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♪月影のナポリ    1960.06
 TINTARELLA DI LUNA
   作詞:千家 春(岩谷時子)
   作曲:S.Skylar.F.Migliacci.B.De.Filippie 編曲:宮川泰
   演奏:シックスジョーズ(&ブラスセクション)
   録音:1960.05.31
    

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★★ ★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

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毎度繰返すようですが、私は昭和36年の「モスラ」上映以後からのザ・ピーナッツ
ファンなので、それ以前は漠然としか知りません。
このシングル盤レコードもこの昭和36年に買ったものです。
それまでに発売されたレコードは、この時点でも新品で殆どを買う事が可能でした。
ザ・ピーナッツの人気は別にファンではなくても日本中の人が周知のことであったし、
特に私達子供達には馴染み深いものでした。

記憶は定かではないのですが、ザ・ピーナッツよりは、坂本九、森山加代子の人気が
高まっていたようで、カヨちゃんの独特の歌い方が一般に受けていたと思います。
この「月影のナポリ/白鳥の恋」のカップリングはザ・ピーナッツと森山加代子盤が
真っ向対決だったようで、売れ行きは4分6くらいで森山加代子盤が勝ったとか。
ところが、森山加代子バージョンとザ・ピーナッツのそれとは歌詞が異なります。
実は同じ方(岩谷時子さん)が両方とも作詞していたことが判明してはいるのですが、
この違いが主に子供達を混乱させていたようで、両者の歌詞をチャンポンに歌って
しまうことが大人でも多かったように思います。

どうも引用元は一ケ所のようですが、現在は一つの情報をあちこちで転載するので
それが世間の定説になってしまうような面があります。
それは、こういう話です。

月影のナポリはザ・ピーナッツとの競作で、そちらも演奏はシックス・ジョーンズ。
この森山加代子ヴァージョンも、ザ・ピーナッツヴァージョンと同じように演奏しよ
うとしたところ、森山加代子が「もっとテンポを落として下さい」とバンドに指示、
急遽テンポを落としてレコーディングしたという事情があったよう。
(まだ新人なのにシックスジョーンズに演奏指示出すのもただ者じゃない)
しかし、レコーディングが終わってみると、シックスジョーンズのメンバーたちは、
「こっちの方がいいね。これは、ピーナッツ負けたかな」との感想を抱いたそうで、
実際に森山ヴァージョンはヒット!
森山加代子としてはミーナのテンポで曲を覚えたので、それに近いテンポで演奏して
欲しかったというだけのことだったらしいですが、結果オーライだった。

本当に「こっちの方がいいね。これは、ピーナッツ負けたかな」なんて言ったのかな?
まあ、実際に販売数で負けたようなので、予想通りということかも知れません。
でもね、渡辺プロダクションの社長がベースを弾いて曲のアレンジャーの宮川さんも
居るシックスジョーズのメンバーがそんなこと言ったら無責任と思うけどなあ?
森山加代子も渡辺夫人のご実家の曲直瀬プロだから、仲間意識だったのかなあ?
ライバルとも言えるけど、そういう面ではザ・ピーナッツはライバルにはことごとく
負けておりました。もうずっと連敗みたいなものです。
森山加代子とか弘田三枝子とか、こまどり姉妹とかに刹那的には抜かれたようです。
でも、どうも先に相手が勝手にコケてしまった感があります。
そしてライバル的な相手が居なくなってしまうと、ザ・ピーナッツ人気も下降気味に。
世の中、そういうものだと思います。

ところで、森山加代子盤もザ・ピーナッツ盤も演奏はシックス・ジョーンズと書いて
あるのですが、実際にレコードなりCDを聴いて疑問を抱くことはないでしょうか?
シックス・ジョーズは、ピアノ、ベース、ギター、ドラムス、ヴィブラフォン、木管
(テナーサックスとフルートを一人で持ち換える)という文字通りの6人編成です。
ザ・ピーナッツのを聴いたら、誰でも、こんな編成での演奏だとは思えないはずです。
これは管楽器を主体にしたビッグバンドのサウンドそのものです。
そう聴こえない人は耳鼻科へ行った方がいいし、音楽とは別の趣味をお薦めします。

B面の「白鳥の恋」は、東京キューバンボーイズなので、どうせお願いするならば、
A面も付き合って頂く方がなにかと便利だと思いませんか?
わざわざAB面を別の日に改めて録音するなんて非効率なことしないと思うのだが?
それに東京キューバンボーイズでなければ、わざわざ自前のスカイライナーズとか
ブルー・ソックスの管楽器13名をお呼びしなきゃならない。手間も時間も勿体ない。
なので、A面はシックス・ジョーズと東京キューバンボーイズの合同演奏と思われる。
随分と豪勢じゃないかと感じられるかも知れないけど、そこにはわけがあると思う。

色々とネットで調べてはいるのですが、どうにも資料が見つからず、確証が無いまま、
独断で書きますが「日本で初めての流行歌ステレオ録音」じゃないかと思われます。
ステレオ録音をいきなりやれと言われてもノウハウがなきゃ出来ないと思います。
そこでレコード各社は録音実験のようなことをしたと思うのです。
いわば学術的な録音素材にクラシックのオーケストラや合唱団とか和楽器の演奏とか
色々と試行して学習したのだと推察します。
そのため、何が一番最初だったのかが、記録には残っていないのかも知れません。

ちなみに、NHK交響楽団の初めてのステレオLPも、この1960年に出ています。
これもキングレコードなんです。
「月影のナポリ/白鳥の恋」のシングル盤は1960年6月30日発売でありました。
ステレオ盤は少し遅れて、7月31日にリリースされています。
この頃、盛んだったポピュラー曲もそうだし、日本人のカバーレコードもモノラル盤。
ザ・ピーナッツの録音が、この「月影のナポリ/白鳥の恋」以降ステレオ録音されて
いたことは正に奇跡的な出来事だったとしか言い様が無い。

なんといってもステレオで聴くための一般家庭の環境が整い始めたのはFMステレオ
放送が開始された1962年(昭和37年)からではなかったかと思われる。
それまでにもNHK第1、第2のAM電波を使った「立体音楽堂」という番組があり、
ステレオ自体の概念は出来上がっていたけれど、レコード盤の発売自体が1957年
にアメリカで始まったばかりであり、外国でも普及していたわけではなかったのだ。
FMステレオ放送はステレオ電蓄で標準的に聴くことが出来たために、ここからが、
本格的なステレオ・サウンドの醍醐味を一般の人も知ることになったのだろう。

こういう背景からも、ザ・ピーナッツの「月影のナポリ/白鳥の恋」の録音にあたり、
相当な意気込みがキングレコードのスタッフにあったのではないかと推察出来る。
あの1962年デビューの「ザ・ビートルズ」の録音でさえ、モノラル収録が主体で
あったことを思えば、ザ・ピーナッツの録音が物凄い最先端技術でされていた事実を
認識しても良いのではなかろうか?
普通の歌手はわざわざステレオでの再収録を行っているケースが目立つが、最初から
ステレオのオリジナルがあるのは素晴らしいことなのである。

モノラル録音の方が良いという意見の人も評論家も含めて少数派としては存在する。
しかし何の為に人間は二つの耳をわざわざ頭の両側に持っているのか。無意味なのか。
そんなことはないと思う。片方が聴こえなくなった時の予備に過ぎないものではない。
せっかく備わった認識器官をフルに使えるような状態こそ望ましいのではないか。
しかし耳たぶの存在での前後認識や耳以外の感覚まで満足させるための5.1Chは
要らないと私は思う。そういう環境でのエフェクト効果は認めるが、音楽を聴く為に
それが必要とは思えない。サラウンド効果は映画などで活きてくるものだろう。
音楽にはピュアな2つのチャンネルがあれば十分だと思う。

ザ・ピーナッツの録音は単に歌の上手い歌手の記録というものではないと思う。
そういう歌手のそういう盤もあるであろうし、歌だけを主に聴く趣向も否定はしない。
ここには演奏と一体となった音楽の楽しさが聴けるのである。
ザ・ピーナッツと演奏が相互に引き立て合っている。そんな感じがする。
総じてザ・ピーナッツの録音は伴奏の音量がデカイ。そこが聞き所でもあるんだ。
「月影のナポリ」での音楽のスピード感と切れ味は見事なものである。
セーブしたり炸裂したりと金管楽器も多彩に活躍する。楽しそうに演奏している。
シックス・ジョーズ各人もヴィブラフォンやフルート、ギターのミュートプレイで
さりげなく名人芸を効かせる。聴き所が満載の1曲なんである。
あっと言う間に終ってしまうのだが、その一瞬のような煌めきだからこそ尊いのだ。
(2007.12.22記)