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♪しあわせの花を摘もう    1967.05
 NHKTV「夢をあなたに」より
   作詞:塚田 茂 作・編曲:宮川 泰
   演奏:オールスターズ・レオン
    

一般知名度 私的愛好度 音楽的評価 音響的美感
★★ ★★★★★ ★★★★★ ★★★★★

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宮川泰さんの作風のひとつに健康歌謡路線というような清々しい曲調があります。
昔風にいうと文部省唱歌に指定して学校の教科書に載せても良いような、実際に
教科書にも収載された楽曲もいくつか含まれています。

 山小屋の太郎さん  (作詞/岩谷時子) ザ・ピーナッツ
 二人の高原     (作詞/岩谷時子) ザ・ピーナッツ
 白い雲に胸はって  (作詞/岩谷時子) 鹿内タカシ
 若いってすばらしい (作詞/安井かずみ)槙みちる
 幸せをつかもう   (作詞/竹内伸光) 歌手不詳
 銀色の道      (作詞/塚田茂)  ザ・ピーナッツほか
 しあわせの花を摘もう(作詞/塚田茂)  ザ・ピーナッツ

この系図は古くは「青い山脈」や、中村八大さんの「明日があるさ」のように、
誰もが安心して口ずさめる健全さにあると思われるし、宮川先生ご自身もご自分の
代表曲として「若いってすばらしい」をあげているし、著書のタイトルにも選定し、
もっと愛好してもらいたい旨の発言もされていらっしゃいました。
そして上記の曲以外にも、ほぼこれに近いイメージの作品も含めれば、もっと数も
多くなると思われ、あまり屈折しない大らかさが作品の基盤になっているようです。

ご自身も「ウナ・セラ・ディ東京」などはメロディーが暗く、作っていて、どんどん
哀しい気持になってしまうので、あまり好きじゃなかったそうですが、岩谷時子さん
の詩に救われた感じがあって、美しく仕上がったと感心しておりました。
歌謡曲というものは、その楽曲の規模が極めて小さいが故に音符の数も少ないため、
これで作曲家の特質を表わすことは大変だと推察するのですが、名曲ともなりますと
ちゃんとその個性が表出されているのだから面白いものです。

先頃亡くなった羽田健太郎さんは著書の中で、次のような言葉を述べられている。

 アニメのテーマや子供番組の音楽は、世代を超えて愛される要素を持っている。
 それは第一に「わかりやすいメロディー」であるということ。実は、作曲家の立場
 からいうと、これがいちばん難しいのである。難解で高度な技法を使った曲を作る
 ことは、作曲家にとっては以外と得意なことなのであるが、わかりやすくてシンプ
 ルで、しかもオリジナリティがある音楽を作ることは、たやすいことではない。

この文章は別に宮川さんとの交流を述べた箇所で使われているわけではないのだが、
無関係な箇所だからこそ、これは宮川作品讃歌になっていると私は思うのだ。
宮川さんの音楽は実にシンプルだ。どこにも無理が感じられない。
この「しあわせの花を摘もう」もそうだ。実に単純で流麗そのものである。
全くヒットもせず、話題になったこともないが、私は大好きだ。

今度は宮川先生の著書から、引用してみよう……

 前にある番組で伊東ゆかりちゃんと中尾ミエちゃんに「宮川先生はいい曲が出来る
 とみんなピーナッツにあげちゃって、アタシたちに書いてくれる曲は売れないのよ
 ね」なんて言われちゃったんだけど、つくるときは「いい曲をつくるぞ!」「絶対
 に売れる曲にしよう!」って頑張ってるんですよ。なのにこっちの意図とは裏腹に、
 なかなかヒットにつながらないことがある、っていうより僕のつくった曲のほとん
 どがヒットしていないんです。
 よくインタビューなんかで「宮川さんはたくさんのヒット曲をお持ちで……」なん
 て言われるんだけど、そんなことなくて、せいぜい10曲か20曲ですよ。だから
 僕のつくった曲のほとんどが売れなかったことになるわけで、ゆかりちゃんやミエ
 ちゃんにはホントに申し訳なかったと思ってます。でも、頑張ってつくったのよ!
 ホントに……。

まさに、この通りなのだ。
宮川先生の作った曲は、ほとんど流行することはないのであった。
私はその全てが大好きであるし、知らない曲も絶対に素晴らしいと確信している。
ようするに、私以外の人類の大半は音楽の良さがわからないとしか思えないのである。
宮川先生のファン・サイトに書き込みをしている連中にしてからが、何も知らないで、
ヤマトの音楽ばかりにしか興味がなさそうなのだ。ブームにしか乗っていないのだ。
宮川先生の本質は最初の作品である「シャボン玉ホリデーのテーマ」であるのだし、
「あれは十五の夏祭り」にあるんだ。そんなこともわかっていない。
流行ったものでしか評価していない。結局、何もわかっていない連中なのだ。
宮川先生のファンです、なんて聞いて呆れる。なにを寝惚けているんだ。

この感覚は他人とは共有不可能なものだと思える。
恐らく私が発狂しているのか、他人が大馬鹿者揃いなのかの何れかであろう。
多勢に無勢なので、私が狂っていると思われるに決まっている。それでいいや。
同じことが、ザ・ピーナッツでも言える。
私はザ・ピーナッツが世界最高の歌手だと「本気で」信じている。
ザ・ピーナッツもいいけど、○○もいい、なんてことは断じてない。
これも判断基準が狂っていると思うなら思わせておくだけである。害は無い。

この「しあわせの花を摘もう」を歌っているザ・ピーナッツは既に26歳であった。
この少女趣味ともいえる曲調を流行らせるには無理があるとも思える。
ジャケットの大人の女性のエレガントな写真とも明らかにミスマッチなのであった。
だが、この年齢不詳さがザ・ピーナッツのアイデンティなのであってこれで良いのだ。
26歳で、この歌を歌って違和感がないことが素晴らしいのだ。
こんな歌を歌ってカマトト風に聴こえないのが奇跡的でもあると私は感じる。

以上の評価基準から導かれる結論はただひとつだ。
宮川先生が作って、ザ・ピーナッツが歌っている。これだけでもこの曲は至宝である。
流行ろうが流行るまいが、どうでも良いことなのである。
わからない人にまで無理してわかって頂く必要もないのだ。
たくさんの歌手の話題になった歌を並べて聴いて満足しているのも結構だと思う。
同じような感覚の人の方が圧倒的に多く、話題も共有出来て無難な生き方であろう。
だけど、私から見れば、面白味がなく、平凡でつまらない人達だという感じがします。

ここには「暖かくて、心地よくて、前向きな感動があって、何度聴いても飽きない」
そんな素晴らしい世界が存在します。
これに気付かぬとは、もったいないことだと思う。
とっても素敵な、大推薦の一曲です。
ザ・ピーナッツのレコーディングには一曲の手抜きもありません。どれも全て熱唱。
宮川先生のお仕事も同様。どれもが渾身の力作。つまらない曲は存在しません。
「銀色の道」と「しあわせの花を摘もう」は完全に同等、同価値なんであります。
是非、ここからも、ザ・ピーナッツと宮川先生の世界を満喫して欲しいものです。
自分の耳と感性を信じなければ、どんなジャンルの音楽も自分のものにはなりません。
業界の商売の餌食となっている哀れな存在から抜け出しましょうよ。
(2007.06.09記)