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♪ダンシング・イン・ザ・ダーク    1968.12
 Dancing In The Dark
 作曲:A.シュワルツ(A.Schwartz)
 作詞:H.ディエツ(H.Dietz)
 編曲:宮川 泰  演奏:オールスターズ・レオン
 演奏:オールスターズ・レオン
 録音:1968.09.05 キングレコード音羽スタジオ
    

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

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あまりにも有名なスタンダード・ナンバーということで曲のルーツの紹介は済ませて
しまいます。
そもそもスタンダード・ナンバーとなるからには重厚な歴史があるのは当然であって、
過去には多くの逸話もあるであろうし、定評のカバーも存在するでしょうが一切無視、
そういうことにこだわってみても余り意味が無いと思うから。
ここは宮川アレンジとザ・ピーナッツの繰り広げるファンタジック・ワールドなのだ。

何度も書きますが「ダンス天国」と題するダンスに因んだ名曲をメドレーで聞かせる
という大変に楽しい企画で、この世界は存在しています。
キング・レコード株式会社は利益を上げるために活動を行っている筈です。しかし…
このレコード(今はCDアルバムですが)は採算度外視で作られたとしか思えません。
ザ・ピーナッツ10周年記念のアルバムなので、御祝儀企画なのでしょう。
まさに、フル・オーケストラ。腕達者な方々の大集合。宮川さんの人望もここにある。
この演奏陣の規模は、前代未聞、空前絶後と言い切っていいんじゃないかと思えます。
このオケの厚み、多彩な楽器の流麗な音色。オーディオ的にも聴き処が満載なんです。

宮川先生もザ・ピーナッツもキングレコードのスタッフも、これはお仕事であります。
なんだけど……お仕事のレベルではなく、この上ない、趣味・道楽の極みという感じ。
特に、宮川先生の意図が濃く反映されていて、制約はまったくなしのやりたい放題。
宮川さんの面目躍如。この方が全力投球するとこうなる、という見本のようなもの。
キング・レコードも通常はどんな場面でも利益をあげるための投資をするはずなのに、
この録音にかけたコストはまず回収不可能と思うのであります。
そのくらいの魂消るような分厚いオーケストラの響きなのです、これは。

特にこの曲では、華麗なスクリーン・ミュージックを彷佛とさせる弦楽器の重奏が、
途中から一転して、ビック・バンド・ジャズの歯切れのよい弾むサウンドに変身する。
そのどちらの編成にも薄っぺらい響きが奏でられることがない。驚嘆すべきことです。
とにかく、プロデューサーから録音スタッフから演奏の立役者たち全員がハッピーで、
これほど素晴らしい商売はない、と、喜び勇んでいる感覚が響きの隅々まで聴こえて、
聴いているこっちも、とてつもなく幸せな気分となってしまう。
こういうものは日本中、いや世界中の人々の耳に一度は届けたいものである。

だが、残念なことに、ザ・ピーナッツ・ファンしか、これを聴くことが出来ないのだ。
ふつうの人は、せいぜいベスト・アルバムで終わってしまうか、オムニバスアルバム
に入っているピーナッツのヒット・ナンバーくらいしか聴くことがないのだろう。
もちろん、それもザ・ピーナッツの歌であり、さわりを聴くということでは仕方ない。
だが、真髄を聴く、真骨頂を味わう、ということになると、こういうのを聴かねばね。
ザ・ピーナッツの音楽は敷居が低い。とにかく入って行きやすい。
カバーだろうと何だろうと我々日本人が入門するにはとても美味しい味付けなんです。
これが、ザ・ピーナッツ。これぞ、ザ・ピーナッツ。大推薦のメドレーです。

こういうのを聴いているとレコーディング活動や純然たる音楽コンサート活動からの
引退はしないで欲しかったと思うのは私だけだろうか?
本当に勿体ないとしか言いようがないではないか。
そもそも、いけないのは世間の愚衆である。
ザ・ピーナッツに飽きてしまった。これが引退の最大の原因だと断定したい。
今頃になってザ・ピーナッツはとても上手かったとか、うすら寒くなるようなことを
言わないで頂きたいものだ。
レコードも買わず、コンサートにも行かず、そんなのはファンではないだろう。
レコードが売れない。お客も来ないでは、ザ・ピーナッツ存在の意欲がなくなる。
年輩者だからといって、わかった風なことを言わないでほしい。

1970年代に入ると歌謡界は大変な盛り上がりとなって、沢山の新人が世に出たし、
ジャンルも多様化、百花繚乱。後年に残るヒット曲も物凄く出るようになった。
この渦中ではいかなザ・ピーナッツといえども、この競争に勝てるわけがなかった。
それは、美空ひばりさんであろうと、他の大御所でも同じことであって、ベテランが
この無差別級の争いで勝てる状況ではなかった。
だから、そこからは身を引いても良かったのではなかろうか?
世の中はカラーテレビやテレビ画面の大型化などもあって、ビジュアル指向に行くし、
フレッシュな若い子に人気が集るのは当たり前なのだ。ここに居場所はない筈だ。

ザ・ピーナッツの優れた芸が見たい、聴きたいという限定した対象だけにするので、
一般的タレント芸能活動は辞めるということでも良かったのではなかったかしら?
500曲に届くかと思えるレコーディングは決して少ないわけではないのであるが、
私は、1000〜2000という数字まで録音を残して欲しかった。
逆にテレビに出なくなれば、レコードが売れ出したのかもしれないぞ。
歌ってほしかった曲はまだまだ星の数ほど世の中にはあったし、生れ続けたのだから、
もっともっと歌声を残して欲しかったな。

レコードが売れれば、そういう状況も満更なかった話でもなかろうが、買い求める
人が極めて少なかったのではなかろうか。
私のようなのが、1000人に一人でも居れば、10万枚は売れるのだが、それすら
無理だとすると、別の人生に向かって行きたくなってもしょうがないわな。
飽きっぽいのはしょうがない。浮気っぽいのが大衆だ。
最後のシングルの「浮気なあいつ」とは大衆のことを指しているんじゃなかろうか。
(2007.05.08記)