■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

♪ダンス天国    1968.12
 LAND OF 1000 DANCES
 原曲:C.Kerner,F.Domino 編曲:宮川泰 
 演奏:オールスターズ・レオン コーラス:フォーメイツ
 録音:1968.09.05 キングレコード音羽スタジオ
    

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

中年以降で極端な老人以外のご年輩の方なら誰でも知っているであろう有名曲です。
私的にはザ・スパイダースなんかがよく演ってたような印象がありまして井上順らの
とぼけた踊りのイメージがついつい浮かんで来ちゃう曲でもあります。
ウォーカー・ブラザーズというアメリカのグループが歌って流行ったものと思っては
いたのですが、そうじゃなくって、クリス・ケナー(1963年)→カンニバル&ヘッド
ハンターズ(1965年)→ウィルソン・ピケット(1966年)→ウォーカー・ブラザーズ
というカバーの歴史があるのだそうです。
洋楽はよく知らないと迂闊に何も書けません。

この曲は懐メロ・ポップスの番組でもよく歌われることが多く、大概はソロではなく
皆で騒ごうといった感じの時に使われるのでヴァケーションなんかと同じ位置付け。
ですから、じっくり聴くとか、しみじみ歌うのではなく鼻歌まじりで口ずさむという
お気楽ソングでもあるのですが、簡単なメロディーだけど良く出来た旋律だよなあと
感じてしまいます。一生懸命作ったというより勝手に出来てしまったような雰囲気。
日本の曲で喩えるとスーダラ節のような……(そんなことないか)

「ダンス天国組曲」中での、この曲の扱いで最も適切と思われる語彙は「狂言回し」。
無学な人間なので、そう気付いても、その揶揄が適切なものなのかとか気になるので
辞書検索など行ってみると「歌舞伎劇で、筋の運びや主題の解説に終始必要な役柄」
という説明であり、いわば進行役なので、これはかなり適切なものと思われます。
終始一貫して「ダンス天国」がベースになって使われていて、そこに珠玉の名曲が
ちりばめられて、それぞれが活き活きと歌われていますので、まさに編曲の妙です。
宮川先生の大傑作の一つでしょう。

故宮川泰先生は何をやっても日本最高の音楽家だなんてことは私は思いません。
技術面においてはより優れた方が多く存在するものと思われます。
しかし、感覚が私にはぴったりくるのです。それは比類ないくらいフィットします。
ザ・ピーナッツ・ファンだからついでに好きになったのじゃないかと思われるかも
知れないし、そういう面もあったのでしょうが、それは縁というものではあっても、
本質的にやっぱり宮川音楽は自分の感性に合致しているなあと思ってしまいます。

まず作曲が素晴らしい。旋律が素敵なんです。
新しいとか古いとかじゃなく、永遠の輝きに満ちている。流行りものじゃないのだ。
世間で流行ったかどうかなど問題じゃない。私が聴いて好きならば私の名曲なのだ。
宮川先生の作品は他人のものじゃなく、私のものという感覚を抱いている。
昭和の名曲100選などという多数決で選ばれる基準なんて音楽としては無意味だ。
世間では評価されなくても、とにかく駄作がない。一つとしてそれがない。
ザ・ピーナッツ提供曲以外でも、どの作曲も優れているだけじゃなくて存在意義が
感じられる。何を伝えたいのかがビンビンと伝わってくるのだ。

ザ・ピーナッツのレコードの録音では編曲・指揮だけじゃなく、なんらかの楽器で
演奏に参画していることが多いと感じられる。
資料など存在しないが、これは恐らくという確信に近いものが聞き取れるのだ。
鍵盤楽器全般を弾かれるので、そういう音が入っていたら、まず宮川先生だろう。
独特の弾き方をされている感じがする。
それは感情過多というか、感情先行というか、感覚がテクニックを上回っていると
でもいうのか、ああしたい、こうしたいという思いが演奏表現で伝わってくるのだ。
宮川先生の演奏を聴きたかったら、ザ・ピーナッツを聴くことだ。

そして、編曲家としての才能が異彩を放っている。
編曲にも管弦楽法のような基礎技術が存在する。詳細な設計図面のようなものだ。
これは生まれつきの才能ではなく、学んで手に入れるものでもある。
合奏効果という面で評価すると、先生は最高位には居ない方だろうと思われる。
この方面では、もっと緻密な才能の芸術家が内外にたくさんいらっしゃるのだろう。
しかし、プロデューサー的なアイディアは類を見ないほど飛び抜けていると思う。
思いつきがいいんだ。あれまあ、と人を唖然とさせる才能はまさに異才だ。
それと素晴らしいのは先人たちの作品をとても愛していることだ。好きなのだろう。

あくまで私的な考察なのだが、宮川先生はハイブリッド作家じゃないかと感じる。
すなわち、作曲と編曲を両方担当された作品も意図が統一されていて純粋な良さは
あるのだが、あまりに感覚がピュア過ぎて普遍性がなく、独特の世界へ埋没して、
コテコテの宮川風味であり、好きな人にはたまらないが、違和感を感じてしまうと
いう面があろうかと思う。
その点で、アレンジを他の作家が行うと結果としての表現が多くの人に受け入れられ
やすい流行る要素が加味されるように思うのです。
また一方「恋のフーガ」に象徴されるように、他の作家が作った素材曲をお料理して
凄い仕上がりとしてしまう面があって、ハイブリッドの良さが際立っているのです。

「ハイブリッド」などというカタカナ語を使うことは自分の好みではないのですが、
この場合、適切な日本語がないように感じられて、ついつい使ってしまいました。
 ハイブリッド【hybrid】
  1.雑種。
  2.異なったものを混ぜあわせること。
  3 電気信号を、相互の干渉なく、結合または分離する装置。
私の好きなオーディオの世界では、真空管と半導体の互いの良いところを活かした
回路を構成するときなどに用いられます。
しかし、これは諸刃の刃でもありましてセンス次第で互いの欠点が増強されちゃって
酷い結果にも結びつくこともあり、やったから良いというものでもないのです。

宮川先生はこういうセンスが抜群に優れているから、単に色んな曲を繋いでみたと
いうのではなく、面白く、楽しませる術を持っているから出来ることなのです。
ザ・ピーナッツとフォー・メイツのコンビネーションも巧みでしなやかに適合してる。
二つのコーラス・グループが音楽パートの一部としてスタジオ・ミュージシャン化し、
全体の音楽の構成要素としての役割をこなし、見事にその期待に応えている。
こういう雰囲気はスタッフ連中も燃えたことでしょう。
今風に言えば、ザ・ピーナッツ萌え、という面が録音技術者にもあったと思われます。
ベスト・アルバムの一枚物にも是非入れて欲しいものだと思います。
シングル曲だけではザ・ピーナッツと宮川先生の良さは発揮されていませんからね。

「ダンス天国」で思い浮かぶのは、ザ・ピーナッツの踊りへの精進ぶりでした。
歌を覚え、歌いこなすだけでも大変な物量だったと思うのに、ダンスの振付けを覚え、
一回こっきりで、また次の振付けをマスターするなんて、恐るべきお仕事ぶりでした。
ザ・ピーナッツさん達は17年間フルに働いたわけですが、年数だけであれば、私は
41年間休まず勤務したわけで、これも大変なこと。
しかし、まあ一日8時間労働で、忙しい時期では残業もしましたが、フルに8時間も
お仕事をしていたわけじゃありません。一生懸命頑張ってるのはせいぜい3時間?
そういう面では、ザ・ピーナッツの17年間は私の41年分を凌駕する働きぶりだと
理解出来ますから、今はただ、お疲れさまでした、と申し上げたい気持です。
(2007.3.3記)