■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
♪深川くずし 1963.01
作詞・作曲:神長瞭月、山口凌雲 編曲:宮川泰
演奏:キング・シンフォネット
録音:1962.10.12 文京公会堂
一般知名度 | 私的愛好度 | 音楽的評価 | 音響的美感 |
★★ | ★★★★ | ★★★★ | ★★★★★ |
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「深川くずし」は名前の通り東京都に現存する町名でもある深川周辺が
歌の発祥の地で、「深川」という歌もあるのでもっと柔軟な感じにして
「くずし」を付けたのではないかしらと個人的に想像します。
(面白いのはザ・ピーナッツのシングル盤・LPともに作詞・作曲者名は無く、
深川地方の民謡といった扱いになっていたのに、その後の調査で判明した
ということでしょうか)
「深川」の歌詞は「猪牙で行くのは深川通い、登る桟橋のあれわいさのさ
いそいそと」というものでメロディーも深川くずしは違います。
当時はおそらく深川へ行くというのは、吉原とかすすき野へ行ってくると
いうのと同じニュアンスで、仕事や用事で行くところじゃない。
現在は深川一丁目と二丁目が地名として残っているが、江戸時代はもっと
広域が深川だったらしい。深川めし、深川丼はアサリが具材です。
深川一丁目には小津安二郎さんの生誕地碑があり、当時は亀住町だそうだ。
あれれ、私の生誕地も亀住町です。私の生誕地は横浜で地名が現存します。
とても狭い地域なのでGoogleMAPですぐわかりますよ。
「深川」も「深川くずし」も端唄といわれる古謡なので歌詞も現在の言葉で
言い直さないと意味が解りにくい。
「深川」の猪の牙で行くなんてのはそのままじゃ何のことかわかりません。
江戸時代の水上タクシーのような小型木造船の舳先が猪の牙みたいなので
猪牙舟と呼ばれていて(広重の絵でお馴染み)それで色街の深川へ行く時の
浮き浮きした気分を歌っているので、いそいそととなります。
「深川くずし」の歌詞は「丸髷に結われる身をば持ちながら粋な島田や
ほんとにそうだわね、ちょいと銀杏返し、とる手も恥ずかし左褄」ですが、
丸髷というのは既婚女性の典型的な髪形で、島田は未婚女性や芸者さんの
髪形で、象徴的なのは今でも結婚式での文金高島田で継承されております。
銀杏返しは島田結いの中でもより少女っぽい娘さん風の髪形です。
つまり意訳は、嫁に来ないかとか二号さんにとか金持ちに身請けの話が
あっても私は芸事の方が好きなので、といって躱している状態なのかな?
「とる手も恥ずかし左褄」は解釈が難物で、芸は売るが体は売らないと
いう意味だとか書いてるのも見かけますが、そんな露骨な意味ではないと
私は思うのです。私は左右の違いが意味を持つのではなくて、素人女性は
そもそも裾を持ち上げるような着物の着付けをしていません。
だから芸者さんだから足袋も見えないほど裾を引き摺っているわけで、
これは髪形同様に一般女性とは異なることを言っていると私は思います。
深川は江戸の辰巳(東南)の方角にあったので辰巳芸者といわれていて
別名羽織芸者とも言われ華やかさよりも、粋、心意気のような濃い人情が
特色で客筋も職人達が多かったようです。
とくかく江戸は建築、建築、工事、工事が頻繁に行われ物凄い数の職人が
必要で、男ばかり多くて、こういう花街が絶対に必要であったのだろう。
レコード盤の話になりますが、この深川くずしのLP、前奏でのコンガと
いう打楽器の響きだと思うのですが音がビリつくのです。
後年のCDやハイレゾ音源ではそういうことは起きないのでレコード盤で
だけそうなるらしい。中古シングル盤をネットオークションで入手したの
ですが、針を落として聴いたことがないので、こちらは不明。
祇園小唄のレビューでイントロで針が跳んだということを書きましたが、
これも同じLP盤で起きていたんですね〜。
いずれもステレオ電蓄で起きていたので、針溝へのトレース能力が低い
クリスタルカートリッジでは追従出来ない振幅でカッテイングされていた
のではなかろうかと推察します。
ザ・ピーナッツの25センチLP盤は個人的感覚として少し出来が良くない
のではないかと(そんなことはないのかもしれませんが)
現時点では全部CDで聴けるので、盤質云々はもうどうでも良いのですが。
さて「くずし」と言えば「毛遣りくずし」が有名でこれもカバーしています。
http://peanutsfan.net/143.html
毛遣りくずしでは江利チエミさんの歌詞のままザ・ピーナッツも歌ってます。
というか、私はこの歌詞しか世に存在しないと思っていました。
歌詞内容も素晴らしく、あの「今池音頭」も作詩されている高橋掬太郎さん。
江利チエミさん向けに、2番3番を作って全体の完成度をアップさせている。
それまでに存在した毛遣りくずしの世界を一変させたと言って過言じゃない。
今はネット検索で歌詞の違いが見つけられますが、その他の歌詞は下ネタ風
であり、ここに書くのも憚るようなものです。
江戸時代のおおらかさの伝承というのであれば正統派かもしれませんが。
一方、「深川くずし」では先輩江利チエミさんの歌詞を使っておりません。
1番の歌詞はあらゆる歌手の全ての盤で共通のようです。
2番の歌詞はザ・ピーナッツ盤以外には見当たらないのです。
で、出来栄えでいうとザ・ピーナッツ盤が最良ではないでしょうか。
2番の歌詞は「一年や二年はおろか三年先にきっと添われりゃほんとに
そうだわね、嬉しいが、男心と秋の空、でもね……」これ、いいよね〜。
この歌詞はこの録音のために新たに作ったのではないかしら。そんな気が。
今更ザ・ピーナッツの歌唱が素晴らしいなんて書く気はありません。贔屓の
欲目でありますが、最高に決まってると思っているからサイトやってます。
歌唱技術という面では、まあ、ピーナッツならこのくらい歌えるでしょう。
日本人なら普通にみんな歌える感じで歌っています。
深川の風情なんてのは全然感じられません。アレンジの面白さが聴き所。
演奏もなかなかゴージャスで近頃では聴けない大編成で立派なものです。
(2019.01.25投稿)