鹿の一つ覚えみたいに、知っている人だけを崇拝するのは
滑稽です。まあ、この素晴らしいソロ演奏を聴けば納得する筈ですが.....

(2005.05.07記)

<おまけ>
W(ダブル・ユー)が「十七歳よさようなら」をカバーしてたんで驚いた。
ザ・ピーナッツでさえ難しいと思うこの曲を……
https://www.youtube.com/watch?v=mxp-9-5-9hc

うわ! ラジオ体操のかけ声みたいなポキポキ歌唱です。
ハーモニー部分はかなり練習したみたいですが……可愛いからOK。
(2017.07.21追記)