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♪手紙    1972頃?
   作詞:なかにし礼 作曲:川口 真 編曲:宮川 泰
   演奏:記載なし
   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★ ★★★★ ★★★

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♪死んでもあなたと 暮らしていたいと
 今日までつとめた この私だけど
  二人で育てた 小鳥をにがし
   二人で書いたこの絵 燃やしましょう
    何が悪いのか 今もわからない
   誰のせいなのか 今もわからない
   涙で綴りかけた お別れの手紙

実に切ない歌詞である。こんな思いはしたくないし、そういう経験もない。
これは一度は相思相愛にあったわけだけど異性にまるで縁がなかったから辛い思いを
したことがない。私に言わせればくっついたり離れたり繰り返すのは贅沢なことだ。
元々が血も繋がっていない他人と暮らすわけなので、うまく行かないのが普通だろう。
何が悪いのか、誰のせいなのか、という問題じゃなかろう。永遠にわかりっこない。
他人が仲良く一生暮らせるなんて奇跡なのだ。だから、それこそ凄いことなんだろう。

由紀さおりさんが歌い大ヒットした夜明けのスキャット(昭和44年)に続いて翌年に
これまたヒットした不朽の名作のカバー。とても良い歌だと思います。
なかにし礼さんの情感あふれる詩に、川口真さんの知的でスマートな曲がマッチし、
深刻な内容にもかかわらず、どこかクールでお洒落な不思議な曲だと思います。
由紀さおりさんの歌声もこの曲にベストマッチで、それは相互作用のようでもあり、
他の歌手がカバーする意義というものが感じられないほどです。

今更、ザ・ピーナッツが歌ってもどんなのものか、という疑念は、まあ聴いてみれば、
ああ、こういうのもありだな、と思えます。
必聴とまでは申しませんが、輪唱部分など、こういう良さを秘めた楽曲だったのかと
アレンジの面白さを満喫出来る、そういうカバーになっています。
このカバーアルバムの中では割りと好きな方です。

感心出来ないのが「音質」。
アポロン音楽工業独自でリリースしたソースの全てに当てはまります。
好みの問題なのかも知れません。
キングレコードの純正な録音盤には、レコードやCDに収録されている深い響きを
その中身の全てを再現することへの挑戦、掘り起こし尽くせない魅力があります。
そこには計り知れない可能性が秘められているような幻想さえ抱かせるのです。
その点でアポロン音源は直ぐ底が見えてしまったような軽薄感が付きまといます。

ザ・ピーナッツの時代は、38センチ/秒の2トラックでのテープ録音が主体です。
76センチ/秒という機器も既にありましたが、これは使われていないでしょう。
この38センチ/秒の2トラック録音というのが実に素晴らしいと私は思います。
「手紙」が録音された時代は既に録音環境は成熟期であって、ハード面で技術的に
不足はなかったはずであって、このような浅い響きは納得出来ないのです。
私の感覚だけの感想ですが、半速の19センチ/秒で録音しちゃってるかのような
中身の密度が希薄で外面的にチャラチャラ鳴っている、そういう印象です。

オーディオ好きの人がオーディオを語ると周りを辟易させてしまいます。
どこか傲慢な自慢話のような感覚を抱かせることも、ままあるようです。
ところが実際、オーディオ趣味というものは尽きない「謙虚」さの表われなのです。
まだまだ、こんなものじゃ、マスターテープの音を引き出していないはずだという
渇望が常につきまとうのです。足るを知るという境地に到れない亡者なのです。
それはソースがそれだけ神秘的な魅力に満ちているからなのです。

でも、このアポロンの響きにはそういう魔力が潜んでいません。
カセットテープへの生録音をしたかのような感覚では取組み甲斐がないのです。
こういう感覚は自分だけが感じるものなのだろうか?
そこが気になり、日頃から、適当なキーワードでネット検索していたら、ある記事と
遭遇した。↓↓↓

 1960年代、ステレオ録音初期時代のキングレコードのサウンドが良かったですね。
 個性的なエコー感溢れるサウンドが・・。ピーナッツのCDを結構持っているの
 ですが、1962年頃から68年あたりまでの音源が、独特のキングのサウンド
 なんですよ、ピーナッツ以外のキング所属アーティストのこの頃のステレオ録音
 でもこの音が楽しめます。

いやあ、私の好みとぴったり、いつも思っていることがズバリ一致しました。
もっとも、1962年頃から68年あたりまでというところがちょっと違う感じで、
私的には、1960年頃から68年あたりまでとなります。
特に、1960年の音質たるや絶品ですから、これを外してしまったら無意味です。
つまり、ステレオ録音初期が最高に素晴らしく、次第に魅力が薄れた感じなのです。
録音機器や環境が日進月歩であり、高度成長期であり、レコード産業もうなぎ昇り。
なのに、皆がステレオ装置を買える頃になって瑞々しい音色が消えたことになる。
なんなのでしょう? どうなっているのだろう。

アポロンの音楽テープは1970年代がメインのように思いますが、ステレオ初期の
あの深遠な音色が消え失せ、二次元のような全部が平板に並んでいるかのような音に
なってしまっている、聴こえない音がない感覚は良いのかもしれないけど空間情報が
欠落したような、それを電気的に細工したような底が浅いイメージがつきまとう。
想像に過ぎないが、吸音処理を施した録音スタジオで楽器オンマイクで収録したかの
ような感じでエコーは人工付加されているようにも聴こえる。
中高音は無指向性スピーカーとか反射音を利用するタイプが似合いそうである。
だからカーステレオで聴いたら良さそうでもある。
通常の聴き方では、音がギラギラして音量を下げたくなる。

これはズルしてもいいから、周波数特性をいじってでも心地よい響きに変えて欲しい。
もし、オリジナル・ソースがもっと穏やかな音質なのであれば、リミッターやらコン
プレッサーなどの音圧強化、強引なメリハリ付けをやめてほしい。
マスタリングは実際の音を良く聴いてやってほしいものだ。趣味が悪いと思う。
他のザ・ピーナッツのキングのCDの音を、今一度、再認識してもらいたいと思う。

聴き手としては現状を肯定せざるをえないので、これらアポロン音源の再生のために
専用のサブ・スピーカーがほしいところだ。
シングルコーンで高域の伸びていないものとか、マルチウエイならソフトドーム系の
おっとり、のんびりしたシステムが良さそうである。
(買うつもりも、お金もないけど)

(2008.9.16記)