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♪ちゃっきり節    1970.08
   作詞:北原白秋 作曲:町田嘉章 編曲:宮川泰
   演奏:記載なし/管弦楽のオーケストラ風
   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★ ★★★★ ★★★★

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この録音が入っているCDに下記の解説が付いていました。
 ザ・ピーナッツは1959年のデビュー当初から日本の民謡をさかんにとりあげて
 きました。(中略)
 思えば「シャボン玉ホリデー」などでも本当によく歌っていたものです。
 今から考えると、あれは一体なんだったろうと思いますが、当時はとくに奇異な
 感じもなく自然に聞いていました。ポピュラー・シンガーに日本調をやらせると
 いうのは、よくあったパターンなのです。
 しかし、識者にはこれが気に入らない人も居たようで「ザ・ピーナッツにチャッ
 キリ節を歌わせる事は意味がない。チャッキリ節をもっとジャージーにこなして
 歌わせるというのなら話は別だが」などと「ミュージック・ライフ」誌(59年)
 で噛み付いていた音楽評論家の方もいました。この方には安易な日本調の導入は
 耐えられなかったのでしょう。(以下略)

私はどうもこの「カタカナ横文字」に拒絶反応があって意味を曖昧にしたくないので、
「ジャージーにこなして」の意味を考えてみました。
「ジャージー」は「Jazzy」のカナ読みだと思うのです。
これだとすると、ジャズ風に、とか、ジャズ度を高くしてということなのでしょうが
「ジャージー」でネット検索すると、体操服(ジャージ)の別読みとしか出ていない。
だからカタカナ表記をする場合は「ジャッジー」が正解のような気がします。

まあ当時はジャズが最新の流行だったのかも知れませんが、ジャズ風にやらなくても
ラテン風だって良いはず。やり玉に上がってたチャッキリ、チャ、チャ、チャだって
ただ民謡を日本調で歌っていたわけじゃない。
そういうジャンル分けは私は大嫌いです。クールでなくても楽しければいいじゃんか。
あのチャッキリ、チャ、チャ、チャは希代の名アレンジだったと思います。
映画「可愛い花」の挿入歌や、映画「私と私」の挿入歌は、ちゃっきり節となっては
いますが、アレンジの基本線はこのチャッキリ、チャ、チャ、チャでありました。

さて、11年後のこの「ちゃっきり節」ではどうなったでしょう。
まずリズムパターンが最新型という感じになっています。
「ガラスの城」とリズム型がそっくり。ジャズロック調とでも言ったらいいのかしら。
演奏もゴージャス感を増しています。
前作でもフルバンド構成の大所帯で、けっして聞き劣りはしませんが、こっちは更に
管弦楽編成でフルートやギターのアドリブソロも付いて、絢爛豪華そのものです。
まさにナベプロの底力。クリエーターとしての「良心」が溢れる立派な演奏付きです。

これだけの譜面を書き下ろすのは容易じゃない。見事で大変な品質だと思います。
しかしながら、11年前の前作のアレンジの切れ味、閃きという面はさほどではなく、
えっという驚きではなく、ザ・ピーナッツと宮川泰なら、これは納得というイメージ。
だから、11年前の録音が音楽的に陳腐化しているようには私は思えないのです。
あれはあれで素晴らしい。同じ歌手、同じ編曲者でこれだけ別風味の趣を出せること、
これが凄い。かっこいい。たいしたもんだと思いますよ。

ところで、昨日、ピーナッツ・ホリデーBBSで二人の音像配置の話題が出てました。

一般型   ○○○○○○○楽○○○○○○○器○○○○○○○群○○○○○○○
              (^-^) エミ        (^-^) ユミ

逆位置型  ○○○○○○○楽○○○○○○○器○○○○○○○群○○○○○○○
              (^-^) ユミ        (^-^) エミ

強調分離型 ○○○○○○○楽○○○○○○○器○○○○○○○群○○○○○○○
      (^-^) エミ                     (^-^) ユミ

中央集中型 ○○○○○○○楽○○○○○○○器○○○○○○○群○○○○○○○
                 エミ(^-^) (^-^) ユミ                        

パターンとしては上記のような感じに使い分けて録音されていると思います。
この「ちゃっきり節」は「中央集中型」で収録されています。
後年の録音はこれが多いです。「中抜け」というサウンドイメージを避けたのかな?
私は一般型がやっぱり好きだけどなあ。

通常コーラスに限らず、西洋音楽では左側に高音を配し、右側に行くに従って低音を
受け持つように並べます。
オーケストラでは、第一バイオリン、第二バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバ
スという風に座ります。(第一、第二バイオリンを左右に展開した配置もある)
フル・バンドでも、アルトサックス×2、テナーサックス×2、バリトンサックスと
いうように並びます。
このようにするとハーモニーの音の混ざり方が良いからです。演奏もしやすい。
別に右から左へでも良いのですが、永年の慣習なのだと思います。

ザ・ピーナッツだけが、むしろ定位置が逆なのです。
デュオだから、どっちでも良いのですが、西洋音楽に耳が慣れた人には、ユミさんの
声が左から聞こえた方が気に入るのかも知れません。曲想次第でしょう。
最終的なこれで良いという録音結果の判断は主に編曲者がやっていたようですから、
宮川さんらが、逆位置の方がこの曲の場合は感じが良いと判断した結果でしょう。
別にピーナッツさんが立つ位置を変えたわけじゃなくコンソールで簡単に左右逆転が
出来ます。ジャックを入れ替えてもいいし。

ユミさんとエミさんは、管楽器で言うと、管径(太さ)が違うという感じ。
(ユミ)細い管は華やかで線が細いが高音が伸びます。
(エミ)太い管は落ち着いた音色で滑らかで中低音が豊かです。
リード(歌口)が同じでも、このような差が出ます。
すなわちDNA依存の声帯は同じでも響き方が違っているのです。

トランペットとアルトサックスがユニゾンをやった場合親和性は乏しく、別の効果を
生みますが、あまり美しい響きにはなりません。
これが他人同士による一般的なデュオの響き。
アルトサックスとテナーサックスがユニゾンをするとこれは素性が同じで親和性抜群。
これがザ・ピーナッツ・サウンドの魅力でしょう。

高音を得意とする楽器に、下を吹かせて、同種の低音指向楽器に上を吹かせるという
特殊なオーケストレーションをする作曲家がいました。ベルリオーズという人です。
これは音色をその箇所に相応しく特殊な表現を狙ったものです。
クラシック音楽に造詣の深い、すぎやまこういちさんは、こういう事例も知っていた
可能性があります。
ピーナッツに逆の役割を与えた場合の効果が欲しかったのかも?
エミさんが上を歌ったら、印象がアダルトな落ち着いた感じになると思いますよ。
(2007.10.16記)