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♪夕焼けのトランペット    1962.4
 BALLATA DELLA TROMBA
   訳詞:音羽たかし 作詞:Francesco Pissano,Nico Rosso
   作曲:Francesco Pissano 編曲:宮川 泰
   演奏:宮川泰アンサンブル
   録音:1962.03.16 文京公会堂
    

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★ ★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

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日本でも大変な人気となったトランペット奏者であるニニ・ロッソさんの
レコード・デビュー曲です。
同じように日本で大受けしたベンチャーズに倣って一人ベンチャーズなどと
称されたりします。
もちろん本国で評判にならなかったわけではないのですが、日本では絶大な
人気となって、両者共に毎年のように来日し、公演を各地で行いました。
ポールモーリアなどもそうでしたが、歌手ではない演奏者/作曲者がこれ程
凄い人気となったのは日本人がいかに音楽そのものが好きなのか分かります。
そして皆さん、日本をこよなく愛し、日本人聴衆が大好きだったようです。

私もニニ・ロッソさんのコンサートを聞きに行きました。
会場のPAの音質が今ひとつだったのですが、楽しさは十分でした。
ニニ・ロッソさんはルイ・アームストリング(サッチモ)さんのファンだと
いうだけに(彼のようなダミ声じゃないけど)歌もお得意のようでした。
サンタクロースの衣装を着て、客席に降りて来て演奏したりするのでしたが、
その生の音の素晴らしく美しいことに仰天しました。こりゃ本物だわ!
そうなんですよ! トランペットにマイクなんか私は要らないと思うんです。
電気で増幅してスピーカーで流すなら、我が家の装置の方が遥かに上質です。
音は大きくはなるんですが、コンサートの装置なんか音質はダメですよ。

TROMBAだとトロンボーンみたいですが、イタリア語でトランペットのこと。
BALLATA DELLA TROMBAというのは直訳すると「トランペットのバラード」で
夕焼けという言葉は含んでいませんが、夕暮れ/日暮れ時というのは人間は
淋しく多感になる時刻なので、このタイトルはいいんじゃないでしょうか。
夕焼けを背景にすると皆が詩人になりそうでトランペットの詩人と称された
彼の演奏はただのラッパなのに、哀愁を含んだ切ない思いを奏でています。
イタリアは音楽の国、歌の国です。楽器演奏にも歌心が滲み出ています。

そこなんですよ大事なのは!
実は難しいことは何もやってないんです。トランペットを吹ける人ならば
誰でもこの曲の演奏は出来るんです。
私も下手の横好きでトランペット演りますが、簡単に演奏は出来るんです。
でもね〜。出て来る音が違うんです。そりゃもうとんでもなく違うんです。
トランペットという楽器には音を出す仕組みというものが何もありません。
奏者の唇が発音体なのです。これが曲者で一人として同じ音は出ません。
カラオケで同じように歌ったって歌手のようには歌えないとの同じです。

さて、ザ・ピーナッツの録音では宮川さんが選び抜いたトランペッターが
このニニ・ロッソのトランペットに対抗します。
これもまた滅茶苦茶上手い。誠実で律儀な楷書風な演奏で立派なものです。
う〜ん、ラッパが歌ってるのはニニ・ロッソなのかなあ。
でも、日本人代表みたいな生真面目な演奏には私は好感が持てます。
これは日本のオーディオ装置みたいです。特性的には優等生タイプです。
イタリアのスピーカーにはちょっと真似出来ない音楽性があって耳と心で
手作りしちゃってるので適わないんですが、信じられないほど高価です。

ニニ・ロッソ盤とザ・ピーナッツ盤の夕焼けのトランペットにはとっても
重要な違いがあります。
下の方に歌詞/楽譜を付けたので眺めて欲しいんですが、

 愛のかたみのトランペット今宵抱きしめながら

この抱きしめなが〜ら ですが、が〜がフェルマータで、ら、で終ります。
ところが、ニニ・ロッソさんは、フェルマータ部分で終るんです。
音楽用語で「解決音」とか「終止音」とかいうらしいんですが、その音が
鳴ることでメロディーの終りだという感じを持つことができる音が無い。
これはわざと思いを残すというか、言わなくてもわかるでしょという感じ。
シューベルトの未完成交響曲の後年の名解釈(こじつけだけど)では……
「わが恋の終らざるがごとく、この曲も終らざるべし」なんて想像と同じ
効果を狙ってるのではないかと思います。

「残心」という言葉が日本にありますが、宮川さんはお仕舞いまで素直に
心置きない仕種をすることこそが心に残るのではないかと考えたのかも。
だからあえてオリジナルにはない有るべき姿で表現したのではないかしら。
私達が聴いている音楽のほとんどは調性音楽であり、作法に従っています。
どちらが好ましいのかは各自の好みによると思いますが身贔屓ということ
抜きにしてもザ・ピーナッツ盤の演奏の方が素直で好ましく感じます。

ニニ・ロッソさんは早世されたのでどういうご病気だったのか調べてたら、
そういう情報ではなく、使っていた楽器のことが書いてありました。
来日してからはなんとヤマハのYTR−634をご愛用されていたとか。
あらまあ、私の愛器はYTR−632です。お値段は一緒なんだよこれ。
YTR-634は管径がやや太く落ち着いた音色でコンサート用だったと思います。
私のYTR-632は管径が細く派手な音色でジャズ系とか目立ちたがり屋向き。
しかしながら同じグレードの楽器だったのに今更ながら情けない大違い。
あのニニ・ロッソがヤマハを吹いていたのって信じられない。驚いたなあ。
やっぱり個人の腕前だね。それっきゃない。楽器じゃないな。

そういえば、園まりさんの「一人で踊るブルース」のトランペット凄い!
「逢いたくて逢いたくて」と同じ人が吹いてるようなんだけど誰なんだろ。
ザ・ピーナッツの録音でもトランペットは良く出て来るけど派手さはない。
「愛のフィナーレ」は凄い高い音から始まるので、あれも凄いなあ。
トランペットで歌謡曲なんか演奏してるのを一時集めたけどクセがあって
あまり好ましいのに当らなかった。もっと素直にやって欲しいんだけどね。
やっぱりソロで聴かせようと意気込むとかえって良くないのかもしれない。

そういう点でこの歌のトランペットは好きだ。とても素直で素敵です。

(2015.08.18記)