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ジョニー・エンジェル     1962.08
 JOHNNY ANGEL  
  作詞:あらかは ひろし 作曲:Pockriss-Duddy 編曲:宮川 泰
  演奏:シックス・ジョーズ・ウイズ・ストリングス
  コーラス:ブライト・リズム・ボーイズ

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★ ★★★★ ★★★★ ★★★★★

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クラシックの曲の紹介などでは「小品(しょうひん)」という言葉が使われますが、
この曲などは、まさに可憐な小品というイメージを抱きます。
何の気負いもなく、さらっと歌っていて、アレンジもコテコテにはせず、録音も
蜻蛉のような儚く繊細な響きを薄味に録っていますので、存在感は希薄なのですが、
このようなさりげなさが私は愛おしい気がして、大袈裟じゃないところが好きです。
こういう、あっさり味のシングル盤って案外珍しいかも知れませんよ。

シェリー・フェブレーが歌ってヒットしましたので、ラジオなどでも嫌というほど
流れたものだから、英語もろともあの歌い方のニュアンスが記憶に強く残ってます。
日本での発売当初、ジャケットの写真はシェリー・フェブレーではなかったそうで、
写真を間違えて使ってしまったらしいです。
そのオリジナルの雰囲気の延長線上での極上のサウンドに浸りたい方は竹内まりあ
のカバーCDがお薦めだと思うけど、これ上出来過ぎるような気も(笑)。

ザ・ピーナッツが歌うと、このこってりさがなくて、ちょっと魅力が足りないなあ、
という面もあるように感じますが、これが、ザ・ピーナッツ盤の持ち味なのです。
花屋さんの店先では余り目立たなかったけど、部屋に飾るととても落着いた感じで
しみじみといいな〜と思えるような清楚な花、といった感じでしょうか?
この歌は原盤そのものが日本でも、かなりヒットしましたので、ザ・ピーナッツが
歌って流行ったという要素はないと思います。カバーしたというレベルに過ぎない
わけなので、ザ・ピーナッツのレコードがあること自体もあまり知られていないと
推察します。

シンプル・イズ・ベストという言葉があるように単純なものは誰にでも分かりやすく
シンプルでかつ良いものであればそれは最高なんだと思うのですが、楽曲にもそれは
当てはまるような気がします。
昔の歌は歌詞も曲も単純で覚えやすく、ポピュラーと称された歌のほとんどが唱歌と
変らない音楽形式であって、ある意味古典的であり、またそれは音楽的な基本を踏ま
えているので、安心感があり、耳にも心にも心地よい。
新しさは何かを変えることで成り立つが、前衛的であっても無意味なものでは価値が
ない。中身が無いのに、上辺だけ変化しても、ブームにはなってもやがて忘れられる。
この曲などは多くの童謡・唱歌と同じようなカテゴリーに私の中では含まれていて、
恐らく死ぬ迄忘れることはなく、何時でも口ずさめる歌になっています。

さて、ザ・ピーナッツ風味の「ジョニー・エンジェル」の聴き所に入りましょう。
まず、イントロでの弦楽器の調べが絶妙です。
まるで天使の羽の羽毛が奏でる微風のような繊細な音が和音を構成して下降します。
この夢のような響きが素敵ですし、鉄琴の澄んだ音色と一緒に鳴ることで夢幻感覚が
倍増されます。この音に導かれてザ・ピーナッツが♪ジョニー・エンジェルと輪唱を
始めるこの効果は実に秀逸です。ただカバーするだけじゃない意気込みも感じます。

続いて、最初はユミさんが、そして次にエミさんがソロで歌うのですが、この順番は
大体どのレコードでもソロをとる時は決まっている形のようです。
ソロで歌う録音はこの歌以外にも結構沢山ありますが何故かB面に多いのです。
最初にやったのが「心の窓にともし灯を」でしたが、ソロが不得手というわけじゃな
いのですが、ソロで歌うと、どこか心細げで、内気な少女という印象が強くなります。
なんか放っておけなくて庇護したくなるような感じが強く、そういうメロディーだと
一層効果的なのですが、この歌ではまさにそんな巧まざる狙いが適中したかのように
切ない片思いに心を傷めている女の子の心情がオーバーラップして哀切です。

声音もそうですが、声の音量もバックの演奏やコーラスの陰で怯えるように儚げで、
こんなバランスでボーカルを小さめに収めた録音は珍しいようにも感じます。
ところがコーラスで一緒に歌う箇所に差し掛かりますと急に声がパワーアップします。
曲ではここはサビの部分であり、起承転結の「転」に相当しますので効果絶大です。
歌詞のイメージにもぴったりで、自分の思慕の念の感情を強く表現する場所なのです。
その後でソロで歌ったメロディーをフーガ風に被せて歌いますが、バックコーラスを
使わなくても二人で出来てしまうところがザ・ピーナッツの便利なところです。

このようにザ・ピーナッツの特性を活かし切ったアレンジなので、こってり味には
しなくても個性的なジョニー・エンジェルが出来上がってしまうという仕掛けです。
実に手慣れたという面もあるのですが、バックの演奏の音色や響きが人工的でなく、
エコーやイコライザーを駆使していることは感じられますが、あくまで自然な音の
処理で成り立っているので実況録音のような感覚があって瑞々しく感じます。
最近の打ち込み演奏の音響に慣れた耳にはとても新鮮に聴こえること請け合いです。

たったの2チャンネルしかない録音テープですから、あとで各楽器や歌声を編集する
という行為が出来ないので、現場で全て完結させなくてはならない時代ですから、
極めて短い時間で満足のいく録音にしなければならない技術者の苦労が忍ばれますが、
歌声も聴く事がない演奏だけの収録なんていう味気ない技だけの音楽ではない現場で
一緒にやる一体感のような感覚はザ・ピーナッツの初期〜中期ならではのものです。
ザ・ヒット・パレードで生で歌っている様子が彷佛とする懐かしい歌でもあります。

追伸:こんなCDにも、この曲が収録されておりました。↓

(2005.06.13記)