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♪東京の女(ひと)  1970.07
   作詞:山上路夫 作曲:沢田研二 編曲:宮川 泰
   演奏:オールスターズ・レオン
   録音:1970.04.17 キングレコード音羽スタジオ

  

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★ ★★★ ★★★ ★★★★*

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女(ひと)シリーズの第1作という位置付けになった曲です。
このシリーズは、以後、大阪の女、サンフランシスコの女、リオの女と続き、
LPアルバムには「古都の女」という曲もあります。
また、これとは別の意図で、沢田研二作曲シリーズという流れもありました。
それの衝突点でもあって、沢田研二作曲としては第3作目に当ります。
私の個人的嗜好としては、この、どのシリーズも好ましいものではありませんが、
そういう面はさておいて、クールに音楽作品としての特徴を考えてみたいと思う。

この曲の特徴として先ず思い浮かぶのは、非常に短い曲であるということです。
ご覧のように、たった12小節しかありません。珍しいと称していいと思います。
これだけ短いと、俳句や短歌の世界みたいなものですから、詩も曲も白眉の出来で
なければ名曲となりえません。そこが辛いところです。

それと、この曲はどのような意図、目的でリリースされたのかが釈然としません。
一般的には、
1.大衆に好まれて、みんなで歌って、流行ってほしい。
2.皆が歌うのではなく、ザ・ピーナッツの歌唱に聞き惚れてほしい。
まあ、このどちらかに属すべきかと思うのですが、残念ながら、どちらの方向にも
相応しくありません。

大衆に好まれるというのは、皆が歌って、いいなあ、という面が必要です。
これを何処の誰が、どういう層の人が、どういう場面で歌うのでしょう。
宴席で歌うような曲ではないし、カラオケで歌ってもパっとしないし、お掃除しな
がら主婦が口ずさむ感じでもないし……歌って気持良くなるもんじゃないし……。
これでは、八方塞がりという感じではなかろうか?

ならば、ザ・ピーナッツの歌唱で、この歌が聞き惚れられる要素があるのだろうか?
実に簡単なメロディーだし、音域も狭いし、ハーモニーの聞かせ処もないし、起伏も
ないので感情の乗せようもないし、テレビでもステージでも一向に映えない歌です。
一風変わった味があるのですが、それを活かす手段がないように思うのです。
この淡白さは面白い持ち味なのですが、メインディッシュになりえないような前菜や
洒落たデザートのイメージがあるのです。
そうなんです。お洒落な曲なんですよ。
このお洒落感覚を活かすべく宮川先生は色々と編曲で工夫をしているなと感じます。

印象的なギターのメロディーでイントロが始まります。これは普通に4小節流れます。
次いでトランペットで続きが奏でられますが、5小節という不思議な半端さに注目。
普通は4の倍数にするのではと思うのですが、この「5」が全体に異様な感覚を与え、
楽曲が不安というか虚ろというか奇妙な印象を残すのではないかと感じます。
1コーラス目と2コーラス目は続けて歌われますが、2回目は「パパヤパー」という
多重録音でのスキャットが入ります。
なかなか効果的で、あれっという意外性をここに与え単調な繰り返しを避けています。

2コーラス目と3コーラス目の間はイントロのショートバージョンが使われます。
とにかく単調に流れるのを嫌い、楽曲に変化をつけようという意図が感じられます。
3番と4番の歌詞は、1。2番と同じパターンで歌われます。
ここでマンネリ気味のように感じられることを察知したかのように曲の先頭に戻り、
今度はフルバージョンのイントロが流れますが、そこでいきなり「パパヤパー」です。
総集編のように聞かせたら、後はエンディングで今迄にないメロディーが流れ出し、
新たなスキャットで大きく変化をつけて印象的に曲を終らせます。

しかしながら満たされない感覚が残る歌です。物足りないような、これでお終いなの、
という心にポッカリ穴が開いてしまうような感覚が付きまといます。
これが、この儚さがこの歌の持ち味なのかも知れません。
歌謡曲でも演歌でもなくポップスでもない。摩訶不思議な世界です。
年寄り向けでもなく若い人向きでもない。支援者を獲得し難い歌です。特異ですね。
やはり作曲者が特殊で異才なのです。魂の居場所が普通の人とは違うように思います。

昭和44年9月から昭和46年4月までのシングルリリースは、
 野いちご摘んで/ついて行きたい〜男と女の世界/しあわせの誓い〜東京の女
 /愛が終わったとき〜なんの気なしに/北国の恋
といった特異の世界が続き過ぎて、少々うんざりしました。
よくこれら楽曲でキングレコードは商売になるもんだなという驚きさえありました。
なんというのかな、体裁はいいんだけど中身がないような……。
こちらの心の琴線に触れてこないようなもどかしさを感じました。

だけど、古臭い感性での私個人の感想ですから、作品の絶対的な良し悪しとは別です。
音源が継続して市場に出続けることで、新しい時代には見直されることもあります。
特にメロディーラインの人真似ではないユニークさは特筆もの。
どこかで聴いた事があるような……という感じが全くしない。これは大変なことかも。
そういう意味で過去を懐かしむより、未来に賭けたい曲なのかも知れません。
(2008.11.01記)