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♪Ein Weisses Pony  1965.06.23録音
   作詞:Hans Bradtke 作曲・編曲:Heinz Kiessling
   演奏:Heinz Kiessling Chor und Orchester

    

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★ ★★★★★ ★★★★

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電車とかバスでの通勤中に、ふとメロディーや伴奏のある箇所が思い浮かび、
あれっ、これ何だっけ、ということはありませんか?
この曲もそうですが、このドイツ直輸入のCDアルバムに入っている曲たちは
特にそういう感覚があって、これらはなかなかの名曲ではないのかと思います。

「ポニー」とか「フジヤマ」という言葉が出てくるので、ああ、これは富士山の
裾野にある広大な平野を仔馬に乗ってパカパカと走っている爽快な気分を歌って
いるのだろうな〜とか想像はつきますが、歌詞も意味もさっぱりわかりません。
こういう時は☆ピーナッツ・ホリデー☆のサイトを見るに限ります。
ディスコグラフィーから海外盤に入り、この曲のアイコンをクリックすれば一発。
馬に乗ってるんじゃなくて、彼氏と馬車に乗って青春を謳歌してるんですね。

日本では発売されなかったレコードですからCDアルバムに載っている写真では
小さくて分かりにくいのですが、どうもオープンカーじゃなくて馬車のようで、
わざわざこの曲のために撮ったのかも知れず、そうだとすれば結構このレコード
を売ることに並々ならぬ力が注がれていることに気がつきます。
ヨーロッパは広大な一つの文化共有圏だと思われるのでマーケットも広い筈で、
西独ババリア・プロ制作「スマイル・イン・ザ・ウエスト」(全欧州で放映)に
主演したばかりのザ・ピーナッツへの関心が最も高まっていた時期でもあり、
かなりのセールスがあったものと推察します。

先日、テレビ東京で「スパーク三人娘」の歌とトークの番組があって、その中で、
中尾ミエさんがブラジルの音楽祭へ単身で出演し、絶賛されて豪華なトロフィー
まで頂いたのに、とにかく現地へ行ったのは自分一人だものだから、その感動を
伝える術がなかった、という発言をされていました。
この感覚は今の世代にはピンとこないと思いますが、とにかく海外旅行が大変で
固定為替レートが1ドル=360円の時期が長くて、私がハワイに遊びに行った
時期でさえ、1ドル=300円でしたし、持ち出し出来る金額も僅かでした。

そういう時代でしたから、ザ・ピーナッツの欧州圏での大活躍と現地のファンの
支持ぶりは殆ど日本に伝わることがなく、業界の人達には周知の事実であっても
具体的にどこが世界のピーナッツなのかわからない面があったと思います。
かくいう私も外国にばかり出掛けてないで、もっと新曲のレコードやアルバムを
出して欲しいとばかり思っていました。
外国へ行って何をしてるんだか、その成果が一般の日本人には届かなかったのです。

欧州では音楽文化について強い敬愛があることがこのCDで伝わってきます。
録音した年月日だけでなく、スタジオの所在と部屋番号まで載っているのです。
いかに音楽という芸術資源を大切に扱っているかが忍ばれます。
しかし、それでも、このCDの登場には仰天せざるを得ません。
40年も前に訪れた東洋の歌手のアルバムが発売されるなんて奇跡としか喩えよう
がないではありませんか。これは日本向けに作られたアルバムではないのです。

海外に行って活動履歴に箔をつけるというような姑息な手段は常套的に今でもあり、
それは実際には国内でのセールスを狙ったもので、実体は無に等しい例ばかりです。
米国での「上を向いて歩こう」の大ヒットがありますが、あれは「スキヤキソング」
が大受けしたのであって坂本九さんの芸が認められたわけではありませんでした。
海外で本当に評価されたポピュラー歌手は古今を通じ、ザ・ピーナッツしかいない。
これは身贔屓じゃなくて、敢然たる事実なのであります。

中尾ミエさんの例よりはまだましだったろうとは思いますが、スタッフや取り巻きを
伴わず、ザ・ピーナッツという素材をそのまま裸で現地スタッフに預けているような
感覚で曲作りが行われているようであり、さぞかし心細かったろうし不安や不出来な
状況を乗り切らねばならない場面にも何度もぶち当たったかも知れません。
歌詞を書く人もザ・ピーナッツのドイツ語発音を考慮して、その字句が入らないよう
歌詞を書き換えたり、とても親切に大切に心配りしてくれたそうですが、なによりも
彼女たちの頑張りをスタッフが温かく受けいれたから出来た偉業でしょう。

曲作りはザ・ピーナッツの可愛さ、可憐さを強く活かしているように感じます。
実年齢よりもちょっとタイムスリップした可愛い花の時期に戻ったようにも思います。
これがとっても愛らしくて私は大好きです。
チャーミングなピーナッツの歌声とメカニックな感じの演奏の対比も面白いです。
この演奏は凄みが感じられます。ひとりひとりが大変な芸達者な演奏家のようです。
バックコーラスひとつとっても実に素晴らしい完成度です。

好き嫌いのレベルなのですが、この音は、昔に秋葉原で聴いたブラウンという会社の
スピーカーの音色に似ています。厳格で、ピントが隅々迄合っているような音です。
私にはちょっと潤いに欠けるように感じられます。
これはマスターテープがこういう音色なのではなくて、デジタルマスタリングの際に
平均ボリュームを上げ、リミッターをかけて音作りをしたのではと推察します。
こうすることでバックの小さな音も浮かび上がり、小さなスピーカーからも全体の
雰囲気が良く伝わるという効果がありますが、良し悪しという面もあるのです。

ブラスのゴリッとした感触がドイツやイギリスの金管楽器奏者だなと感じられます。
これは「恋のフーガ」のブラスにも共通するので、もしかすると同じスタジオでの
現地の奏者なのかも知れません。どの楽器を聴いても音色が見事であり乾いてます。
日本での録音はどこかしっとりしていますので、この感覚は大変面白いと思います。
ただ、このCD一枚を続けて聴きますと、私は若干の疲労を耳に感じます。(笑)
とにかく大変に貴重なアルバムであることは間違いありません。

(2005.7.17記)