■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
♪バイアの小道 1960.12
DANS LES RUES DE BAHIA
原曲:D.Burgess-A.Salvet,Rouvre 作詞:音羽たかし 編曲:宮川泰
演奏:原信夫とシャープス&フラッツ、ウイズ ・ストリングス
一般知名度 | 私的愛好度 | 音楽的評価 | 音響的美感 |
★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ |
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
この歌は熱烈に大好きです。自分の臨終の時にも聴きたいくらいです。
大好きな歌は他にも当然ありますが順位をつけるのもナンセンスなのでやりません。
このシングル盤が発売された頃は、まだザ・ピーナッツ・ファンになっていないので、
テレビなどで歌っていたとしても記憶には全く残っていません。
だから意識上の初めての遭遇は、レコードを買った時点でした。
とにかく鮮烈な良さを感じて、この歌のとりこになってしまいました。
その後、ラジオでは、稀にでしたが流されたことがありました。
なんといってもザ・ピーナッツはメジャーな歌手でしたので、こういう曲でも放送に
何気なく使われることがあったのです。
とにかく、ぶったまげるのは、イントロの、♪あ〜ああああああああああああ〜!!
発声訓練のような強いエネルギーで、裸で走り回るような解放感抜群の歌声です。
いわば、素っピンの歌声。そのまんまで勝負。こういう歌って、ありなのか。
けれん味のない歌声とでも言うのかしら、ザ・ピーナッツの歌声のバイタリティーの
圧倒的な面を活かそうとした宮川先生の意図なのでしょうが、そういう仕掛けになど
気付くのはずっと後年に付け足した智恵なので、最初はただただ感動するだけでした。
とにかく魅力的な歌なのです。文章にするには分析的に聴かないといけないのですが、
理詰めでの説明は難しい。
大泉逸郎の「孫」という歌に「なんでこんなに可愛いのかよ」って歌詞がありますね、
これと同じですよ。なんでこんなに良いのか、上手く説明出来ないです。
メロディーはどうということはないものなのに妙に日本語で作られた歌詞と合ってて、
この歌詞があるから異国情緒と南の国の幻想感が醸し出されているように思います。
何も関係ないのだけど、私はバイアの道とインファント島が時空のトンネルで繋がり、
そのタバコ祭りの人の波をかけわけていくと洞窟があったりするような……そういう
夢幻の郷愁のような、実際には存在しない夢の国に誘われている感じがします。
実際にそういう歌詞なので、どうしてもその方向へ誘導されてしまうのかもしれない。
私が買ったレコードは家にステレオがなかったのでモノラル盤でした。
ずっと、これでしか聴いていなかったのです。
この歌は売り手の側としては重要な楽曲ではなかったようなのでLPには収録されず、
CDの時代にもなかなか登場せず、やっとシングルスという企画で聴けたのです。
いやはや、やっぱりステレオで聴くと魅力は三倍に膨れ上がります。感動しますね。
ザ・ピーナッツの魅力は、1足す1は2じゃない、3にも4にもなると言われます。
映画「可愛い花」の中でそういうセリフがあったと思いますが、それとステレオ録音
は同じで、単にスピーカーが二つになったわけじゃないのです。
モノラルで聴いた方が昔の印象になるし懐かしい音がするという人もいるようですが、
やっぱりステレオで聴くと素晴らしさに圧倒されるのでモノラルには戻れませんね。
ザ・ピーナッツ後援会に入っても、そこの仲間の人と「バイアの小道」を語り合うと
いうことがなかったのです。
レコード盤というのが贅沢品の時代だったせいもあって、そもそもレコード盤自体を
買っていない人が多いのです。自分の認識としては、まずレコードなのにね。
逆に私には高くて買えないプロマイドとかは持ってる。値段一緒じゃないか。(笑)
ステージなんかも追っかけて見に行くんですね、これが。大変だろうと思うんですが。
ようするに可愛いお姿に接したい、という強い願望がファン心理なんでしょうね。
そりゃ、私だってピーナッツさんに逢ってお話なんかしてみたいのですが。
「バイヤの小道が大好きです。ステージなんかでも歌って欲しい」なんて言っても、
「あら、どういう歌だったかしら……」なんて言われたら、がっかりしちゃいそう。
だからアンカーさんにお会いした時は飛び上がらんばかりに嬉しかったものでした。
だって「バイアの小道」が好きだなんておっしゃるんですからね。
こういう方とは初めての遭遇でした。まさに感動のご対面でしょう。
「山小屋の太郎さん、なんかも大好きです」……はい、はい、そうこなくちゃね。
もうこれで、自分の思いは確信に近いものになっちゃいました。
「バイアの小道」を好きじゃないヤツは本物のザ・ピーナッツ・ファンじゃないな。
随分と乱暴な思い込みですが、信念のようになってしまったのですよ。
私の中ではこの歌は「月影のキューバ」とリンクした姉妹ソングのようなものです。
これ両方が大好きなので、歌詞の印象を繋げて、行くこともないであろう夢の国を
空想する愉悦に浸っていたというわけです。
♪いちどおいでよ、なんて歌ってますが、まず行けっこない遠い国です。
ザ・ピーナッツはこういうラテン風味の歌がとっても似合うのです。
もしかすると、ザ・ピーナッツに限ったことじゃなくて、日本人みんなにラテンは
ジャズなんかよりも身近で馴染みやすいものかもしれない。
もっともこのレコードの演奏はラテンジャズみたいな合成感もある気がしますが。
EPITAPHさんが、レコード随想のご参考にと、あるシングル盤を貸してくれました。
なるほど、これが元歌なのかも知れないな、という印象です。
こちらは100%ラテン音楽となっていてパーカッションがベースになっています。
そして半端じゃない立派な編成の演奏です。お金がかかってるレコードです。
フル・バンドに弦楽器がプラスされた豪華版ですが、軽やかで気持よく聴けます。
ザ・ピーナッツでの演奏陣がシャープス&フラッツとストリングスであることには
このレコードの演奏の影響が色濃く出ているようにも感じます。
何故、今回は、お馴染みの東京キューバンボーイズではなくシャープス&フラッツ
なのか、という点も興味深い。ラテンならキューバンでしょ、ふつう。
そこには、こちらのレコードに対するライヴァル意識のようなものがあったのでは?
真似はしないぞ、という強い意識があるように思うのです。
イントロの、♪あ〜ああああああああああああ〜なんかが際たるものだと思います。
こういう元歌に存在しない付加価値を創造しちゃうのも宮川さんのこだわりかも。
ピーナッツのレコード盤のライナーには、こう書かれています。
キューバの一寒村“バイア”の小道に取材したローカル・ソング。
原曲は最近わが国でもヒットをみせたラテン・ナンバー“トゥー・マッチ・ テキー
ラ”(テキーラでへべれけ)です。軽快なラテン・リズムによく乗ったピーナッツの
歌はきっと皆様のお気に召していただけるものと存じます。
はい、とってもお気に召しておりますよ。
短い曲だし、マヤ・カサビアンカ盤のラテン気分たっぷりののどかな長さもないけど、
その隅々まで楽しい。演奏もけっして負けていない。あっちもこっちもいいんだ。
そして、これでもか、と2番の歌詞に入るところで演奏が哀愁を帯びてくるんです。
そこで左チャンネルに入って来る弦楽器の背景音みたい旋律がいいんだなあ。
当時から、これだけは、はっきりと宮川泰編曲という文字を意識してました。
この人のおかげでザ・ピーナッツのカバー盤は全く違う価値を帯び光ってると思った。
まだ音楽のことなんか詳しくなかったのに宮川泰という名は頭にこびりついていた。
お袋に、これ、ヒロシとラジオで言ってたけど、そう読んでいいのかなと聞いてみた。
これはヒロシとは読まないよ、ヤスシなんじゃないの、と言われた。
それからは本当はどうなのか、耳をこらして聞いてると、やっぱりヒロシでいいんだ。
NHKのラジオを録音したら、それでは次は……中略……編曲ミヤガワヒロシさんで、
祇園小唄をお聞き頂きます、と、言ってた。NHKのアナだから間違いない!!
中学校で宮川泰なんて言ったって、誰も知ってるヤツは居なかった。ほんとだよ!
「あれは十五の夏祭り」は、もう私にとって重大な歌なんだが、誰も聞いていないし、
宮川泰なんて無名作曲家に頼んでいるなんてザ・ピーナッツも二流だと思われていた。
それが今じゃ両者ともに伝説化した大変な有名人になってます。
長い間、いい仕事をして頑張った甲斐があったというものでしょうね。
この盤なども、まだ知られざる名アレンジャーだった頃の大傑作だと思います。
こういうのがゴロゴロしてるんだから、省略のない洩れのないCD化をお願いしたい。
そう。お若いあなた達にとっても、超お宝の曲になる可能性がここにもあるんです。
なっ。みんなも好きだよねっ!!!
(2008.7.14記)