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好きな好きな人   1963.09録音
 (未発表曲)
   作詞:岩谷時子 作・編曲:宮川泰 演奏:記載なし

  

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★ ★★★★ ★★★★★

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2006年3月21日、宮川泰先生が虚血性心不全で急死されました。
この同じ時代に一緒に生きているというだけでも幸せを感じておりましたのに、
まだ75歳という若さでお亡くなりになるなんて、本当に残念です。
ただ、全然お苦しみの様子などなく、眠ったままあの世へ旅立たれたご様子で、
きっとロマンティックな夢でもみながら昇天されたのだろうと思うと、大変に
お幸せな最後だったのかも知れません。それだけが私たちの心の救いとなります。

追悼番組などもこれから逐次放送されると思いますが、宮川さんが愛されるのは
音楽面よりも、あの面白いトークが人気を呼んだのではないかと思います。
テレビやマスコミなどというものは、そういう本質的ではない一般ウケの部分が
重要な要素なので、作家としての魅力などは二の次という感じがします。

宮川先生も、視聴者にわかりやすいようにお話を単純化されていたように私は
感じておりました。
「恋のバカンス」があたかも最初のオリジナルであったかのように周囲も本人も
番組の構成の都合に合わせて事実をシンプルに変貌させてしまうのでした。
ここのサイトに来られた方には、すぐに一目瞭然にわかってしまうことなのですが、
最初のレコーディング・オリジナル曲は「あれは十五の夏祭り」なのです。
次いで「山小屋の太郎さん」。どちらもニッポン放送のザ・ピーナッツ今月の歌。
この今月の歌は毎月、新曲を岩谷時子さんと作ったので、たくさんあったのです。
たまたま、良いタイミングで世に出せるきっかけがあったのがこれらの曲であり、
他にも良い歌がい〜っぱいあったのですよ。

「スクスク」を流行らせるタイミングで、夏だからスクスク音頭として世に出、
「山小屋の太郎さん」は、NHKテレビ歌謡「いつも心に太陽を(中田喜直)」の
B面曲にちょっど良かったからリリースされたのだと思います。そうでなければ
このような歌は常識的にレコード商品にはならないものだと思います。
あの「ふりむかないで」もニッポン放送のザ・ピーナッツ今月の歌なんですよ。
この番組のテープ録音が残っていれば、それは名曲の宝庫だと私は信じます。

面白いのは上記の全ての曲がラジオで放送したアレンジとは全く違うことです。
宮川先生というのは一つの発想にこだわらず色々な可能性にチャレンジする方で、
これが絶対だというところにはなかなか到達しないのかなと感じます。
先日のラジオ番組でも昔のトーク録音を流していましたが、「恋のバカンス」での
最初の感じをピアノで弾いてくれました。それはスローテンポでの巡回コードで
ニールセダカの「君こそすべて」みたいな雰囲気を持っていましたが、渡辺社長が
それじゃありきたりでつまらない、スゥイング調でやってごらん、と、その場で
直したのが大成功の秘密だったと言っておられました。

先日のNHKテレビでの追悼番組で、服部克久さんは、人気者が亡くなったという
見方じゃなく、数少ない本物のプロ作家が他界したという事実をもっと皆さんが
意識して欲しいと生真面目な口調で言っておられたのが印象的です。
宮川さんの良さをもっと再認識してほしいということなのですね。そうでないと
故人が浮かばれないという意味なんだと感じました。

私はオーケストレーションの技という点では宮川先生が最高だとは思っていません。
しかし、なにをどうしたいのかが実に良く素人にも伝わるアレンジであり、そこが
大きな魅力なんだろうと思いますし、「宇宙戦艦ヤマト」のテーマ曲などは壮大で
かつ音楽的サービスが山盛りのご馳走で、よくこれだけ豪勢に編んだものだなあと
溜息が出るほどの隙間のない重ね織りがされています。
レコードと同等に演奏されたものを私は見聞きしたことがありません。どこかの
パートが(スキャットだったり、電子音だったり)抜け落ちてしまうのです。
これはコロンビアの録音技師は大変だったろうなと思います。

アレンジ面では上があろうとも、メロディーメーカーとしての宮川先生は天下一品。
これは好き好きなので、あくまで私がそう評価するだけであり、異論は許します。
とにかく私的には「当たり外れがない」。全部が全部、名曲なんであります。断言!

この曲も、ザ・ピーナッツ後援会会報では新曲として紹介されていました。

しかし、とても世の中の大衆が積極的に買い求めたいという衝動を起こす作品とは
思えなかったのでしょう、未発表でお蔵入りとなった曲です。
「ザ・ピーナッツ・ドリーム・ボックス」という10枚組のCDアルバム企画で
マスターテープの発掘となったのだと思いますが、本当に良いお仕事だと感じます。
世の中で流行った曲だけが良い歌とは限りません。
何百万枚売れようが、つまらない曲も最近はやたらに多いようにも感じます。
この曲は少なくとも、ザ・ピーナッツ・ファン、宮川泰ファンには必聴なんです。

反論覚悟で書きますが、宮川先生の音楽について語ろうと思うならば、何をおいても
まず、ザ・ピーナッツの全曲を聴かなくては、何もわからないことになるでしょう。
ものには順序があります。本末転倒にならないようにしたいものです。
宮川先生は絵書きになりたかったそうです。大変な腕前であったようです。
実は私も画家になりたかったし、学校の先生もその道で生きていけ、と言いました。
しかし、私は絵を描くのに凄いエネルギーが要るので辛いから逃げました。
高校の時、美術クラブを辞めると言ったら先生に殺されるかと思う程叱られました。
これから、余暇ばかりですから、また書いてみようかと思っています。

亡くなった宮川先生のお部屋には描きかけの水彩画があったそうです。
この曲は、まさに水彩画の味わいがあります。これからは絶対に作られない曲調です。
こういう歌を残す事が出来ただけでも、昭和は素晴らしい時代だったと思います。
(2006.4.6記)