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情熱の花  1959.09
   作詞:音羽たかし,水島哲 編曲:宮川 泰
   演奏:シックス・ジョーズ
      ラテン・リズム:山田たかしとトロピカル・メロディアンズ
   録音:1959.08.26

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★★ ★★★★ ★★★★ ★★★

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さて、いよいよザ・ピーナッツ定番中の定番曲「情熱の花」の登場です。
もちろん、オリジナルではないことは誰でも判っていることだと思うのですが、
我が国ではザ・ピーナッツの歌だ、と言っても別におかしくはないと思います。
たまにはジャケットの裏のライナーも紹介してみましょう。

「ザ・ピーナッツが....みなさんのごきげんをうかがいます」というフレーズが
何とも面白いです。漫才でもやるみたいです。
アイドルに限らず、新人で従来にないような話題性のある歌手はまず二〜三年間は
人気先行でヒットが続くと思うのです。
ザ・ピーナッツ以前にも以後にもそういう傾向は明らかですが、ザ・ピーナッツも
「可愛い花」以後、出すレコードは続けざまにヒットしました。
その渦中にある「情熱の花」はもちろん評判になったわけでザ・ヒット・パレード
の人気も後押ししてかなり世間で歌が流れていました。

残念なことですが、私はこの爆発的なブームとなった頃はザ・ピーナッツを熱狂的に
好きだったわけではなくて、ただ、ボ〜ッとテレビを眺めていたに過ぎませんので、
あんまり記憶には、その人気ぶりが残っていないのです。
まだ小学生だったので、もう少し年上の年令層が人気の中核だったのではと思います。
子供にはむしろ、九ちゃんやカヨちゃんの番組が身近に感じていたようにも感じます。
それでも私はザ・ピーナッツのヒット曲は殆ど知っていましたし、それは私だけじゃ
なくて日本中の子供達の殆どが馴染んでいた歌だったのではないでしょうか。

以前にも書きましたが、リアルタイムで歌の発表と同時にレコードを買い出したのは
「インファントの娘」「スクスク」あたりからなので、それ以前のレコードの入手は
コレクター風に遡って買ったことになりますが、ザ・ピーナッツの人気は絶大だった
時期ですから、何も入手の苦労などなくて、ただディスプレイされているレコードを
買うだけで良いのでした。シングル盤の廃盤はまだ一枚もなかったのですから。
レコードは雑誌のようなものではなくて、何時でも買えるものなのだと信じました。
ところが最初のLP「可愛いピーナッツ」だけは廃盤で、在庫もありませんでした。
(現在、所持しているものは、ごく最近にプレゼントして頂いたものです)

「民謡お国めぐり」もそうだったのですが、店員さんが八方手を尽して探してくれた
のでした。20歳位のお姉さんだったのですが、自分も嬉しそうに渡してくれました。
電話なんか家になかった時代なので、ちょくちょくお店に行かないとわからないので、
ほとんど毎日のように行ったものです。こんな風な思いをして手に入れたレコードは
どんなものよりも自分にとって大切なものか、それは想像に絶するものなのですよ。
なんだって、ザ・ピーナッツの民謡? そんなのどこがいいの。と言われてしまえば、
それまでですが、私にとっては、そういう思いも、思い出も一緒に聴いているわけで
主観的な価値は大変なものなのです。

一方で、この「情熱の花」などは、店頭にあるものを買っただけであったし、同時に
他のレコードも買ったので、思い入れはさほどではありません。
それに幾度となくラジオで流れていたのを聴いていましたから、レコードで最初に
聴くわけではない曲なので新鮮な感じもありませんでした。
これは「可愛い花」以後の全てのシングル盤の主にA面曲に当てはまります。
ラジオで連想するのですが、デビュー盤から「悲しき16才」までのモノラル録音の
レコードはどこかラジオっぽい音がするように感じます。

懐かしい響きというと風情がありますが、大きな箱の中で歌っているようなこもった
響きで、私はあまり美しい響きだとは感じません。
歴史的な録音であり、資料的であって、なくてはならないものなのだとは思いつつも
もっと抜けの良い、溌溂とした録音が出来なかったのかなと感じました。
それが一変して素晴らしい音色となったのは「月影のナポリ」からです。
ステレオ録音になったからだけだとは思えません。明らかに技術的な長足の進歩が
感じられるとともに、ザ・ピーナッツの歌の録音方法に目覚めたとしか形容できず、
それはマイクロフォンからして使う種類が変ったに違いないと感じます。

それと、前述したようにあまり熱心に聴いていなかったザ・ピーナッツの歌ですが、
ザ・ヒット・パレードなどで歌う「情熱の花」はレコードのアレンジよりも、ずっと
かっこよかったように記憶しています。
私の親友のS君は当時、テレビで歌うピーナッツの情熱の花のお終いのところの
「ラ〜ラ〜ラ〜 ラ〜〜〜〜」という箇所はテレビの刑事番組テーマの終わり方と、
よく似てるんじゃないか、なんて言ってたので、そんな部分はレコードには存在せず、
明らかにアレンジが違っていたと思われるのです。
大体がスカイライナーズのビック・バンド・サウンドで歌うので、そういう特色を
活かした別の編曲をしていたに違いありません。
リズムも、タン・タン・タン・ト・トというラテンリズムで、日活映画「情熱の花」
でのそれに近いものだったのじゃないかと思います。

今、聴けばいかにも苔むしたような古くささは否めず、その古色感はむしろ整合性を
図ったかのように全体を統一しているので、もうこれはクラシックのようなものです。
それでも、カバーのカバーなのですから、そのルーツである「エリーぜのために」を
作られたベートーベンさんがもし聴いたら、おお友よ、このような音ではない! と
吃驚することは間違いありません。(笑)

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情熱の花  1967.12
 PASSION FLOWER
   源編曲:B.Botkin-P.Murtagh-G.Garfield
   作詞:ダイヤモンド・シスターズ 編曲:宮川 泰
   演奏:レオン・サンフォニエット

    

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★★ ★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

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さて、こちらはステレオ録音バージョンです。というか、全くアレンジも一新されて、
華やかで楽しい「情熱の花」に仕上がっています。
前回の録音から隔たること8年。この8年の間には音楽界も大きな変化がありました。
最近では、8年くらい経ってもあんまり代わり映えがしない停滞状態と思いますが、
当時の8年間の歌謡界や音楽環境の変化ぶりは大変なものだったとつくづく感じます。

ザ・ピーナッツの実力は既に周知の事実となっており、一過性の人気者ではない面が
確立されていましたし、音楽面のメインスタッフである宮川先生の評判も高まって、
このコンビはもう何をやっても認められる黄金コンビとなっていました。
その評価面のバックアップもあって、この「情熱の花」のアレンジではハメを外した
楽しさ面白さを徹底的に追求していて、コミカルな遊び心まで飛び出して、自由奔放、
やりたい放題のシャボン玉ホリデー的な録音となっております。

ハーブ・アルパート&ティファナ・ブラス(三年前くらいから大評判)のサウンドを
拝借いたしちゃったり、ビゼーの歌劇「カルメン」 から一節を頂戴しちゃったり、
もうお茶目なことこの上なく遊び狂っています。
ふつうならこんなにふざけてしまったらバカバカしくなってしまいそうなのですが、
「おとうさん、おかゆが出来たわよ」や「モスラが来ます、モスラがくるのです」の
セリフが真面目なほど面白いザ・ピーナッツなので歌は大真面目に歌っていまして、
そのコントラストがばっちり決まっているから、あら不思議なのです。

私はこうやってレコードの随想を書いているのですが、実のところ歌の上手さという
面がよくわからない人間なのです。
大きな声が出ようが、息が長く続こうが、高音や低音が出ようが、それが何だろうと
思ってしまう人種なので、歌手については何も語る資格がないようなものです。
私はザ・ピーナッツは上手い歌手ではなくて、素敵なミュージシャンと感じています。
演奏との浸透力が並大抵ではありません。一体化して共演している印象なのです。
全体として素晴らしい演奏が出来、最高の録音が完成していると思ってしまいます。

歌手の表現力という物差も私にはピンとこないのです。レコードはザ・ピーナッツが
主役である筈だし、音量的にも歌声が一番大きく収録されているのだし、録音の焦点
のピントもボーカルなのですが、歌がしなやかに演奏に溶け込むために歌を聴こうと
思っていても結局、全体のサウンドに聞き惚れてしまうのです。
この曲のようにリズミカルな伴奏に乗ると、ザ・ピーナッツは実に歯切れの良い歌で
その要求に応えます。きっととリズム感が抜群にいいのではないかとは思うのです。
しかし、リズム感が凄いという歌手の代表格と称されているわけでもなさそうです。
本当はとんでもなく凄いのじゃないかと思うので、私自身の感覚に自信を失うのです。

フィーリングの面でも、このアレンジに違和感なく歌うのは感性が優れているからだ
とも感じますが、ザ・ピーナッツの評価はハーモニーやユニゾンの息がぴったりだと
いったような褒め言葉しか目につきません。
とにかく、こんなに素敵に歌ってしまうコツは一体何で、その魅力の本質は何だろう
というのがまだまだ謎だらけで、音楽家でない悲しさで、そこを分析出来ないのです。
無理に解明しなくても良いのですが、自分がこれだけ好きな対象なのに、それさえも
ちゃんと理解出来ていないのは情けないなあと無力さを思い知らされています。

「情熱の花」という歌はバックコーラスが重要な役目を担います。
オリジナルでは「ドゥトゥワリウワウ」なんてのが入っていないとクリープの入らな
いコーヒーのようなもの(古い表現)になってしまうのにグループ名が書いてなくて、
こちらの新録音でも同様に記載がありませんが、声音でフォー・メイツであることが
わかります。(証拠なんか提示出来ませんが、わかるのだからしょうがないのだ)
このグループの若々しいハーモニーがこの曲調にマッチしているし、最適でしょう。

バックで盛り上げているのはコーラスだけではありません。華やかに鳴っているのは
トランペット隊であり、エレクトリック・ギターであり、ドラムやタンバリンですが、
右チャンネルのトロンボーンが隠し味でありまして、マリンバ(木琴)が軽妙さを
演出する傍役で活躍しています。
宮川先生は心に感じたものを音楽で表現できる優れた作曲家という印象が私には強く、
アレンジ面ではふつうじゃなかろうかとそれまでは感じていたのですが、このLPで
「可愛い花」「情熱の花」の再編曲を聴いて、その斬新さには度胆を抜かれました。
どちらも音を聴いて仰天する想像を絶する仕上がりです。やっぱり天才なんですね。

ザ・ピーナッツの一枚もののCDアルバムにはキング正統系の「全曲集」の流れと、
http://peanutsfan.net/KICX2731.html
ナベプロ系アポロン音楽工業が母体となっている「ベスト・アルバム」の流れがあり、
http://peanutsfan.net/WMP10007.html
微妙ですが、収録されている曲とバージョンがかなり趣を異にしているのです。
それぞれの盤には主張があるように思いますし、どちらの意向も正しいと思います。
しかし、私は、ザ・ピーナッツ入門者には「全曲集」を強く薦めます。

その理由は「このバージョンの情熱の花を聴いて欲しいから」の一言に尽きます。
人は好き好きですから何とも言えませんが、私はオリジナルよりも断然こっちが好き。
歌詞もオリジナルとは違いますが、このダイヤモンド・シスターズ作詞版は昔から
ザ・ピーナッツもこれで歌っていたし、こちらの歌詞が私も大好きです。
たしかカラオケに入っているのもこちらのバージョンだったと思いますが、確証なし。
ピーナッツはこの両方の詩を(1番と2番を)合成しちゃったりしていたようにも
記憶してますし、最後の出演時の「夜のヒット・スタジオ」では感極まって動揺した
のか、二人が別々の詩を歌いそうになってしまう場面もありました。

NHK紅白歌合戦の初出場で歌った歌でもありました。
カバー曲とはいえ、ザ・ピーナッツの代表的な曲であることは間違いありません。
そして、最後のステージ、さよならコンサートではフル・オーケストラに匹敵する
豪華絢爛な演奏をバックにして歌っていますが、歌声は幾度か嗚咽で途絶えがち。
あ、この話題はやめましょう。悲しくなりますものね。
せっかくの楽しさ極上の名曲です。明るく楽しくがザ・ピーナッツの身上です。
パア〜っといきましょう。

♪ラ、ラララ〜 ララララ〜 ララララ〜 ララララ......

(2005.06.03記)