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恋のオフェリア   1968.02
   作詞:なかにし礼 作曲:宮川泰 編曲:宮川泰
   演奏:レオン・サンフォニエット

   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★ ★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

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私の中では、ベスト1、2を争う、とっておきの大好きな曲です。
どこがどうという分析など自分にとっては意味がないほどメロメロに好きです。
それでも何でそんなに好きなのか、という説明は出来そうです。

1.歌詞がいい
  なかにし礼さんがザ・ピーナッツに歌わせたい詩というのは幻想ロマンだと思う。
  生々しくないドロドロしていない、儚いような実在しないような夢の世界。
  そういう感覚があると思う。具体的でなく、どこか映画の一場面や絵画のように
  現実とは違うけど感情だけがあるようなバーチャル感覚が感じられます。
  トイレに行ったり、エッチなことをしたりはしないザ・ピーナッツなのであって、
  実像ではない虚像の夢幻の純粋無垢な世界を描いているように思えてなりません。
  その別次元へ離脱してしまうような感覚が私は気に入っています。
  なかにし礼さんがそういう詩を得意というのではなくてザ・ピーナッツの世界を
  ピーナッツだから、そのように定義付けている表現力の幅広さを感じるのです。
2.作曲がいい
  岩谷時子さんとのコンビでは曲が先に出来て、というようなケースもあったよう
  ですが、この曲はどう考えても詩が先だろうなと感じます。
  ♪幸せが大き過ぎて さよならを信じられず 
  という歌詞を宮川泰さんが口ずさんだ途端に自然に出来てしまったような、
  もうこのメロディーしか浮かばないでしょうというぴったりの曲が出来ている。
  詩が曲を引きずり出したようでもあり、また、お二人がお互いを凄い人だな〜と
  感心してしまったようにも思います。天啓の妙作でしょう。
3.編曲がいい(1)
  宮川先生はプロのアレンジャーではありますが、プロだったらこういう編曲は
  あまりしないのではないか、気恥ずかしくなるのではないか、というくらいに
  ストレートにこうやりたいのだということを丸出しにしている感じです。
  チェンバロ・ソロの導入から主旋律を加工したイントロのストリングスの流れは
  ミエミエの手法であり、そこにこの上なくダサいドラムのリズムが拍子をとり、
  もうほとんどチンドン屋の世界に近いのであります。
  しかし、そこがたまらなく私には愛しいのです。よくやってくれました。
  これでいいじゃないですか、これがいいじゃないですか。
4.編曲がいい(2)
  全編これバリトンサックス協奏曲といってもいいくらいに大活躍させています。
  ああ、いつもこの楽器はこういう音を鳴らしていて縁の下から支えているのか!
  そういう楽器なのに、そういうパートなのに、なんで主役にさせたかったのか、
  それがどういう効果を現わすのか、その答がここに聴けます。
  まあ、なんと素晴らしい音楽になってしまったことなのでしょう。
  こういうアレンジはあまり聴いたことがありません。これは画期的かも知れない。
5.歌唱がいい
  世界一のユニゾンを誇るのがザ・ピーナッツであることを再認識させる歌声です。
  ハーモニーを付けるのが勿体ないという感覚でしょうか、宮川先生は時々やる。
  ハモらないピーナッツなんだけど、それだからこその凄みが出ています。
  これでもかこれでもかと畳みかけ積み上げるような
  ♪それはあなたを想う私のまぼろし
  こういうところではかなり切なさが強調されて素晴らしい効果を上げています。
  それでいて、歌声は出来るだけしつこさ、脂っぽさを捨てて、ギトギトしない
  水彩画のようなしなやか感覚で歌い上げていて、これぞ、ピーナッツという感じ。
6.録音がいい
  最後の歌と演奏の同時録音、最後の真空管録音、最後の2トラック録音、実際に
  そうであったかどうかなど問題ではなく、そういう良い時代の響きがあるのです。
  この空気感。残響の混じり方、とにかく音が美しい。これが得難いのです。
  装置がいくらグレードアップしても、それが美音と結びつくわけではないのです。
  技師の耳とセンスとキャリアの問題。ピーナッツのレコード作りのノウハウを
  よくわかっている方がサポートされていることが手にとるようにわかります。
  歌手によって、施すテクニックが、すべて違って当然じゃないかと思います。
7.B面がいい
  なんてたって「愛のフィナーレ」がB面ですぞ。超豪華なシングル盤です。
8.ジャケットがいい
  あらゆるピーナッツのシングル盤の中で文句なしのダントツでしょう。
  こういうピーナッツのお姿が最高です。
  これで、最後に、
  ♪いつまでもあなたを待ちわびる 白い姿
  「白い姿」ということばが耳に残り、胸に刻み込まれます。
  それはジャケットのせいでもあるのかもしれません。
  だから、いつまでも、私は、ザ・ピーナッツが忘れられません。

この「恋のオフェリア」はテレビでもけっこう歌っていたと記憶しています。
残念なことに、あのチェンバロの独特の導入部がなくてサックス隊が弦のイントロを
代用して演奏しておりました。それも違ったノリで悪くはなかったのではありますが、
やはりレコードのこの良さとは違うので、ビッグ・ヒットにはなりませんでした。
それと不遇といっては大袈裟かも知れませんが、この歌はLPには入りませんでした。
ずっと後年のベスト盤には入っているのかも知れませんが、現役時代にはありません。

それだからこそ、今も繰り返しリリースされている「ザ・ピーナッツ全曲集」CDに
これがリバイバル的に入っているのは、とても嬉しいことです。
この一枚もののベスト盤にシングル裏表2曲が入っているのだから、やったね、です。
「恋のオフェリア」を入れた担当者。あなたはえらい! センス抜群です。
ザ・ピーナッツ自身も、これ、忘れちゃったのでは? と思うくらい、主要な歌には
なっていなくて、さよならコンサートでも歌われず、「不滅のザ・ピーナッツLP箱」
にも収録されなくて、なんで、どうして、と情けない思いをしました。

一般的な大衆と自分との好みが違っても全然へいちゃらですが、ザ・ピーナッツが
好んで歌いたい歌や、スタッフの思いのこもった歌の方向が自分と違ってしまうのは、
なんともやりきれない思いがありました。
だからこそ「ザ・ピーナッツ全曲集」CDにこれが入っていることは大喝采なんです。
年月が逆にこれを再評価したと思えるのです。
そりゃもう絶対にこれは名曲だと思うのです。そうでしょ。そうだよね。



さて、「恋のオフェリア」にはまた違うアレンジのバージョンが存在します。
それが、これです。

<恋のオフェリアのライナー>
 シェクスピアの代表作「ハムレット」より。
 ピーナッツ・ヒット・ナンバーのひとつとしてみなさんご存じの歌です。
 狂おしい自分の恋心をハムレットを愛し、そして結ばれずに死んでいったオフェ
 リアの白い姿にたとえて歌った女心。
 作曲の宮川泰はこの名作シリーズのLPのためにオーケストレーションを新たにし、
 文学的な香りを高めました。


  1968.12  演奏:オールスターズ・レオン
 ピーナッツ・ゴールデン・デラックス《デビュー10周年記念盤》
 第4面 《ピーナッツ・ディスク・リサイタル》世界名作シリーズ
 CD:恋するピーナッツ!〜Love You Peanuts〜

   


こちらの再編曲版は荘重な響きで、いかにも名作だなあという感じにvす。
この世界名作シリーズでは中村八大、すぎやまこういち、中村五郎各氏と共同制作で
従来にはない新しいザ・ピーナッツの可能性にチャレンジしているのです。
歌謡オリジナル曲の伴奏にこのような大編成のオーケストラを使うこと自体も奇跡的。
各氏が壮大な構想でフル・オーケストレーションを競っています。
中でも中村五郎氏は一曲だけですが、唖然とするばかりの凄まじい豪壮な響きです。

このシリーズを初めて聴いた時、この感じは過去にも既に体験したように思いました。
それは小学生時代に見た手塚治虫のマンガそのものでした。
自分のレベルより高度なのです。子供向きではあっても、もっと凄い何かが含まれて、
まだ十分には理解出来なくても知識欲が湧くような、もっと自分の水準を上げたいと
痛感するような、そういう未知の世界、知性の昂揚を促す何かがそこにありました。
これは当時の大馬鹿な主婦連とかいう最低知性の愚衆集団が手塚漫画排斥運動などと
いう自分達の大間抜けさを天下にアピールするような行為を見ていて、子供心にも
あのような集団的ヒステリーの仲間に入るような愚かな人間だけにはなりたくないと
痛感したものでした。

集団や組織というものは知性を喪失した本当にとんでもない方向に向かうことがあり、
それは身近な流行の世界にも顕著に顕われてきます。
昨今の壊れているとしか思えないような流行音楽が何百万枚も売れるのも操られて
いる大衆という感覚を抱いてしまいます。(全てがそうだとは思いませんが)
ザ・ピーナッツの世界にもそういう区切りがあるように思えます。
歌手活動は営業面としても成立していなければ、その存続自体、危うくなります。
したがって大衆迎合路線は常に維持した上でアーティストとしてのチャレンジにも
挑むことが車の両輪にも喩えられようかと思います。

ですから、ヒット・ナンバーだけに傾聴していてはザ・ピーナッツの半面しか味わう
ことが出来ず、これは大変に勿体ないことなのです。
そんなことはない、まず、ヒットした歌は中でも良いものだったからではないのか、
という考え方もあると思いますが、ずっと彼女らの歌を追いかけて聴いていますと、
流行ったのではなくて、流行らせた、という面を強く感じるのです。
それはプロダクションの強力なバックアップであって、例えば「恋のバカンス」は、
バカンスという言葉をひっくるめて、あの手この手で凄まじい強引さで社会的流行に
まで持っていってしまい、歌は世につれ、世は歌につれ、みたいに流行らせちゃった。

もちろん「恋のバカンス」は名曲です。名曲ですが、ザ・ピーナッツのその他の今は
埋もれてしまっている多くの歌に比べて飛び抜けて凄いということはないのです。
言い直せば、恋のバカンス級の歌はピーナッツにはゴロゴロ転がっているんです。
この世界名作シリーズ自体、その存在を知る人も絶え絶えになっててしまってます。
流行るという要素があるようなシリーズでは元々ないのですが、音楽的にも高水準で
趣味性の豊かな、この存在がこのまま埋もれたままというのも残念なことです。

幸いにも過去にこれはCDで復刻はされております。
しかし、昨日発売された「大怪獣モスラ」のDVDリリースでも言えることですが、
LDに付属していた膨大な資料写真や特撮に関する情報、楽曲についての解説などの
わくわくするような長大な文章掲載が無くなってしまっています。
こういう面がDVDはLDに及ばない、非常に残念なところだと思います。
全く同じことが、LPとCDにも言えることなのです。
この2枚組LPはザ・ピーナッツ歌手活動10周年を記念して御祝儀的に作られた
豪華なLPなのであって、収録された作品群はいわば特別製なのです。

音楽だけあればいいじゃないか、音楽が総べてを物語るのだから、とも言えますが、
しかし、この30センチ四方12ページから受ける視覚と情報のインパクトがあって、
その上に名作シリーズの音楽が流れれば、その悦びは比較にならないと感じます。
アナログ対デジタルの比較評価以前の問題だなあと思います。
なんとかあの思いのこもったLPの世界を再現出来ないものでしょうか。
CDでは世界名作シリーズのオリジナルなのだよということすら触れていないのです。
アナログを再現せよ、という要望はしませんが、せめてどういう環境の基に作られた
楽曲なのか、という丁寧な紹介が必要だと思います。
ザ・ピーナッツそのものの解説をしなきゃならない面があるのも時代だから、それに
まず重きを置くのは仕方がないことなのでしょうか。無念ですね。


ご支援者の方から「愛のフィナーレ/恋のオフェリア(BS-778)」が収録された
関係業界向けと思われるサンプル・レコード(非売品)を頂きました。
レーベルの赤色スタンプを見ますと、昭和43年1月19日の日付で文化放送の
レコードライブラリーに収められた品物のようです。
このような試供品レコードは他でも見たことがあり、これ自体は珍しいといった
類いの代物とは言えないとも思います。

ところが、録音された楽曲を聴いてびっくりしました。
私も皆様も聴き馴染んだバージョンとは大きく異なるからです。
恐らく、これが未発表バージョンとして聞ける機会はないだろうと思いますので、
下記をクリックして聴いてみて下さい。

http://peanuts2.sakura.ne.jp/gentei/KOINOOFE.mp3

1.まず、真っ先に気づくのは、歌詞が違います。
2.次に、イントロなどのチェンバロのメロディーが違います。
3.その他の演奏は違いが判りません。

以上のことから、この楽曲はマルチトラックで録音されたものと思われます。
したがって、歌唱とチェンバロ演奏は後で付加されていたものと推察出来ます。
何故、この別バージョンが存在したか?
ここからは想像で書きます。根拠はなにもありません。

恐らく、現在一般的に聴かれるバージョンの方が私は優れていると思いますので、
一旦は完成したものの、更に改善を行ったのではないかと私は思います。
歌詞はサンプルレコードではわりと客観的であり、切迫した思いが希薄なのですが、
商品化されたそれは切なく胸をしめつけるような思いに溢れております。
歌詞のインパクトは大きく異なり、断然、後者が素晴らしいと私は思います。

右隅に置かれていたチェンバロも中央で導入部を奏でていて、このメロディーも
サンプル版より洗練されていると思います。
一方、愛のフィナーレはサンプルも全く同じバージョンでした。
サンプルレコードを放送局などに配付してからも、なお改善を行うということは
更に良いものをファンに届けたいという思いなのであろうと私は思います。

サンプルレコードでは、レコード発売は、昭和43年1月20日となっています。
一方、メモリーズBOXのブックレットの資料では、昭和43年2月1日です。
急遽、ギリギリのスケジュールで再録音を行ったのではないかと思われます。
この判断は誰が行ったかわかりませんが、適切な英断だと思います。
この曲を私は大好きなので、良くやったと賞賛したい思いです。

そして、興味深いのは、「愛のフィナーレ」が当初予定ではA面だったようです。
勿論、こちらも大変な名曲でありまして、とてもB面扱いする楽曲じゃない。
こんな凄いカップリングは稀なことだと思います。
サンプルレコードの曲名が「オフとリア」となっていますが、手書きで修正され、
「恋のオフェリア」となっています。オフェリアという原稿だったのかも?

いずれにしても、この旧バージョンと思われる録音を発掘してデジタル商品化を
行う必要はないのではないかと私は思います。
それほど現行の「恋のオフェリア」の完成度は高く、惚れ惚れします。
研究材料としての資料価値はあるので、興味の対象としては貴重です。
レコード盤もキズ一つ無く、レーベル面の通称「ヒゲ」という痕跡も10本以下。
殆ど新品といって良い貴重品でしょう。

(2010.12.22追記)