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砂に消えた涙   1965.07
 UN BUCO NELLA SABBIA
   作詞:漣 健児 作曲:A.P. Soffici 編曲:宮川 泰
   演奏:レオン・サンフォニエット
   録音:1965.03.30 キングレコード音羽スタジオ

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★ ★★★ ★★★★ ★★★★

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(吉田兼好の徒然草より)
つれづれなるまゝに、日暮らし、硯にむかひて、心にうつりゆくよしなし事を、
そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。
(意訳)
暇をもて余しているままに、一日中パソコンに向かって、心に浮かんでくる
とりとめのない事を、何となく書き綴ると、怪しく物狂おしい。

退職(失業)以後は暇をもて余しているくせに、生活にリズム感がなくなって、
レコード随想でも書こうかと思うと、いや、DVDで映画でも見ようかとか、
本でも読もうとダラダラ、ボーッと過ごす毎日になっています。
勤めている日々は余りない自由時間だからということで逆に集中出来たのかな。
このままではますますボケるので、以前の5日ごとのペースで書くつもりです。

閑話休題。
さて、この「砂に消えた涙」はイタリアのミーナが歌い爆発的にヒットした歌。
日本では弘田三枝子さんの歌が決定版と思われ、その歌声は耳にこびりつくと
いった感じで、脳内で彼女のフィーリングの声が勝手に鳴り出します。
ザ・ピーナッツのそれは対抗してリリースしたわけではなくて、いい歌だから
アルバムに入れてみました、というだけの録音です。
そうではあるのですが、ザ・ピーナッツのポピュラー曲のカバーは第一級品。
引退前の1〜2年はお仕事ペースも余裕があったと思うので、ポピュラー曲の
大全集録音でもしてくれていれば良かったのにと思います。

漣健児さんの作詞の場合はザ・ピーナッツ向けに書かれたものは存在しなくて、
利用させて頂くという感じですし、ザ・ピーナッツの歌声も別にこれに賭けて
というような気負いなどなく、ただ丁寧に歌っているという風情です。
歌に関してはザ・ピーナッツの歌声で聴きたい人へのファン・サービスという
位置付けであって、これを聴きたいからこのCDを買う人はいないと思います。

アレンジは正統派といった感じで、原曲の持つイメージそのままというところ。
宮川先生はとんでもない奇抜な編曲もするのですが、ケースバイケースであり、
原アレンジを踏襲しないと曲の良さも失われると思う場合はイメージを壊さず
再現するという見極めのセンスの良さを感じます。
ただし、この曲そのものは単調なメロディーなので、付加価値を与える工夫が
随所にみられます。

イントロの先頭から2小節は弦楽器によるドラマチックな下降パッセージから
いきなり始まります。これは原曲にはないサービスで、かっこいい。
間奏のマントバーニのカスケイド・ストリングス風の時間差追いかけのような
弦楽器の幻想的演出はオリジナルにもありますが、こっちが音色的に勝ります。
また、歌の合間に入る合の手のようなフルートの追加も宮川アレンジの特徴で
これは、ザ・ピーナッツ=宮川泰コンビでの典型的な音楽となっています。
最後にスキャットまで入っているので、この感覚はますます決定的になります。

ということで、ザ・ピーナッツはこの歌で聴け、とか、宮川サウンドはこれで、
というような決定的要素を持つ曲ではないのだけれど一方で典型的なコンビの
特徴が出ているところが面白いのです。
関西風の薄味だけどダシが利いていて、真のグルメには美味しいと評判となる、
そういうイメージでしょうか。なかなか後味もいいんですよ、これ。

(2006.8.14記)