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スプニング・ホイール   1970.07
 SPINNING WHEEL
   作詞・作曲:David.C.Thomas 編曲:クニ・河内 
   演奏:オールスターズ・レオン (コーラス)フォー・メイツ
   録音:1970.03.19 キングレコード音羽スタジオ

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

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他人の不幸は蜜の味とか申しまして、下世話な話題の方が世間を駆け巡りやすく、
愚劣な大衆は「気の毒なザ・ピーナッツ」という概念が強いように思われます。
私のサイトはそういうネガティブな思惑を一掃するべく奮戦しているつもりです。
気の毒な話は世の中に掃いて捨てる程あるけど、ザ・ピーナッツ物語は夢伝説で、
こんなに素敵な出来事は稀なんです。何事も楽しく考えねばいけません。

ザ・ピーナッツは終始「いい仕事」を追求し続けた「立派な」歌手であります。
「誠実」と「謙虚」が最大の持ち味でもあった歌い手でした。
「歌唱力」でも「踊りの表現」でも自信よりも「劣等感」をバネに研鑽し続けた
希有な存在の人たちではなかったかと推察します。
それはメーキャップや衣装デザインにも現われ、どうしたら水準に到達出来るのか
何を着ていても、お化粧やヘア・スタイルにこだわらなくても天然美人であれば
世間が注目する、そういう容姿ではないことも工夫の積み重ねとなっていました。

私のような勤め人であっても「ただの歯車」として扱われることは苦痛であって、
「自分には向いていない」とか「こんな仕事やる気がおきない」という場面など
イヤというほどあったのがサラリーマン。
ザ・ピーナッツも広義のサラリーガールであったことは事実で、会社の方針には
従うべき従業員という面があったでしょう。
しかし、イヤイヤやっているような素振りがどんな場面でもみられなかったこと。
これが凄いのです。どんな職業に就いている人もこれは見習うべきだと思います。

「歌伝説/ザ・ピーナッツの世界」でも紹介された、ピーナッツのモスラ出演。
「この世界、面白いことを先にやった者の勝ちだからね」の渡邊晋さんの一言。
しかし、それだけじゃないんです。
あんなに優しそうな本多猪四郎さんでも役者には厳しい目を持っているんです。
<特撮映画で、一人でもやる気のない俳優がいると映画として成立しなくなる>
<こういう映画に興味を持つ人だけに出演してもらった。それに疑問を持つ役者
 というのは、初めからどんないい役者でも使わなかった>これがポリシー。

………ああいう人間でない役をやることについて、渡辺プロダクションの方から
   何か言ってきたということは?
本多:いやあ、渡辺プロは「ええ、結構です」ってことですよ。
………二人の演技的なカンはどうでした?
本多:カンはいいですよ。それから、こっちの言うことはよくきくしね。
………歌手業とかけもちということで、撮影に支障が出たことはないですか?
本多:迷惑を受けたことはないな。こっちの予定通りに、ちゃんと出てくれた。
………ああいう役を面白がって演じていましたか?
本多:面白かったか、どうか。イヤイヤじゃなかったな。
………「モスラ対ゴジラ」では二回目ですから、やりやすかったでしょうね。
本多:ええ、もう、ほとんど問題なしにスルスル撮れたような感じだったなあ。

つまり、ザ・ピーナッツは、ただ出演したわけではないのです。
誠心誠意、懸命に演じ、歌ったのです。だから傑作になったんです。
「芸能人」「スター」という「奢り」が最後まで感じられず、ひたむきに
与えられた仕事に打ち込む。ある意味で恵まれた人間性であったでしょう。
努力出来る、邁進出来るという面の天才だったかも知れません。

このように自分をパーツに撤して磨き上げた希少な歯車だったピーナッツ。
ここで歌っているのは、SPINNING WHEEL=糸車です。(笑)
この録音では、ザ・ピーナッツは譜面の中のひとつの楽器パートに撤してます。
自分達の歌がメインではなく、全体の出来栄えに寄与する歯車に変身してます。
スタジオ・ミュージシャンの仲間という存在に溶け込んでいるんです。
ザ・ピーナッツはコーラス・パートとして音楽を一緒にやっているのです。
バランス的にもメインの歌手の音量をこんなに小さく録るケースは稀でしょう。
後年のキャンディーズがこのようなことに挑戦したかったようなのですが、
実現出来たものもあるのかな。調べてないのでわからず、すみません。

このアルバムを出した時点では、一般営業面(シングル・レコードが主)では
「東京の女」や「大阪の女」などの女(ひと)シリーズが看板になってました。
所謂、大人のムード歌謡曲路線のスタートです。
ザ・ピーナッツ・ファンからの非難を計算したかのように、このアルバムやら、
アポロンからの音楽テープアルバムのリリースを重ねています。
「ワン・ツー・スリー」「ルック・オブ・ラブ」「サムシン・ストゥーピット」
「ラヴ・チャイルド」「ラバーズ・コンチェルト」「カム・トゥゲザー」
「ディス・ガール(アレンジ違い)」「アンド・アイ・ラブ・ヒム(三回目)」
など、これでもかと、ハイブロウな線を打ち出しています。
また、一方で、ハイカラ民謡のアルバムまで出して多角的な挑戦を始めます。

音楽そのものに詳しくないミーハー連中は、歌謡曲(演歌風だったり)だけの
世界しか知らないので、ザ・ピーナッツまで歌謡曲歌手になってしまったのか、
と錯覚してしまったのは無理ありません。
勿論、音楽に高級も低級もないのですから、歌謡曲が悪いわけではないのです。
この時期までカバーポップスを頑張ってやり続けている歌手は稀になってきて、
その範疇でお仕事をしていれば安泰なんだと思いますが、歌謡曲は無差別級、
素人でも歌うのですから、その土俵に上がるということは大変な冒険です。
それでもちゃんとザ・ピーナッツ風味で歌い上げたのだから大したもんです。

今回は大脱線ですが(いつもと同じか)、このスプニング・ホイールは随分と
前衛的挑戦で、クニ・河内さんのアレンジは宮川先生もびっくりの奇抜さです。
そもそも右サイドの楽器がなんだかわかりません。三味線使ったのかなあ。
コーラスもフォー・メイツが表記されていますが、他に女声コーラスも付いて
摩訶不思議なサウンドが繰り広げられます。
この曲は今聴いても新しさを感じるような気がします。
CDが入手難だと思うのがちょっと残念。
アナログ・レコードに至っては超希少品だから3万円以下じゃ落札不可です。

(記:2006.9.7)