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♪ローマの雨    1966.10
   作詞:橋本 淳 作曲:すぎやまこういち 編曲:服部克久
   演奏:レオン・サンフォニエット
   録音:1966.08.19 キングレコード音羽スタジオ
  

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★* ★★★★★ ★★★★★ ★★★★*

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♪ローマの雨    1968.12
   作詞:橋本 淳 作曲:すぎやまこういち 編曲:宮川泰
   演奏:レオン・サンフォニエット
   録音:1968.08.01 キングレコード音羽スタジオ
  

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★* ★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

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この曲はザ・ピーナッツにしては珍しい特徴があります。
それはアレンジに服部克久さんが起用されていることです。
結果的に服部克久さんが関わったのは、この曲だけということになりました。
ザ・ピーナッツのメイン・アレンジャーは宮川泰でありますが、ご存知のように
宮川さんと服部さんは仲良しのお友達。
服部先生が、ね、宮ちゃん、たまには僕にもやらせてよ、と言ったのかも?
それとも、すぎやまこういちさんが、ご指名だったのか?

もちろん宮川先生のアレンジは定評のあるものですが、たまには違う風味に……
そういう意図もあったのか? 事実はわかりませんが、結果は大成功でしょう。
レコードで言うとシングル盤が服部克久さんのアレンジとなります。
ずっとこれが主役でありましたが、最近の一枚もののベストアルバムCDには
宮川泰編曲バージョンが収録されている場合が多くなりました。
くり返しますが、お二人はお友達ですから、宮川バージョンでも基本路線として
服部編曲の味はそのまま踏襲しているように聞こえます。

というわけで、この曲には上記のように新旧2つの録音があります。
魅力のポイントがすっきりしているのはオリジナルの服部バージョンだと思います。
何の関わりもない、似つかない曲なのに、私には「ブルー・ライト・ヨコハマ」の
演奏の味と共通する良さをここに感じます。
それはブラス(金管楽器)の和声の魅力を聴かせるところです。
これはそんな意識をしないで聴いている人にも良さは伝わっていると確信します。
メロディーや歌唱の魅力もありますが、アレンジを変えたら妙味も消えるでしょう。

このようなブラスを利かせたアレンジは当時のテレビやステージでは効果的でした。
歌謡ショーやテレビ番組ではフルバンドでの伴奏が主体だったので、レコードでの
聞こえ方と違和感もなくて、とても良かったと思います。
「ブルー・ライト・ヨコハマ」の演奏に比べ、「ローマの雨」のブラスはやや難儀
を強いられます。16分音符が6つも並んでいるから、タンギングが大変かも。
3拍目を8分休符に続いて、パパパパパパパーとやらなきゃいけないんだからね。
一人ならまだ誤魔化せますが斉唱なので切れと正確さが必要になります。

まあ、ここが最大の魅力みたいなものなので、宮川先生が行った再編曲においても
これはそのまま残すのが当然といえば当然。
じゃ何処が違うかというと、宮川さんは音と音の狭間が寂しくなるのがいやなので
合の手のようになにかを埋めてみたくなってくる性癖があるように思うのです。
服部克久さんは、むしろその間が命だという感じがあって、あえてブラスだけにし、
その余韻を維持させてるようなのですが、宮川さんはストリングス(弦楽器群)を
付加してシンフォニックでゴージャスな作品に仕上げています。

ザ・ピーナッツの歌唱には両方の録音での著しい違いはないと感じます。
ザ・ピーナッツに限らず、違う味を出す意図でない場合は一流の歌手は何年後でも
初回録音と寸分違わずという面があるように私は思います。
初めからそれだけの読みの完成度というものが確立されているのでしょう。
2流以下の歌手は違う事をやろうとして、ことごとく無惨な結果を晒しております。
この両録音のボーカルでの大きな違いは録音技法の面だと思います。
オリジナルの方の録音はセンターに集中させて、強いエコーをかけていました。
この手法は私はあまり歓迎出来ません。風呂場で歌っている感じです。

その点は後発録音の方がクリアでありながらもしっとりしていて好ましい感じです。
だからといってオリジナル録音の良さが消えるということはありません。
現代はなにごとも優劣や格差をつけ、勝ち負けをつけ、優れたものだけが生き残る
という風潮ですが、それぞれに存在価値はあると考えるべきであり、オリジナルが
なければセルフカバーも存在出来ない面もあるのは当たり前でシングル盤の録音も
これからも生き残って欲しいと思います。

さて、この曲の作詞の橋本淳さんは。この曲の作曲をされたすぎやまこういちさんの
門下生ということになり、同門の先輩である作曲家筒美京平さんとのコンビも有名。
ネットのとある記事によると……
キングレコードに入社、翻訳などを担当した後に、1967年「涙のギター」で作詞
家デビュー。となっておりますが、何かの間違いでしょう。
1966年に、現にこの「ローマの雨」でデビューしているんだからねえ。(笑)
私のサイトもけっこういい加減ではありますが、正確な記述は少ないものですね。

この橋本淳さんの詩は、又、その他の歌の詩も一般に私は割とクールだなと感じます。
職人芸のような感じで、対象にのめりこむのではなくて殺し文句をちりばめるような
キャッチコピー的なセンスの良さを感じます。
個人的には、なかにし礼さんや、安井かずみさんの詩のような切実な思いが好きでは
あるのですが、阿久悠さんのように幅広くはなくても、この器用さは才能でしょう。
歌になりやすい詩作だとも思えるし、ヒットが沢山生まれたのも当然だと思います。

クールさは、かっこいいという意味が含まれますが、ザ・ピーナッツもクールな面が
あるので、総じて、クールさが表面化してきている感じがあります。
腕の良い職人が、はい、一丁上がり、と、作ってしまった感じがあるのです。
腕が良過ぎて、みっともないくらいの修羅場の衝撃のようなものがないのです。
いい歌だね。良い仕上がりだね。とは感じられても、この歌の強い存在感を感じない。
NHK紅白歌合戦でも歌ったが、インパクトがなくて影が薄かったように思う。
しかし、なくてはならない歌なんです。ファンとはそういうものなのです。
(2008.01.06記)