ザ・ピーナッツ sings“Arranger”宮川泰 (2008.3.26発売)

宮川泰作曲作品集の姉妹アルバムとして、ザ・ピーナッツ向け編曲集アルバムが出た。
前作「ザ・ピーナッツ sings 宮川泰」は、完全収録を謳っていて、その看板に偽りはない。
このアルバムでは「大集成」と称している。勿論、完全収録ではない。氷山の一角である。
年代を追ってサンプリングしているので、宮川さんの編曲技の進化記録として聴くことをお薦めしたい。

CD1
01.可愛い花(モノラル録音)
   ザ・ピーナッツのデビュー曲。再編曲版も後年出るが、この録音の初々しさは貴重。
02.南京豆売り(モノラル録音)
   ラテン・ビッグバンドの編曲に実績のある内藤法美さんとの共同アレンジ。
   内藤法美さんはご存知のように越路吹雪さんの伴侶。

03.情熱の花(モノラル録音)
   後年の再編曲版では宮川お茶目味が濃いが、ここでは大人しくコピー再現風味。
04.月影のナポリ(初のステレオ録音)
   後年、オリジナル曲で名コンビとなった岩谷時子が変名で作詞されている。
   森山加代子との競作になり、そっちが売れたが、アレンジ、録音ではこちらが圧倒的。

05.パパはママにイカレてる
   惚れてるとか好きという意味を当時はイカレてるという蓮っ葉な言い方もした。
   名門バンドだったシックス・ジョーズの演奏技の見事さを後世に伝える名録音。
   楽しさ、面白さで他を凌駕する宮川アレンジがここで爆発的に開花した。

06.月影のキューバ
   森山加代子との競作のように言われるが、こちらはアルバム収録でEP盤は無い。
   素晴らしいステレオ録音は空気感まで今に伝えている。リズムも凝っている。

07.ルナ・ナポリターナ
   ザ・ピーナッツのひとつの分野の頂点にある。魅力満載の感動を与えてくれる。
   EP盤裏面の「バイアの小道」も鮮烈な魅力があり、収載されないのが悔やまれる。

08.カカオの瞳
   このアレンジにはお手本盤があるが、宮川さんはデッドコピーはしていない。
   この楽しさ、痛快さは絶品である。怪しげなドイツ語も可愛らしさの力技で赦される。

09.スク・スク
   スマイリー小原さんがセリフの掛け合いに登場するのがユニークで貴重。
   もはやここにはカバーという概念を超えた創作的脚色がてんこもりで別世界なのだ。
   歌詞を変えた再録音もあるが、ここに収載された版の方が秀逸。

10.コーヒー・ルンバ
   西田佐知子さんとの競作。西田バージョンの圧倒的勝利に終っている。
   西田版はアレンジが原曲に近く、歌詞はとんでもなく跳んでいるのが傑作たる由縁。
   ザ・ピーナッツ版は埋もれた形だが、これを単独で聴くと、これまた素晴らしい。
   こうなると別の曲という具合に捉えて、是非、こちらも傾聴してほしいものだ。

11.イエロー・バード
   ザ・ピーナッツのレコードの伴奏といえばゴージャスな大編成という場合が多いが、
   この歌では意識的にシックス・ジョーズだけの小編成で演奏している。
   曲の持つ可憐なイメージに相応しいものとしたのであろう。個人技が光る録音になりました。

12.ポケット・トランジスタ
   森山加代子さんと飯田久彦さんが熱烈に競作。ザ・ピーナッツは圏外でLP収録のみ。
   オリジナルとは全く異なるアレンジで自分をラジオに喩える面白味を醸し出す。
   50年近い歳月のフィルターを通すと当時の受けとは別にザ・ピーナッツのカバー版は、
   やっぱり第一人者であったことを証明している感がある。とぼけた楽しさ爆発だ。

13.夕焼けのトランペット
   こんな演奏曲をカバーしてどうなるの?。その疑問は聴けば氷解します。
   それに凄い腕前のトランペットが聴けます。うへ〜誰が吹いていたのでしょうね。

14.モスコーの夜は更けて
   これも演奏曲ですが、歌声喫茶などでも歌詞付きで愛唱されましたね。
   このアルバムの中では私は低調曲だと感じます。もっといいのがいっぱいあるのに。

15.ジョニー・ジンゴ【未発表曲】
   キングレコードの倉庫に埋もれていたらしく、今回、始めてリリースされた楽曲。
   デキシー風のアレンジで演奏技術も抜群。「二人はしあわせ」の姉妹曲のような感じ。
   テンポも早いせいか、あっという間に終ってしまう。
   だが、最近の流行り歌のようなダラダラ長いだけというより、潔くて好ましい。

16.ブルー・カナリア
   スタンダードだよ、ピーナッツというLPに入っている曲。雪村いずみの歌唱でも有名。
   この歌でもイエロー・バード同様に小編成で演奏している。小鳥は可憐なイメージだからだろう。
   誂えた曲であったかのように、とってもザ・ピーナッツに似合っている。

17.ドナ・ドナ
   驚いたのは、後年に教科書に載っていたということ。名曲だからでしょう。
   教科書では安井かずみさんの歌詞は一部、売られて行く子牛の凄惨さを和らげているらしい。
   宮川さんのストリングス・アレンジが悲哀を表現してて見事です。

18.砂に消えた涙
   言わずと知れた弘田三枝子さんのカバーが有名。ザ・ピーナッツ版は高水準にあるということだけ。
   宮川さんの編曲の冴えを聴かせるベスト盤でもなく、ザ・ピーナッツの技を聴かせるベストでもない。
   一般的な懐メロ・ポップスのファンを取り込むという選曲意図が大きいのが少し残念な面がある。

19.花のささやき
   キングレコードもザ・ピーナッツも、この頃、ヨーロッパのヒット曲を盛んに取り上げた。
   ザ・ピーナッツと宮川泰の超一流の技で料理しているが、手慣れている感じで存在感がない。

20.太陽のかけら
   名人アレンジャーと名歌手での職人芸が聴けるが、一丁上がりという、安易さも感じてしまう。
   もっともっと素晴らしいカバー曲があるのに、どうしてこれなんだろうと思ってしまう。

CD2.
01.テネシー・ワルツ
   スタンダード中のスタンダード。日本ではキングの先輩、江利チエミさんの歌唱で有名。
   妥当な選曲なのだろうが、ザ・ピーナッツの歌として聴きたい意義はどうなのだろう?。

02.ヴェニスの夏の日
   予想外の選曲だ。これは選ばれないだろうと思っていた。個人的にとても好きな曲だ。
   好きな曲は選に洩れるという私の常識を覆した快挙だ。弦楽器群の美しい対位法旋律に拍手を。

03.ドミニク
   絶対に外せない、ザ・ピーナッツのカバー曲の定番。これを入れないと暴動が起きた(嘘)、
   ♪ドミニカそれは盲の少女、黒い瞳は閉ざされていた。の箇所を編集しているのが残念。

04.ダンケ・シェーン
   ザ・ピーナッツのPTAとして欧州へ行ってアレンジを再勉強した成果ここにあり。
   仲間内でも評判であったことだろう。出来栄え最高。編曲家冥利に尽きるのではないか。

05.マイ・ファニー・バレンタイン
   ザ・ピーナッツならでは、宮川泰ならでは、そういう高みに達している。
   マルチ・トラック・レコーディングのツールを音楽的手段として活用した技が光る。

06.いそしぎ
   世界中のアーティストがカバーする曲であろう。芸の力を見透かされる恐い曲だが、
   ザ・ピーナッツの歌唱と宮川アレンジの見事な足跡を味わえる名録音。

07. ムーン・リバー
   名曲には違いないが、この曲の旋律は起伏に乏しく単調になりがちである。
   そこを宮川アレンジでは色々なサービス精神を発揮して多彩に彩っている。
   ザ・ピーナッツも日舞の引き抜きにも似た変わり身を見せる。飽きさせない工夫。そこが聴き処だろう。

08. イエスタデイ【初CD化】
   これぞ文句無しのピーナッツ節であり宮川節。聴かなきゃ損、損。
   初CD化なのだが、まだ同じLPに「セプテンバー・ソング」と「アンド・アイ・ラブ・ヒム」という
   未CD化録音が残っている。この機会に何故、一挙にCD化しないのだろう。理解に苦しむ。
   取りこぼしのミスとしか思えない。キングレコード内に社会保険庁があるみたいだな。

09. 男と女
   初CD化かと錯覚したが、すでにシャンソンのコンピレーション・アルバムに収載されていたらしい。
   知らなかった。そういう人が圧倒的多数だろう。ふつうにリリースしてほしいものだ。

10. 枯葉
   これも世界中のアーティストが色々なジャンルに加工して歌っている名曲中の名曲。
   だからこそ、物真似ではないオリジナリティ溢れる名アレンジと名唱に喝采を贈りたい。
   熱唱になりがちなザ・ピーナッツが心して抑制と余裕を持って挑んでいる進化にも傾聴すべし。

11. ダンス天国<メドレー>
   まず、この2枚組CDの中の白眉であろう。ピーナッツと宮川さんでなきゃ出来ない芸当。
   この趣向に、ここまで乗れて楽しさを醸し出せる歌手はザ・ピーナッツしか居ない。
   この発想に燃え、凝れる編曲家は宮川さんしか居ない。だから奇跡の遭遇なんである。
   フル・オーケストラという枠さえ超えた豪華極まりない演奏陣。バックコーラスも準主役だ。
   マルチトラックを同時録音として使ったかも知れないが、今の時代では出来る人が居ないだろ。
   もうこれからの時代は、こんな贅沢は出来っこない。やらない。あらゆる点で歴史的な録音。

12. 恋よさようなら
   世界最新の楽曲で果敢に新たな試みに挑戦し続けたザ・ピーナッツ。
   そんなことさえ知らなかった人にも聴いて頂いて認識を改めてほしい録音である。
   そして本当に凄いところは、難しそうにはやらないことだ。愉しめなきゃ音楽じゃない。

13. 祈り組曲
   ダンス天国<メドレー>ですっかり楽しさを満喫し、味をしめたのだろう。楽しさ再現だ。
   こんな楽しい仕事ならギャラ抜きでも参画したい。そんなミュージシャンも居ただろう。
   そして、恐らく、この録音を聴いて、今でも懐かしく思い出すのではなかろうか。
   録音現場がシャボン玉ホリデーのスタジオの雰囲気になってしまったのではないかな。

14.愛のレッスン
   著名な歌手のアルバムには世間常識では入り込まないであろうアレンジ。
   ザ・ピーナッツが楽器の一部として参加しています。ピーナッツでなきゃやらないね。
   バックコーラス隊に化したザ・ピーナッツ。絶品ですぞ。

15.ある愛の詩
   皇帝ヨーゼフ2世「なかなかいいんだけど、これ、音符の数が多すぎないかな」。
   モーツアルト「いいえ、閣下。音符は丁度良い数だけ使っておりますよ」。
   録音技師「宮川センセイ。これ、楽器の数が多過ぎませんか。収録難しいんですよ」
   宮川「ううん。ちょっと欲張り過ぎちゃったかもしれないね」……そういう曲です。

16.シェルブールの雨傘
   ザ・ピーナッツはこの曲を一度カバーしていましたが、小技での再度の挑戦です。
   カバー前作の方がセレクトして収録するのには向いているのかも知れません。
   アルバムというのは全体を通して聴くことで味わいが生まれます。バラ売りではどうもね。

17.あの愛をふたたび
   もちろん良いことは良いんですよ。でも長年の習慣というか耳慣れというか、曲の流れが
   頭にアルバムとして定着化して不揮発性メモリになってるんで、違和感があるのです。

18.マンチェスターとリバプール
   いやはやもう、カバー云々じゃなくて、音楽の出来栄えとして抜群ですね。
   技術面を気にする必要がないくらいの力量となっているザ・ピーナッツには安心感がある。
   この気持良さというのは、ちっとやそっとじゃ得られない。

19.夢のカリフォルニア
   こんなに上手い歌手。こんなに完璧なコーラスが何故、歌をやめてしまったのだろう。
   人気歌手なりタレント活動は廃業してしまっても、ミュージシャンとして残って欲しかった。
   可憐なお姿も、素敵な衣装も、素晴らしいダンスも今は見れなくても、CDの歌声を聴く、
   それだけでも、こんなに凄くいいんだから、余人には代え難いとはこのことです。
20.帰り来ぬ青春<ラスト・ライブより>
   (個人的な意見だけど)この選曲はいけません。画竜点睛を欠くとはこのことだ。
   最後がこれでは良い企画がぶち壊し。さよならライブから入れるならポップスメドレーだろう。
   これでいい、これがいい、という意見もあるだろうが、私は好かん。悪趣味だと思う。
   ザ・ピーナッツは明るい夢を見せる歌手だった。私は泣き声なんか聞きたくない。
   どうしても、この歌唱が聞きたい人は別のボックスアルバムがある。それで充分のはずだ。
   ここに持って来るセンスが嫌いだ。話題性狙いの商売人の嫌らしさが出てしまったようだ。
   「優秀な愛弟子だったザ・ピーナッツに対する宮川の想いが込められたドラマチックなアレンジは、
   万感胸に迫るものがある」なんてライナーに書いてあるが、
アレンジが万感胸に迫るわけじゃない。
   状況がそうさせているのだ。あの場所に居合わせた人の胸の中にそっと仕舞われるべき歌だ。
   ちょこちょこ頻繁にCDアルバムに収載するべきではない。違うか? 私が変か? 

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