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スパニッシュ・フリー  1966.08
  SPANISH FLEA
   作詞:安井かずみ 作曲:J.Wechter
   編曲:宮川 泰  演奏:レオン・サンフォニエット

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★ ★★★★★ ★★★★★

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ハーブ・アルパート&ティファナ・ブラスの演奏でお馴染みの……と書いてしまって
いいのだろうか……楽曲の解説などを企てる時に何時も不安に襲われるのですが……
音楽ジャンルのどれをとっても人一倍詳しいという範疇がなくて、中途半端な知識で
書いているので、豊富な知識を持ってる方が鼻先で笑って見てるのではないかしらと
思うと気になって仕方がない。
ハーブ・アルパート&ティファナ・ブラスについて格段に詳しいわけじゃないけれど、
世の中にこんなかっこよくて楽しい音楽はそうそうないのではないかと思うのです。
「情熱の花」の1967年再録音のアレンジはまさにティファナ・ブラス・サウンド。
だから宮川泰先生もこういうのを大好きだったのでは、と推察しちゃうのです。

ハーブ・アルパートの音楽はメキシコのマリマッチという音楽ジャンルとアメリカン・
ポップスの折衷という意味で“アメリアッチ”と呼ばるようになりましたが、編曲が
あまりにも巧みなので、自作の曲なのか、有名な曲のパロディなのか、無知な私には
区別がつかないくらいなので、そこがかなり怪しいのであります。
日本でも昭和40年代は洪水のように彼の音楽が巷に溢れましたし、スタッフとして
セルジオ・メンデス&ブラジル66を売り出すなど大変な才能の持主のようです。

解説なんてまどろこっしくてやってられないくらいに滅茶苦茶楽しいのがこの曲で、
この騒々しさ、お祭り騒ぎが宮川パフォーマンスにぴったり適合し、ザ・ピーナッツ
がふざけないで歌っているコントラストがとてつもなく面白いのです。
 ♪キャー(歓声)
  彼は人気者 舞台はサーカス 誰よりも凄い拍手がくるの
  その名はスパニッシュ・フリー
  気取ったオシャレな蚤なの 跳び回る右に左に ほらほらスパニッシュ・フリー
  体は小さくても心には夢が ああ 生まれ故郷のスペインの情熱

こんな楽しく夢膨らむ歌詞ってあるんだろうか。安井かずみさんは凄い天才だ。

ザ・ピーナッツを流行歌手という視点でとらえると二流どころです。
宮川泰をヒット・ソング・メーカーとしてとらえると、これも二流作家です。
だって、どちらもそんなに数多くヒットを飛ばしているわけではないのです。
だけど、こうしてレコード(CD)を聴いていると、間違いなく超一流なんですよ。
営業にならない歌の方が個人的には圧倒的に価値が高いと思いますから、この曲は
B面だけど超A面としてお薦めしたい。
ザ・ピーナッツと宮川先生が組むとこうなるんだよ、という代表的な例なんです。
これを、大したことないじゃん、と思う方は、ザ・ピーナッツなんかを聴かないで、
歌謡大全集のような巷のヒット曲オムニバスでも聴いて満足していればよろしい。

ザ・ピーナッツさんご自身は歌い手なので、技巧的で感情をこめた歌唱の奥義を
極めることを目差すであろうし「愛のフィナーレ」や「ウナ・セラ・ディ東京」の
ようなじっくり聴かせる曲を熱唱したい本能があるのだろうとは思うのです。
しかし私はそういう世界はザ・ピーナッツでなくても出来ることじゃないのかと
思うし、二人で歌うとこってりし過ぎて鬱陶しいような感覚を抱くことがある。
演歌の世界に近づくほどに上手さは強調されるように思うが、そんなに哀切さを
歌い上げてくれなくても、辛いこと、悲しいことは実生活で散々身に沁みている。
なにも歌で聴かなくてもいい。ザ・ピーナッツで聴く必要なんてない。

更にザ・ピーナッツはポピュラー・カバー歌手としても輝かしい第一人者です。
既にこの時代はポップスを日本語でカバーする時代は終わってしまっています。
(ちなみに当時はポップスという言葉は語源は別としてクラシックの世俗的な
 名曲、それも短い曲を指していて、ボストン・ポップスなどオーケストラの
 名前にもそれが表われていました。だからポップスと言わずにポピュラーと
 称していたものです。私達の世代ではこれが一般的だと思います)
当時の他のポピュラー歌手はいち早く撤退していましたし、ザ・ピーナッツも
シングル盤として発売したのはこれが最後の一枚となってしまいました。
これ以降は全部オリジナル作品ということになります。
いわば終焉の曲ですが、いかにも楽しく華やかに幕を引いているんです。

 ♪7色ライトを浴び華やかな世界 さあ 早く早く 皆さん始まります
蚤のサーカスを観に来る観客って蟻さんとかキリギリスさんなんかでしょうか?
いや、キリギリスは楽隊に入ってるのかな。トンボが空から実況中継したりとか。
ディズニーでも描いたことのないミクロ昆虫の夢ワールド。
 ♪彼は大スター 舞台はサーカス 一度観たら忘れられぬ感激
  ほらほら スパニッシュ・フリー

一度聴いたら、忘れられぬ感激。この歌のとりこになります。
ほらほら あなたも聴いてみましょう スパニッシュ・フリー。

(2006.8.22記)