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♪通りゃんせ 1960.03
(わらべ唄) 編曲:宮川泰
演奏:シックス・ジョーズ(弦楽助奏付き)
録音:1959.12.23
一般知名度 | 私的愛好度 | 音楽的評価 | 音響的美感 |
★★ | ★★★ | ★★★ | ★★ |
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♪通りゃんせ 通りゃんせ
ここはどこの細道じゃ
天神様の細道じゃ
ちぃっと通して 下しゃんせ
ご用のない者 通しゃせぬ
この子の七つのお祝いに
お札を納めに 参ります
行きはよいよい 帰りはこわい
こわいながらも 通りゃんせ 通りゃんせ
私は子供の頃から当然この歌を知っており、全国の子供が歌っていると思っていた
のであるが、どうも関東地方のわらべ歌であるらしい。
しかし、あまりにも歴史が古いから全国区の歌になっているのではなかろうか?
♪行きはよいよい 帰りはこわい
なんて無気味な歌詞もあるし、オカルトアニメ作品などでも異次元の門への通路とか
出てくるとこの歌が流れるなど異様なムードも漂う曲でもある。
今更、私ごときがこの歌そのものを語る必要性はないと思われるのでグーグル検索で
「川越の歌と文学(1)」というキーワードを入れてみると詳細な解説を得ることが
出来ます。興味のある方はお試しください。
歌そのものも素朴なわらべ唄であるため、あまり凝ったアレンジでも歌唱でもない。
イントロとエンディングには、♪ルルル……というハミング旋律が添えられているが
雰囲気を壊すようなものではなく、ごく自然に歌への導入と惜別のような、爽やかで
幾分物悲しいような郷愁感を演出している。
伴奏がシックス・ジョーズというジャズバンドであることを活かすのが、中間部でも
ありエンディングの前兆でもある演奏パートへの転換である。
いかにもここからジャズになりますよという定番とも言えるウッドベースの下降から
スウィングジャズに変わり、ヴィブラフォンとギター、ピアノへと旋律が引き継がれ、
アドリブというよりジャズ風に崩したメロディーが奏でられる。
本来なら、ここはジャズ・コーラスの本領を発揮させるべきなのかも知れない。
ジャズのビートで同じ歌詞を繰り返すという手法を採るべきまもしれない。
評論家の方はそのように感じて、これでは喰い足りない、もっと料理の仕方があるで
あろうし不完全燃焼だと評されたようなのである。
しかし、それはジャズ愛好家であったり、専門家的な視点に立ってのものではないか。
まだ戦後15年しか経っていない時代のレコードなのだ。
15年前まではジャズは敵性音楽として演奏も聴くことも禁じられていたはずなのだ。
私がその時代を知っているわけではないが、恐らく警察とか憲兵につかまっただろう。
そういう映画やドラマがあったし、篤姫人気の宮崎あおいさんが主演した連続テレビ
小説「純情きらり」も現在再放送中で、その中でもジャズは禁忌されております。
私の世代にしてみても江利チエミさんや雪村いずみさんらが歌う舶来音楽は、それが
少々野暮ったくても新鮮に響いたように記憶しています。
ですから、シックス・ジョーズのジャズ演奏も敢えてモダンになりすぎないようにと
抑えていると思うし、ザ・ピーナッツの歌唱はまるっきりジャズの風味を取り去って
わらべ歌そのものの味しか出していません。難しいことはしないのです。
出来ないのではなく、しない。昭和35年という時代背景を抜きにして聴くとこれは
ザ・ピーナッツのレコードでわざわざ聴く程の録音ではないと感じてしまうでしょう。
なかなかCD化されなかったのも、そこに原因があったように感じます。
そういう意味では、何時聴いても斬新で古くならないザ・ピーナッツの歌がある一方、
このように古めかしいなと思える録音もあることも事実なんだと思います。
ですから、これを是非聴いてみて、と言うほどの出来ではないから強くお薦めすると
いうわけでもありませんが、なんだか、この素朴さがいいなあ、という面もあります。
どことなく小津安二郎監督のモノクロ映画のようで、古臭いホームドラマ的な作風に
似たアットホーム指向のLPアルバムとなっています。
だから嫌だという人は聴かなければいいし、そこが良いという人に愛されればいい。
それと、何故、こまどり姉妹という日本調歌手が居るのに、わらべ歌や民謡の類いを
ザ・ピーナッツが録音したのだろうと不思議に感じられる人もいるであろう。
過去はどうしても時間の経過観察が疎かになり一、二年は混同されやすいのであるが、
ザ・ピーナッツとこまどり姉妹は同時期に評判になっていたわけではないのです。
後で、こまどり姉妹という名前に変わる並木姉妹はザ・ピーナッツ・デビュー半年後、
コロンビアから産声をあげたのですが、人気が出たのは昭和35年の春頃からでした。
したがって、この「通りゃんせ」の入った「ピーナッツ 民謡お国めぐり」発売の
時点では、まだ世間的には、こまどり姉妹は殆ど認知されていません。
「こまどり姉妹」という名に改名したのは、昭和36年4月なので、ザ・ピーナッツに
遅れること丸二年、NHK紅白出場も二年遅れなのです。
ですから、NHKの全国ネットワーク放送や地方のステージではポピュラー・ソング
ばかり歌っているわけにはいかなくて、民謡なども外せないレパートリーなのでした。
そのような背景からも、思い切ったモダンな装いをこの歌に施す時期ではなかったと
私は思うのです。跳び過ぎないことを意識したのではという感じを抱くのです。
最後に、今回はちょっとした「付録」を付けておきます。
ダーク・ダックス、ボニー・ジャックスの歌と一緒に、ザ・ピーナッツの歌う童謡が
収められたフォノ・シート付きの本が支援者の方から送られてきました。
この「通りゃんせ」も、この中に収載されています。
ここにあっても居心地の良い。この感覚が何より、この録音の持ち味を象徴している
ように感じられてなりません。
(2008.10.15記)
2009年1月21日 遂にCD化が実現しました。バンザ〜イ。