週刊朝日(昭和44年1月17日号)連載シリーズ記事「周作怠談」11回

転換期に立つ二人の”私”

            ゲスト 歌手:ザ・ピーナッツ


周作 おやア、意外と顔は少しちがうんですね。
エミ ちがうわね。
ユミ だんだん変った。
エミ 二十二、三までかな、商売上のこともあって似させようとしたし……。
ユミ 似てたわ。フックラしてたから。
周作 体質的にも似ていて、ほとんど同時にカゼをひくとか、オデキができるとか
   いうけど。
ユミ 追っかけるのね。
エミ そう。追っかけるの。
周作 お手洗いなんかも、同時に行くっていうけど、ほんと?
ユミ ほんとです。
エミ 一人がいくと、やっぱりいっちゃう。
周作 じゃ、トイレの前で、「あたしがさき」なんて争って入っちゃって、残った
   ほうは足踏みする、なんてことある?
ユミ そうなんです。よくあります。
エミ 「早くウ」なんて。ほんと、トイレの時間は同じですよ。

両方とも深情けなの

周作 双生児をもったおかあさんは、夜中に一人がお手洗いにいきたいっていうから
   連れていくと、すぐにまた、お手洗いって起こされるんで大変だっていうけど。
エミ ええ。なんでも二度手間で困ったって。
ユミ 赤ちゃんのとき、おむつを変えてると、隣がもうやっちゃってるんですって。
   
(両嬢よく笑う)
周作 双生児のためにトクしたことありますか。試験のときに代ってもらうとか、定
   期券を一枚で済ますとか。
エミ そんなこと、できなかった。
ユミ ちいさいときから、自分たちが似ているっていう意識はなかったんです。みな
   さんからそっくりだっていわれたけど、自分たちお互いに似てるって思わなか
   った。
エミ 身代わりなんかしたら、絶対にバレるって思っていたんです。
周作 もし一人が外国へいって、一人が日本に残ったりしたら、さびしくなってしょ
   うがないかな。
エミ でしょうね。
ユミ 今まで離れたことないから。
エミ でも、いつかは……。
ユミ 離れる時がくるから。
周作 お嫁にいけば、ね。
ユミ ええ。結婚すれば離れちゃうし、離れちゃえば……。
エミ 仕事は今までのようにいかない。そのことはすごく割切っています。
周作 お嫁にいって別の人生を歩もうと思っているわけ?
エミ ええ。でもね、できれば結婚しても歌がうたえるようになりたい。
ユミ 十年ていうもの、この仕事に打込んできたから、結婚によって……。
エミ それが捨てられるかどうか。自信がないわけですよ。一時的には家庭におさま
   れるだろうけど、捨てきれないで……。
ユミ うたいたくなる。
エミ それよりも家庭に入っても、こういう仕事ができるような旦那さまを。
ユミ いつ、みつかるかわからないけれども。
エミ あせることないと思う。
ユミ 二年ほど前は、絶対結婚して歌なんかやめちゃうんだって考えたけど。
周作 だけど、こういつも二人が連れだっていれば、ボーイフレンドだって、つきあ
   いにくいでしょう。。自分の恋人がどっちだってわからなくなって、まちがえ
   て手を握ったら、ひっぱたかれたりしたら困るでしょう。
ユミ そういうことあったわね。みんなとクラブへいったら、隣の人の様子がおかし
   いの。
エミ あたしとまちがえてね。
ユミ でも、ちがうわよって言ったら、相手を傷つけるから。
周作 その男、トクをしたな。ヒョッとすると、知っててわざと両方の手を握ったん
   じゃないか。
ユミ そうじゃない。
エミ いまだにまちがえたこと、知らないんじゃないかしらん。
周作 ボーイフレンドの趣味なんかも一致してますか。
ユミ 外観的なことは似てるけど。
エミ こっちは両方とも……。
ユミ 深情けのほうね。
エミ だけど、性格はちがうわね。
ユミ ずいぶんちがう。
周作 理想としては、同じ日、同じ時間に結婚式を挙げたい?
エミ 理想は、そうですね。
周作 出来たら相手も双生児同士で?
エミ いやいやいや、絶対いやです。
ユミ 別々の人でなきゃ。
周作 なるほど、同じであることに飽きてきたわけだな。お互いがお互いに。
ユミ 自分自身を試してみたい。
エミ 別々の人とね。別々の生活をしたいんです。

よく飽きないねえ……

周作 毎日、鏡で身分を見てるみたいにいやになりませんか。欠点だって似てるんだ
   から、自分がいやだと思ってる欠点を相手の中に見せつけられると、不愉快に
   なりませんか。
エミ わたしたちは逆ね。欠点はなんとかカバーしてやろう、助けてやろうって思う
   んです。
ユミ 鏡みたいに相手の欠点を見ると、あたしにもああいうところがある、なんとか
   直そう……。
エミ 助言するのね。それとね、お互いに考えていることがよくわかるんです。
ユミ わかるから、言っていいときは言うし、黙ってたほうがいいときは……。
エミ 黙っててもお互いにわかっちゃうんです。
周作 じゃ、二人は仲がいいの?
エミ 姉が二人いますけど、わたしたちがいちばん仲がいいんです。
周作 しかし、二人はお互いにどんな気持を持っているんです?
エミ 分身感ですね。
周作 二人の”わたし”ですか。
エミ そうでもない。
ユミ ”わたし”までいきませんね。
周作 ”わた”ぐらいかな。嫉妬しあうことはない?
ユミ たまにはある。
周作 おねえさんに恋人ができたのに、あたしにはできない。同じ条件だのにって嫉
   妬するだろうなア。
エミ そういう嫉妬って、しない。月ちゃんにそういう人ができたら、ああ、あたし
   もって思うだけ。
ユミ 励みになる。あたしはもっといい人をみつけるからって。
周作 今まで離れて暮らしたことある?
ユミ 大きくなってからはないです。
周作 よく飽きないねえ。
エミ ほんと、飽きない。
ユミ 飽きないねえ。(顔見合わせて笑う)。
周作 独立して一人で歌をやりたいと思ったこと、ないですか。
エミ ないです。二人あってのザ・ピーナッツなんです。一人の歌手というのは、立
   派な人がたくさんいるけど、二人でうたって呼吸が合ってというのが貴重だと
   思うんです。だからバラバラになることは考えられない。
ユミ バラバラになったら意味がない。
周作 お互いに相手のほうがうまいとか感じることある? 同じくらいだと思う?
エミ 得手不得手があるわね。月ちゃんは高い声が出るし、あたしは低いんです。
   それは羨ましいと思う。もし高い声があたしに出たら、この歌がうまくうたえ
   るのに、と思って。
ユミ その逆も言えるわけよ。それは嫉妬というか……。
エミ 歌に関しては感じるねえ。(ユミさん、うなずく) 

三年周期のピンチ

周作 じゃ、二人でうたってるときに、一人がうまくうたえなかったりすると、あん
   たのせいでって怒る?
エミ けんかにはしないです、絶対。
ユミ 口に出したらダメだと思う。
エミ だれもステージに出て恥をかこうと思うわけじゃないから。
ユミ 一生懸命やっててミスをしたときに言ったってしようがない。本人は気付いて
   いることだしね。
エミ 悪いと思ってるのにガーンて言われたら腹が立つでしょ。絶対言わない。
周作 なるほど暗黙のうちに二人のつきあい方のルールがあって、それだから満十年
   もつづいてるんだなア。息が長いねえ。浮沈の激しい歌の世界で。初めは双生
   児ということで人気が出たんだろうけど、ザ・ピーナッツという名前もよかっ
   たんだな。インゲン豆でもいいのに。
エミ ピーナッツは一つの殻に二つ入ってるから。初めは、はずかしかった。
ユミ どんな名前がつくかと思ってたらピーナッツなんていうんで、ガッカリしちゃっ
   た。

周作 十年の間には、飽きられそうになる時期もあったろう。どうやって乗り越えて
   きたの?
ユミ あたくしたち、マンネリということで壁に突き当って、もうやめなきゃならな
   いとか……。
エミ すごい壁だったけど、あのときは外国へいくことで救われたのね。気分を変え
   てやる気が出て……。
ユミ 仕事がふえてね。あたくしたち、すごく恵まれてる。
周作 そういうピンチが今まで何回あった?
エミ 三回。
ユミ 三年周期で来ますね。
周作 人間の運勢というのは、三年もしくは四年のリズムでやってくるんだ。その第
   一回のピンチがマンネリということ?
エミ デビューして、「可愛い花」とか「情熱の花」とか、全部ヒットしちゃって、
   それで三年くらい……。
ユミ 可愛いふたごということでね。それが三年たったら、だんだん飽きて……。
エミ そのときは「シャボン玉ホリデー」という番組を完全にもって、踊りをやり出
   して、そんで切り抜けようとしてね。それがどうしようもなくなってきたとき
   に、一ヶ月のドイツ行きがきまって、それが成功したから。
ユミ あれでやる気が出たんです。それまでは”可愛さ”ということに抵抗をすごく
   感じてたんです。年はどんどん過ぎていくのに、ただ”可愛さ”だけなんて…
   …。どうしたら色気が出るか、なんて悩んだんです。それがドイツへいったら、
   ”可愛さ”がいかに大切か、ということを教えられたんです。
エミ 可愛いことも貴重だし、それがオトナのものもできるから貴重な存在になるっ
   ていうんです。
ユミ オトナのものをやらされたわね。
エミ ドイツ人のディレクターが、きみたちは可愛い、でも話をしていると、きみた
   ちはずいぶんオトナだ、オトナのものもできるはずだって。

周作 ぼくが見ても年より若く見えるんだから、外国へいくと十四、五の少女に見ら
   れるだろう。
エミ ええ。それが一ヶ月、リハーサルをやらされて、これがあたしたちかしらって
   感激するくらいになって、それで帰ってきて、やる気が出たんです。

周作 それで第一のピンチを乗り越えたわけ?
エミ 一回目のマンネリは踊りで乗り越えて、二回目が外国行き。三回目が今です。
周作 演歌とエレキ攻勢でしょぼんできたわけだな。
エミ ええ。どうしていいか、わからないみたい。
ユミ やる気がなくなる。
周作 きみたちはあの真似はしない?
エミ そうでもない。やります。流れに逆らっちゃいけないから。ショーの中で必要
   ならうたうけれども。
ユミ それをレコーディングして売ろうとはしない。
エミ レパートリーには入れません。
周作 それでグループ・サウンズに対する作戦は、積極的には何を考えとる?
エミ オリジナルしかないです。たしかに歌謡曲がヘタなんですよ。
ユミ うたえないんです。うたってもソッケないし、味がない。歌謡曲って、色気が
   なくちゃ……。
エミ 色気とか生活がにじみ出なきゃいけない。あたしたちは十年間、そういう歌を
   うたってないから自信はないし、かといって、ほんとのポピュラーの線へいっ
   ちゃうと、やはりダメだから、歌謡曲とポピュラーの間の線で新しいリズムを
   つかむことを、いま検討中なんです。
ユミ グループ・サウンズも、もうそろそろ飽きがくるかも知れないけど。
エミ でも、消えることはない。
ユミ あたしも消えないと思います。
周作 消えん? あのやかましいのが? バケツをかきまわすような、アタマへくる
   音楽が?
エミ いいのだけ残ると思います。
周作 一時全盛だったロカビリーが、今いずこにいったかわからんからな、あれと同
   じようにならんかな。
エミ グループ・サウンズはロカビリーとずいぶんちがって、自分たちのメロディー
   をひっさげて出てきてますから、消えることはないと思います。

悩みは二人で背負う

周作 ところで、きみたちが十年間キャリアを保っとる間に、一緒にうたった人で消
   えていった人が、たくさんおるでしょう。自分たちもそうなるのか、という不
   安がありますか?
エミ ないです。
ユミ ありません。
エミ その人は不運だなアと思う。
周作 じゃア随分自信があるんだね。
エミ ええ。自信があるし、迷っちゃいけないと思うの。
周作 消える人は不運だといっても、消えるだけの理由があるんじゃないかな。
ユミ あると思います。
エミ 勉強が足りないこともあるかも知れないし、はたしてその道が合ってたかどう
   か……。

周作 きみたちは幸運によって障害を乗り越えてきたけど、消えていった人が地方の
   ちいちゃな町のキャバレーでうたったりするのを見ると……。
エミ ええ、耐えられない。
ユミ つらいです。
エミ 残酷な世界。すごく残酷。きびしい世界だなアと思う。一緒にいた人が沈んじ
   ゃって、安キャバレーでうたったりしていると、つらいなア、だけど、歌が捨
   てられないんだなアと思いますね。
ユミ それを自分と置換えてみると、ゾッとします。でも……。
エミ でも、二人いるから気が強い。
周作 そうか、一人で悩みを背負わなくて済むからな。今あせってる?
エミ あせってません。去年の初めはあせってました。今は、今年は十一年目だ、や
   るぞっていう感じ。
ユミ よオしって思ってます。レコードが売れなくたって立派な仕事をやってればい
   いけど、いまはレコードの売れ方で人気をきめられる世の中だから……。
エミ やっぱり売ろうと思う。

フクソウを見ようか

周作 結婚はどうするの? もうそろそろ婚約しますか。
エミ ユミ まだそこまでいってない。
周作 でも、結婚したいっていう気にはなってるんでしょう?
ユミ それも去年いちばん悩んで……。
周作 歌のほうのわかれ道でもあったし、女としてのわかれ道、つまり更年期に当っ
   たんだよ(両嬢大いに笑う)。悩んで二人で話合った?
ユミ 歌をやめて、女性である以上、結婚しなきゃ……。
エミ しあわせじゃないんだっていう方向にいきそうだったんです。気はすごく若い
   んですけど、年は争えないから。

周作 年のことをおれの前で言うてくれるなよ(笑う)。
エミ 二人になると、そのことばかり話合ってました。
ユミ 大勢いるときはキャアキャアいってるけど。
周作 でも、ふつうは一人で悩まなきゃならないのに、きみたちはもう一人の自分が
   いて話合えるんだから、しあわせだよ。それで結論はどうなったの?
ユミ 結婚しても歌を捨てなくてもいいような人が現れれば……。
エミ まだ現れないけどね。でも、ふたごだということで、男性が遠慮しちゃうかし
   らん。
ユミ 身を引いちゃう?(両嬢笑う)
周作 きみたちが結婚して、もしふたごが生れたら、別々に生活させますか。
エミ ええ、します。。
ユミ あたしたちの場合は仕事が仕事ですからよかったと思うけど、ふつうの人だっ
   たら離れて暮したほうがいいんじゃないかと思うんです。

周作 そのうち、いい男性が出てきますよ。結婚がきみたちの救いになるかも知れん
   な。
エミ ええ、いつか現れますよ。
ユミ うん。一人がしあわせになれば、片方もしあわせになるもの。
エミ 絶対にそうなると思う。
ユミ 手相にね。今年は大恋愛する相が出てるんですって。
エミ あたしにも出てるんです。
周作 ぼくは手相ではなく、フクソウを見るがね。見てあげましょうか。
エミ フクソウ? 見てください。
周作 じゃ、おなかみせろ。腹の相だ。
エミ ユミ いやッ。いやアだア。

週刊朝日(昭和44年1月17日号)記事


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