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♪小さな願い     1970.07
 I SAY A LITTLE PRAYER
  作詞:H.David 作曲:B.Bacharach 編曲:宮川 泰
  演奏:オールスターズ・レオン コーラス:フォー・メイツほか
  録音:1970.03.19 キングレコード音羽スタジオ

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

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今風に言うと、クール(かっこいい)な歌だとまず感じます。
それにはアレンジ、演奏、録音方法、歌い方など色々な要素が組合わさっていて、
それらが同じ方向を向いて、この世界を構築しているという一体感があります。
一般的な歌手が最新のポップスをカバーする取り組みとは異なって、歌手自体の
歌を聴かせるということではなく、アルバムとしての作品作りに向かっています。
こういう姿勢は近年では良くあることかも知れませんが、ザ・ピーナッツ現役の
時代では極めて珍しいアプローチではなかったかと推察します。

1967年にディオンヌ・ワーウィックが初めて歌いヒットした。
また、翌年にもアレサ・フランクリンのバージョンもヒットを記録している。
ネットの記事では、このような記載が見つかりました。
ザ・ピーナッツが歌ったから、この曲を知ったという程度のレベルの人間なので、
ピーナッツさん達が他の歌唱を参考にしているか、とか、アレンジの違いなどの
比較は私には出来ません。

そもそもザ・ピーナッツという変換媒体を経ないと、その曲の良さがわからない、
という困った人種だなと自覚しています。
宮川泰先生のアレンジとの相互作用が及んだ場合は特にその傾向が顕著に現れて、
どんな音楽であっても分かりやすく耳に優しいものに早変わりする感じです。
それでいてツボを押さえているというのか、易しく聴こえながらも曲の持っている
魅力はしっかりと伝わって来る不思議さがあるのです。

英語もドイツ語もさっぱり判らない私は、ザ・ピーナッツの発音自体がどうなのか
さっぱり見当もつきません。良かろうが悪かろうが私には関係ないという感じです。
そのくせに、英語の歌は英語で歌ってもらった方が雰囲気があるようにも思えます。
この歌も何を歌っているのかわからないのでネットで歌詞の意味を探してみました。
ちゃんとそういう研究をしているホームページがあるものなのですね。
私のサイトなんか何の役にも立っていないなと日頃情けなく感じてしまうのですが、
こんな時は一層そういう思いがします。

歌詞を要約すると、
 あなたに小さな願いごとを言いますね。
 色んな日常の仕種の中で、おりにふれて小さな願いごとを言いますね。
 永久に永久に、いつまでも私はあなたを愛し続けるわ。
 二人は別れない。あなたなしで生きられない。私にはあなたしかいない。
 だから、あなたも私を愛して頂戴ね。
 この私の小さな願いをかなえて、あなたも私が好きだと言ってね。
 どうぞあなたも私を愛してくれますように……これが私の願いです。
まあ、こんなことを言っているのですね。直訳して歌ったら間が抜けているかも。
だから、かえって意味なんかわからない方が逆に意味深なことを曲調から想像して
聴いていた方がいいんじゃないか、とも思えます。
英語のニュアンスがちゃんとわかる人には、その良さもあるかも知れませんので、
なんとも断定など出来ないのですが、わからなくても味わえることは確かでしょう。

ここで無理矢理、サウンドの話に転化させてしまいますが……
オーディオ雑誌にオーディオ・テクニカ社のヘッドフォンの広告が載っていました。
45th anniversary always listening audio-technicaというコピーです。
我が社の名器は、45年間いつでも愛聴されています、ということなのでしょうね。
私の場合は、49th anniversary always listening The Peanutsなんですが、
実際にレコードを買って聴き始めた時期からは、まだ45thくらいなのでしょう。

ここで、ふと意識化したのは、このalways listeningという言葉です。
ザ・ピーナッツというと、古く懐かしいもの、と一般的には捉えられ勝ちなのかも
しれないのですが、私にはalways listeningそのものだったのです。
つまり、ずっと一緒に生きて来たし、今でも何時でも日常的にそこにあるのです。
もう年中繰返し聴いているので、古い、懐かしい、という感覚は皆無なのです。
そんな中でも、この歌も、このアルバム自体も常に新しいし、色褪せたりしません。
なんだか今出来たばかりの鮮度を聴く度に感じるという不思議さがあるのです。

オーディオ・システムはタイムマシンだという説を最近目にしました。
なるほどなあ、と感心しました。
そんなこと言ったらビデオだって映画だってタイムマシンじゃないかと言えますが、
ザ・ピーナッツの映像を見る限り、古いなあ、と感じずにはいられません。
とてもタイムマシンで時空を超えたような鮮度がないと思うのです。
ところが、音の世界は違います。良い音は古さを感じません。鮮度が劣化しない。

特にクラシックやジャズの世界では、ザ・ピーナッツ世代の録音が珍重されてます。
その自然な響きや、ダイレクトな生々しさが、近年の録音を凌駕している、とまで
言われております。機材や録音システムが大変な進化をしている筈なのにです。
それだけ、当時の録音環境は完成度が既に高かったということでしょう。
残された映像などから、音質も同じように古く品質が劣るなどと思うのは誤解です。
大変に立派なものであるし、むしろ優れている面も多いのです。

歌手も演奏者もバックコーラスもアレンジもとにかくプロジェクトとしてのやる気が
かなりのテンションを維持しているアルバムです。
実験的な試みでありながらも、気難しさがなくて、無理強いさせない良さがあります。
あらゆる技術がひけらされることなく自然に結実しているから聴き手に快適で面白い。
この曲が収められている「ザ・ピーナッツの新しい世界」は文字通りで、常に新しい
響きを耳に届けてくれる新しい世界であり続けるのです。
(2007.09.03記)