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スク・スク・ドール   1961.08
  作詞:青島幸男 作曲:中村八大・宮川 泰 編曲:宮川 泰
  演奏:シックス・ジョーズ
  ●スクスクの踊り方を見る
   

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★★★ ★★★★ ★★★★★

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この作家の組合せは、坂本九さんの「明日があるさ」でお馴染みではありますが、
青島幸男さんが作詞したザ・ピーナッツの唯一の曲であり、中村八大さんの作曲も
多くはないので、極めてレアな曲でもあります。
ザ・ピーナッツの「ふりむかないで」が、J−POPの元祖と言われることが多く、
ヒットした曲の中では、という但し書き付きでは確かにそうなのかも知れませんが、
時期的には、この曲などは、最も早期の国産ポピュラー曲なのかも知れません。

ザ・ピーナッツ初めてのオリジナル曲はNHKテレビ歌謡「心の窓にともし灯を」
なのですが、これは文部省唱歌みたいな範疇であり、宮川泰さんの作曲第一号でも
ある「あれは十五の夏祭り」は「スク・スク・ドール」のA面曲ですが、こちらも
古くからある日本調歌謡曲の形式なので、ポップス系の最初のオリジナルといえば、
この「スク・スク・ドール」になると思います。

これからはオリジナル曲を..という考え方は、まだこの時期にはなかった筈なので、
このオリジナル曲の組合せは、そうせざるを得ない背景だったものと思われます。
今回、同時にアップさせた「スク・スク」にも書いた渡辺プロダクションの作戦で、
とにかく「スク・スク」ブームを巻き起こそうとしたと思われますが、スク・スク
のリズムというものはナベプロ・オリジナルなので、スク・スク以外には曲がない。
なければ作ってしまえば良いという結論になったのでしょう。

日本では何でも流行物は「音頭」ですから、
「宮ちゃん、ラジオ放送で評判になった、あれは十五の夏祭り。あれ、スクスク音頭
ということにしてリリースしようか」
「ええ、再放送のリクエストがいっぱい来てるってニッポン放送が言ってましたけど、
あれでスクスク踊るのですか?」
「いいんだ、いいんだ、盆踊りもスク・スク踊りで盛り上げればいいんだから」
「あとはB面だな。青ちゃん、なんかアイディアない?」
「え〜ブームってことになると、マスコット人形なんか、いいんじゃないでしょうか」
「うん、スク・スク人形か、流行ればそういうものも出てくるかも知れないな。
 じゃ、青ちゃん、早速、詩を書いて、宮ちゃんは作曲して」
「そ、そんなすぐには出来ませんよ。作曲なんて始めたばかりだし……」
「しょうがないな。じゃ、八大さんに電話して作曲頼んでみるから、編曲は頼むよ。
 青ちゃん、詩を一緒に練ってみようか」
てなことで(もちろん、全部フィクションですが:笑)このカップリングが生まれた
のではないかと想像する次第です。

子供たちを中心に世間では「モスラ〜ヤ、モスラ〜」が映画音楽史上空前の大ヒット。
ところがこれはあくまで映画の中の音楽ということでレコードは出さない矜持の高さ。
おまけに「シャボン玉ホリデー」の放映が始まったばかりで、こっちでも大変な時期。
もう次のスーダラ節作戦など始めていたので、スク・スク人形にかまっていられない。
ザ・ピーナッツ人気は揺るぎないものになったし、スク・スクのレコードはバカ売れ。
この「スク・スク・ドール」のヒットなど、もう全然、必要がなくなってしまった。
そういう感じではなかったでしょうか。
時代考証はそんなものでしょうが、ラジオからはA,B面とも結構流れていました。

曲そのものは屈託がない可愛らしさで、やたらと明るく脳天気なハッピー・ソング。
こんな感じで世の中生きていけたら本当に幸せだよなあ、という楽しさいっぱいです。
作曲も作詞も苦労した様子は微塵も感じられない。あっという間に出来た感じです。
さりげないけど才能というものが滲み出ているなあと思います。
さて、アレンジの宮川さんなんですが、この先生はご自身の作曲でない場合は派手に
何かをぶちかまそうと企てる性癖があるようで、ずっと後年の恋のフーガの驚天動地
のアレンジに似た響きがのっけから始まります。

♪ギーコ、ギーコ、ピコピコドン なんてイントロですから、何が始まるのかこれは、
という調子で、恋のフーガの、ジャージャ、ドコドコドン、といい勝負。
「栴檀は双葉より芳し」という諺通りのことがここでも顕われていると感じます。
このドコドコドンとか、タカタッタ(恋のオフェリアで多発)というリズムパターン
はどうも日本的なんであって、お祭りの太鼓なんじゃなかろうか。
これは決してグローバルな音楽には似つかわしくないけど、聴く私達は日本人なんで
これでいいんですよ。他人が聴くのなんかどうでもいい、私が聴くんですからね。
宮川サウンドの隠し味じゃないかと睨んでいるんだけど、違うかな?

録音がこれまたいいんだ。所謂、最近の録音のような解像度の高さとか明晰感との
比較じゃ歩がないのだろうけど、この時代ならではの音色の良さが絶対にあるんです。
演奏はA・B面ともシックス・ジョーズですが、楽器を楽しそうに持ち替えています。
A面はドラムが和太鼓で、宴会でもやっているような楽しさ。ノリ過ぎて、出だしの
太鼓のレベルがやたらに大きい。ちゃんとリハ通りにやってくださいよ、テープが
サチっちゃいそうですから、なんて、2番、3番ではレベル下げられてます。(笑)
宮川さんはピアノほっぽり出して、アコーディオンとかオルガンやってます。

ピッコロは応援が入ってます。サックスと同時には吹けません。それと打楽器の応援、
これは例のスクスク楽器が登場。定番となっているようです。

コンボ編成の演奏ですからスケールは小さいはずなのですが、空間上の響きは充分で
物足りなさは皆無です。音楽が充満しています。達者なバンドだとこうなるのです。
録音は、2トラックの最少単位でしょうし、マイクも数は極めて少ないはずですが、
それだからこその澄んだ素晴らしい響きが感じられます。
他の歌手の録音はまだまだモノラルが主流なのですが、ザ・ピーナッツに関しては
もう既に一年以上のステレオ録音のノウハウの蓄積があります。これが強みです。
むしろステレオ録音が当たり前になった時期よりも先行して行っていた頃の録音が
私はお気に入りです。音色を聴くだけでも、この曲の存在価値があるというものです。

どんな小さな音でも拾ってしまうコンデンサー・マイクロフォンが駆使されている
感じなのですが(マイクというものは当時から高性能で最新のものと比べても遜色が
ないらしいのです)、録音にあたっての緊張感という感じはなくて、演奏者全員が
とても楽しく面白くやっているような雰囲気が吹き込まれています。
気心の知れたシックス・ジョーズという環境もあると思いますが、皆でエンジョイ
していて音も声も実に伸びやかで畏縮した面がなく、楽しい楽しい盤となってます。
(2006.6.2.記)

日本音楽著作権協会(JASRAC)の最新の登録に合わせ、中村八大作曲を
中村八大・宮川泰作曲へ変更しました。
(2006.7.22追記)